Dream


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Episode1. 02



「ちょっと課長!何で降谷がバイトしてるんですか?」

ポアロを出た名前の行先は本庁だ。入室するなり詰め寄られた課長は面倒臭いという感情を隠すことなく溜息をついた。

「降谷の奴…ちゃんと説明すると言ったのは口から出任せだったか」
「そもそも何で許可してるんですか!」
「潜入捜査の一環で必要になった。許可しない理由があるか?」
「ないです!」

悔しそうに自席に戻る名前に周りから同情の視線が集まる。大きな音を立てて座った名前はまず携帯を取り出し耳に当てる。コール音すらする前に電源が切られているアナウンスが流れ盛大に舌打ちをする。

「苗字、頼むから舌打ちはよせ。美人が台無しだ」

正面に座る先輩は苦い顔だ。その隣の先輩も首肯しているがこんな状況だ。舌打ちくらい許してほしいところだ。

「文句なら降谷にどうぞ!」
「そんなこと言ってもオマエは降谷のバディだろうが」
「バディだからです」

降谷があの組織に潜入すると決まった時、上司から条件が出された。
『受け持ちの案件は継続すること』
『持ち分の仕事を減らさないこと』
『そのためにバディを組むこと』
組織の仕事で潜ってしまうと連絡が取れないことがある。降谷の入る組織は通常の潜入先とは訳が違う。連絡を取ることで彼の身が危なくなる可能性も考慮された。だが動いている降谷の案件を止めることはできない。それならばと上はツーマンセルを取らせることにした。そこで白羽の矢が立ったのが降谷と同期の名前だ。

「降谷がバイトなんて始めたら私の仕事が増えるのに相談一つないなんてあります?」

名前も自分自身の案件を抱えている。降谷のバディだからと言ってその分が減らされているわけでもない。今までも持ち分はいっぱいなはずだった。

「でもお前たぶん全部こなしちゃうだろう?」
「仕事ですから」
「そういうところだろ。降谷が苗字を指名したの」

それだけではなく先輩相手では降谷自身が自由に動きにくいという理由もあるはずだが、この際どうでも良い。問題は目の前の仕事だ。
こんな仕事漬けでは嫁に行き遅れると抗議したのはいつだっただろうか。

「こうなったら降谷より先に昇進してやる…!」
「そういうのも降谷がお前を気に入ってるところだからな?」


□ □ □


嫌な予感は的中した。
降谷が安室透としてポアロで働いているのを見た瞬間からこうなるだろうことは予想できた。
呆れつつも同情してくれた先輩たちが呑みに誘ってくれるのを丁重に断った名前はセーフハウスではない自宅の方に帰宅し、自分の予想がはずれることを願っていた。それが脆くも崩れ去ったのはポアロの閉店時刻を1時間ほど過ぎてからだった。

「ちょっと…待って?」

これが所謂壁ドンか。長身だと様になるなとか妙な感想はきっと現実逃避だろう。見下ろしてくる降谷の視線が冷ややかで心臓が凍りそうだ。残念だが全くときめかない。

「さぁ聞かせてもらおうか。なぜポアロに通っていた?」

名前がもういっそ寝てしてしまいたい気持ちを抑えて仕事をするためにPCを開いた瞬間だった。夜遅いというのにアポ無しの訪問者がインターフォンを押した。ちなみにエントランスではなく自宅玄関前のインターフォンだ。覗き穴から確認するまでもなく名前の携帯が降谷からの番号を表示して鳴っている。
降谷相手に居留守は無駄だと観念して鍵を開けた瞬間の壁ドンだった。

「君の案件でポアロに通う必要のあるものはなかったはずだ。報告書にもポアロの文字はない。ならなぜあそこの常連になっているんだ?しかも『待田ケイ』として」

そうなのだ。これまでポアロに通っていることは誰にも言っていなかった。
そもそも仕事として動くには薄すぎる理由だった。だからポアロに行くのは名前の独断で、場合によっては事後承諾で上を言いくるめようと考えていた。何か出れば報告する。出なければそれで終わり。それだけのはずだった

「きっかけは警視庁から毛利小五郎の調書が盗まれたことか」
「ご明察」
「何か出たのか?」
「いいえ。毛利小五郎は完全な白だった」

そう。毛利小五郎はただの探偵だった。最近事件に巻き込まれることが多いようだがそこに彼との因果関係は見つからなかった。

「それならなぜまだポアロに通っている?まさかただコーヒーがうまいからとか言うなよ」

それならば待田ケイとして通う必要はない。苗字名前がお気に入りの店に通えば済む話だ。待田ケイで通っている以上何かある。降谷がそう考えるのは当然のことだった。

「降谷だって勝手にポアロで働き出したじゃない」
「僕は手順を踏んでいる。課長に聞いてみろ。だが君は完全な独断だろう。今ここでぼくに話すのと課長に呼び出されるのとどちらがいい?」

先生に告げ口されそうな小学生の気分だ。型破りなことを平気でするので忘れがちだが、この男のベースはクソ真面目でできているのだ。どちらがいいかなんてわかりきっている。それを承知で降谷も提案しているのだ。
綺麗な顔が目の前に迫って来る。このシチュエーションは何度か経験しているが、状況が違いすぎる。

「狙いは誰だ」



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