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Episode0. 02



※話の中の事件は原作コミックス77巻収録(アニメ第690・691話)の「工藤優作の未解決事件」になります。


捜査資料を広げた降谷と苗字は揃って腕組みをする。

「こういう場合、苗字はどこから糸口を見つける?」
「まずは確定している事実を抜き出すわね」

この事件で動かしようのない事実として確定しているのは被害者・目撃者・そして死因だ。

「園長の郡山武文さんが胸部に鋭利なガラス片が刺さったために亡くなっているのを西村亮佑君が発見した。こういうことだな」

苗字が頷く。

「次は事件の中で不確定になっている要素を抜き出す…かしらね。郡山さんは本当に自ら転倒したのか。そこに第3者はいなかったのか。そして血文字は誰が書いたのか」
「次はどうする?」
「違和感や矛盾を探すわ」

降谷は思わず口角を上げる。
要点はしっかり整理されている。その上その手順も降谷と全く同じようで、話が驚くほどスムーズに進む。

「この事件なら犯行方法。そして血文字との関連性というところかな」

反論がないところを見ると同意見なのだろう。
被害者の死因は胸部に刺さった金魚鉢の破片であることは鑑識結果からも間違いない。

「私なら両手に荷物を抱えた人間を襲う場合、背後から頭部を鈍器で殴るわ」
「物騒だが僕も同感だ」

状況から推測すると、犯人は被害者を後ろから突き飛ばして転倒させた。しかし転倒して頭部を負傷することまでは予想できても、金魚鉢の割れた破片が胸に刺さるなんて確実性がない。予想できないのに血文字を残す計画が立てられるだろうか。

「それなら血文字は突発的に書かれたことになる」
「突発的に書かれたのに隠したっていうものしっくりこないのよね」

残されていた血文字は遺体の第一発見者の亮佑君ではなく、その後駆け付けた保育士たちが遺体を動かそうとして初めて発見された。そして亮佑君も血文字を見ていないと証言している。ということはわざわざ隠すように遺体を動かした可能性が高い。

「本当に血文字は書かれていなくて、第一発見者の少年が立ち去ってから書いたという可能性もあるかもしれないけど…」

言いかけて止めた苗字の考えていることは手に取るようにわかった。
書いた後に遺体を動かす。後から書き足す。
どちらも犯罪としてリスクしかない行動だ。思い付きのためにそこまでする必要があるだろうか。
降谷も苗字もこの血文字にどうしても意味を見出すことができない。
そして降谷はもう1つしっくりこないことがあった。

「苗字」

苗字の意見を聞きたくて呼びかけたのだが、彼女は資料をじっと見つめたままだ。

「苗字!」

さきほどより大きな声を出すと、ハッとしたように苗字が顔を上げた。

「ごめん…集中してて…。何?」
「これは何を使って書いたと思う?」

血文字の証拠写真をトントンと指で叩いてみせた。

「被害者の指じゃない。血の跡はなかったからな。散らばった破片でもない」
「すごく特徴的な文字よね。こんなの予め形も道具も決めておかないと書けない気がするんだけど…」

血文字を改めて確認しようとした苗字が、証拠写真の一点に目を凝らす。それは写真の左上。少し見切れて写っている部分だった。

「花があるわね」
「ああ、発見者の少年が持ってきたものみたいだな。お供えのつもりだったらしい」
「小さいのに感心ね。あ、お寺の息子さんなのね」
「寺の…」
「息子…?」

苗字と降谷が動いたのは同時だった。
証拠写真の中から第一発見者の亮佑君の写真を探し出す。そして彼が手にしているものを見て、やはり同時にフッと笑った。

「なるほど。偶然だったのは被害者の胸に破片が刺さったことではなくて」
「血文字そのものだったってことね」

第3者による殺害ではなかった。被害者は自ら転倒し持っていた金魚鉢が割れて破片が胸に刺さった。事故だったのだ。
そして被害者が倒れているのを亮佑君が発見した。亮佑君はお供えをした。花と、そして六文銭の代わりとなる飴を。

「穴あきドロップが六文銭か。子供の発想だな」

三途の川の渡し賃として六文銭を供える。寺の子供であれば親から聞いていてもおかしくはない。

「その上盗られないように花で囲って隠すなんて健気ね」
「だがそれが結果的に血文字を残すことになってしまった」

遺体の親指の関節から流れ出た血はドロップが置かれた場所を避けて溜まった。更に周りを囲むように供えられた花によって血は堰き止められた。そして偶然にできたのが『死』の文字だった。
血文字に意味を見出せるはずもなかったのだ。

「敢えて言うならこの犬が犯人かな?供えたドロップを持って行った窃盗犯」

降谷が取り出したのは1匹の犬の写真だった。亮佑君が友達とこっそり公園で飼っていた野良犬だ。その日も保育園に行く途中で犬の様子を見に行ったそうだ。

「この証拠写真ね?餌のお皿にドロップが入ってる」

犬が写った写真を取り出した苗字が苦笑している。
花によって囲われなければあれ程綺麗に『死』の血文字は作れなかったはずだ。だが遺体発見時、花は散り散りになっていた。おそらくこの犬が花を蹴散らしてドロップを持っていたのだろう。
だからあの場所には奇妙な血文字だけが残された。

「人が亡くなっているから良かったということにはならないけど、傷害や殺人でなくて良かったわ」
「そうだな。当時担当していた刑事も亮佑君がマスコミからバッシングを受けないように内密に処理したようだし」

真実を大々的に発表すれば、亮佑君に対して不謹慎な悪戯だと批判が集まる可能性がある。だから警察は連続事件の始まりだと騒がれたこの事件を、ひっそりと世の中から忘れ去られるようにした。

「それで、知恵比べはどちらの勝ち?」

ニッコリと笑って苗字が首を傾げる。そんなこと尋ねなくてもわかっているだろうに。

「引き分けだ」
「満足した?」
「ああ。とてもね」

彼女の実力が知りたいと思って仕掛けたことだったが、予想以上の収穫があった。彼女は思考や論理立ての道筋が降谷と酷似している。それだけではない。その速度までが同じだった。
心地良さまで感じるその同調はあの4人と少し似ていた。

「事件解決、だな」

降谷が挙げた手に、勢いよく苗字のそれが交差する。資料室に心地良い音が響いた。
降谷と苗字。2人が初めて解決した事件はそのハイタッチで幕を閉じた。
その10分後、資料室の整理が進んでいない上に新しく広げられている捜査資料が見つかり、先輩にこってり絞られたのは、公安に入って数年たった今でもネタにされている。



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