Dream


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Episode0.7310. 02



その日も警察庁警備局警備企画課には多くの人間が残っていた。カタカタとキーボードを叩く音に時折「ふざけるな!」という怒号が聞こえる。しかしこれが通常運転だ。

「苗字は何時頃上がれる?」

久しぶりに警備企画課に顔を出した降谷は隣の同僚に尋ねる。
苗字はこちらを向くこともせず手を動かし続けて「んー」と考える。

「あと20分ってところかしら」
「早いな」
「降谷がこっちにいると自分の仕事が捗るわね」

暗に降谷の仕事がバディである苗字に負担を掛けているのだと苦情を言われているのだが、それくらいは想定内だ。

「お詫びに夕食をご馳走しようと思ってるんだけどな」

この場合の“ご馳走する”は“奢る”ことではない。正しく言えば“手料理を振舞う”となる。その食材は降谷の財布から出すのだから奢るというのも全く的外れではないのだが。
苗字の家に通わなくなって料理をすることもパタリと止めていた。一緒に食べる相手がないと張り合いがないという苗字の言葉はその通りだった。それをもう一度やってみようと思ったのは、諸伏の味を覚えていたい、そして一緒に美味しいと言ってほしかったからだ。
料理は回数をこなせばこなす程様になっていった。覚えた料理は両手の指の数を優に超えた。そして今では時々苗字の家に行っては降谷の手料理を向かい合って食べるようになっていた。

「……お前ら付き合い始めたのか?」

まさか苗字の家で食べているとは思っていないだろうが、降谷が食事に誘うという光景に先輩がそんな疑問を持つのは当然だった。以前ならそこまで気安い仲ではなかったはずだ。

「「付き合ってませんよ」」

しかし2人は揃って否定を口にする。整った顔を並べて笑うのだ。困惑する先輩には悪いが本当にそうなのだから仕方がない。


■ ■ ■


降谷の料理を二人で感想を言いながら食べ終えたのは数時間前だ。
明るかった部屋の灯りは落とされ、今はその暗さに紛れて2つの重なり合った影が規則的に動いている。食事の時に弾んでいた会話はもう無く、荒い息遣いだけが響いていた。

「名前」

掠れた声は自分でも驚くほどに余裕がない。だがその降谷の下で喘ぐ苗字もまた限界に達しようとしていた。背中に回された彼女の腕に力が入る。それでも爪を立てないのは僅かに残った理性なのか。
職場の先輩に付き合っていないと断言したにもかかわらず、二人がこうして絡み合ったのは一度や二度ではない。もちろん安室透として動いている時は会うことはおろか連絡すらしないことも多い。だがひとたび降谷零に戻ればこうして足繁く彼女の元へ通っている。

「降谷…っ、もう……」

彼女の中が一層締まっていった。思わず舌なめずりをしてしまったが、苗字には見えていない。自分が感じさせているのだというこの上ない悦びに身体が震える。欲望を吐き出した後の気怠ささえ魅惑的なものに思える。

「名前、大丈夫か?」

惜しみつつ彼女の中から自身を引き抜く。隣で動かない苗字を心配して声を掛けるが返答はない。汗で張り付いた髪を拭ってやると蕩けたままの瞳で降谷を見上げてきた。

「大丈夫なはずないでしょ……何回したと……」
「僕はあと2回くらいできるけどな」
「無理無理無理。体力ゴリラ。だいたいねちっこ過ぎるのよ」
「本人を目の前によく言うな」

酷い言われようだが自覚がないわけではない。だがこうやって文句を言うくせに、クツクツと笑って頬を撫でてやると嬉しそうに微笑む苗字の方が余程始末に悪い。

「言っただろう?言葉にできないからその分甘やかすって。ここまですれば二度となかったことにしろなんて言わないだろうし?」

バーボンを名乗って組織の任務を終えた瞬間、今でもふと我に返ることがある。
自分は正しかったのだろうか、と。
仮に組織を壊滅できたところでこの手が汚れている事実は変わらない。その手で彼女を抱くことが褒められた行為でないことは百も承知だ。あの時、彼女の提案を選ぶべきだったのではないか。そこまで何度も考えて、その度に同じ結論にしか至らない自分がいた。
苗字名前を失うことはできない。
降谷の中でただそれだけが真実だったのだ。

「名前」

頬から移動した指で唇をなぞれば、苗字の目がそっと伏せられた。自分のそれを重ねれば再び身体の奥から熱が沸き上がってくるのがわかる。唇を押し付けたまま今度は掌で柔らかい胸の感触を楽しんだ。

「もう無理って言ったのに」

恨めしそうに言う苗字を無視して頂を指で弄ぶ。散々慣らされた身体は些細な刺激にも敏感だ。苗字が足を摺り寄せたのを察してニヤリと笑う。

「まだ欲しいみたいだけど?」

揶揄う間も指で弾いたり掌で揉み上げたりと忙しい。その一つ一つにピクリと揺れる苗字にどんどん欲望は昂っていく。

「なかったことにしてなんて……こんな風に抱かれてもう言えるわけないでしょ」

言葉にできない想いは確かに彼女へ伝わっている。
正しいのか間違っているのかは今でもわからない。わかる日は来ないのかもしれない。それでも今はどんな酒よりも酔わせてくれる彼女に溺れたい。
降谷は苗字の口に舌を割り入れると、全てを食べ尽くすように口内を蹂躙していった。



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