Dream


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Episode4. 07



1日の勤務を無事に終え、ビルの守衛に挨拶をして自動ドアを通る。するとオフィスビルの前には似つかわしくない人物がいた。

「待ってたよ」

名前を出迎えたのはコナンだった。
勤務先については前の会社も今の会社もポアロで言ったことはない。梓や常連客との会話でも勤務先を聞かれないよう話の流れを誘導している。
今コナンがここにいるということは待田ケイの勤務先を調べたのだろう。その背後には一台の車が停まっていた。スバル・360。運転席にいるのは沖矢昴だ。
名前は特段驚いた様子も見せずに小首を傾げて微笑んだ。

「送ってくれるのかしら?」
「それはケイさん次第じゃない?」

コナンに促されるまま後部座席に乗り込む。一連の挙動を沖矢は黙って見守っていた。

「お久しぶり、昴君。最近はどう?」
「それがなかなかピンチでして。あなたもご存じでしょう?」

沖矢は返答を期待したわけではないのだろう。無言の名前を乗せて車は静かに動き出す。
数分間の沈黙が流れた。そろそろかと名前が思った瞬間、沖矢が口火を切った。

「安室透君はある男を非常に憎んでいます」

バックミラー越しに運転席をじっと見つめる。名前の表情から沖矢は悟ったようだった。

「彼は…あなたには話しているんですね」

名前はゼロの人間で降谷のバディだ。仲間が死んだあの日の出来事を把握していないはずはない。しかし名前は詳細な報告が公安に上がる前に、降谷の口から全てを聞いていた。
ライとスコッチ、そしてバーボン。彼らの間に何があったのか。

「彼は憎んでいるその男を捕まえて組織に突き出し、その功績で更に中枢に食い込むつもりでしょう。ですが、私としてはその男が捕まるのは避けたいところです」

沖矢はまるで他人事のように淡々と語る。むしろその冷静さこそが恐怖だ。動揺し、慌ててくれるような相手であればどれだけ楽だろうか。

「ケイさん。ボクたちに協力して欲しい」

名前の隣。同じく後部席に座るコナンが見上げて来る。自分を正しいと信じている瞳だ。若い。だが、それが本来あるべき姿だ。


□ □ □


スバル・360は名前を工藤邸まで運んだ。ここに足を踏み入れるのは3度目だ。
応接室のソファを勧められ、腰を掛けた。沖矢は名前の正面に、コナンは2人の間の1人掛けに。位置関係からこの場を仕切るのはコナンのようだ。

「どこまでわかったのかしら?探偵さん」

腹の探り合いをする段階は終わった。ここからは手持ちのカードを見せ合う勝負だ。

「安室さんは警察庁警備局警備企画課・通称ゼロの人間。そして本当の名前は降谷零」

所属だけでなく本名まで調べはついていたようだ。やはりゼロがあだ名だと漏らしたのは大きすぎるヒントだったようだ。

「そしてケイさんもゼロの人間だ」

コナンが名前を鋭く見据えた。
喉元に刃を突きつけられているようなものだが、これも予想の範囲内だ。動揺はない。
反論をしない名前を確かめてコナンが続ける。

「安室さんは初めてポアロでケイさんと会った日にこう言ったよね」

『彼女は同期なんですよ』

「それを聞いた梓さんはこう聞き返した」

『同期ってことは大学の?』

「よく覚えてるわね…」
「そして安室さんの答えは『同じ年に見えませんか?』。大学の同期かどうかは肯定も否定もしていない。それはケイさんも同じだ。安室さんとは同期だって言ってるけど、何の同期かは一度も言ったことなかったよね」

その通りだった。この点については安室も名前も嘘をついていない。ただ言わないという選択肢を取っただけだ。勘違いを誘発したことは否定しないが。

「安室さんとケイさんはゼロの同期。それならケイさんがボクたちのことを詳しく知っているのに、いまだに組織が動いていないことも納得できる」
「私がその組織の人間なら、あなたたちの秘密を知っていることを正直に打ち明けることもないかもね」

名前の厳しい言い様にコナンの顔が悔しそうに歪む。実際、すぐそばにいながら待田ケイが真実を知る人間だと気付かなかったのはコナンの落ち度に他ならない。
彼は勝負を挑んでいるのだ。名前も手は抜かない。

「仮に私がそのゼロの人間だとして、どうして私に協力を求めるのかしら?安室君はある男を捕まえようとしている。でもコナン君と昴君はそれを阻止したい。私が安室君の同僚なら前者に加担するはずよね」
「それはケイさんが安室さんに全てを話していないからだよ」

こちらの用意した道に乗ってくれたことは良かったが、やはりコナンの推理そのものは隙が無い。全ての辻褄合わせはできているのだろう。

「2人は反発し合う仲じゃない。それなのに隠しているってことは、ケイさんは安室さんとは違う考えがあるはずなんだ」
「その考えがあなたたちと一致すれば協力してくれるはずだと?」
「私が一致するはずだとコナン君に主張したんですよ」

ようやく口を開いた沖矢は相変わらず感情が読めない。だが声音は子供を諭すように柔らかだ。

「安室君とは深い関係であるあなたが私に敵意の一つも見せない。しかも私の正体を暴くことは重要ではないと言った。あなたはとても冷静で聡明だ。目的のための判断を見誤ることはしない」

名前のことを持ち上げる言い方は意図的なものだ。彼らにつくことが賢明なのだと思い込ませようとしている。迷っている者であればそれが背中を押すこともあるだろう。だが名前はそれだけでは動かない。落とすにはまだ足りない。

「そんな甘言で私が動くとでも?」

名前の言葉にフッとコナンが自信たっぷりの顔で笑った。

「ケイさんは動いてくれるはずだよ。…いいや」

そしてコナンはその名を告げる。

「苗字名前さん」



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