Dream


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Episode4. 05



降谷の目の奥に炎が見える。彼が赤井秀一の名を口にする時に灯る薄暗い炎だ。

「赤井秀一が生きていたとしてどうするつもり?」
「捕まえて組織に突き出す」

名前の予想していた通りの答えが返って来る。
赤井秀一はシルバーブレットと呼ばれ、組織に恐れられていた男だ。彼を組織に引き渡すことでバーボンは更に中枢へ食い込んでいくという算段だろう。

「苗字は反対か?アイツを組織に渡すのは」
「ええ反対よ。私に彼を捕まえる理由はない。バーボンであるあなたと違ってね」

バーボンは組織を裏切ったライを捕らえる理由がある。だが、公安警察の名前にとって彼はFBI捜査官だ。

「奴はもうFBIではない。組織を裏切って逃げた、ただの男だ」

確かに今の彼はFBIとは言い難い。ジョディやキャメルたちFBIメンバーは彼が死亡したと思っている。沖矢昴の存在からも、彼がFBIに復帰しているとは考えられない。

「反対理由としては弱いな」

その通りだ、と名前は心の中で頷く。
彼はFBIに戻っていない。あくまで組織を裏切ったライとして極秘に彼を捕らえ、組織に突き出す。日本の公安警察としては表向き何の問題がないのだ。むしろバーボンにとってのメリットがある分、実行する価値は十分だ。
降谷の言うことは半分正しい。だが、半分だ。
名前は火に油を注ぐことがわかっていて尚、薄く笑った。

「彼は逃げるだけの男なのかしら?例えば…名前を変えてのうのうと平穏な生活を送っているとでも?」

降谷の目が更に怒りで燃え上がった。風見たち部下ならば竦み上がるだろう憤怒に満ちた視線を、名前は真正面から受け止める。

「だからこそ奴を捕まえることに意味があるんだと言っておく。二度とそういう言い方はしないでくれ」

両手を挙げて降参の意を伝えると、降谷は興奮を収めるように大きく息を吐いた。髪をくしゃりと掻き上げると、幾分か冷静な彼に戻っているようだった。
それを確認してから名前は人差し指を立てた。

「もう1つ反対理由があるわ。私に言うってことは公安を使うんでしょう?組織に彼を捕らえた経緯を問われたら何て言い訳するつもり?」
「それはすでに考えてある。部下たちを危険に晒すつもりはない。それも反対理由としては弱いな」

降谷は淡々と答える。考え得る懸念など彼はすでに潰している。どれだけ反対しようとも、降谷は計画を曲げはしない。わかっていたことだが悔しくないわけではない。
それならば名前に黙って強行してしまえばいいものを。ポアロのバイトもそうして始めたのだから。
そう考えていた名前を見透かしたように降谷が口を開いた。

「苗字が反対だということを確認したかったんだよ」

先程まで殺気立っていたはずの彼は、不可思議な発言と共に口元に弧を描いている。

「君だけは僕を裏切らないんだろう?」

ゆっくりと頬杖をついた降谷の青い瞳に、目を丸くしている名前が映る。
そして心地良いテノールのが響いた。

「この意味、名前ならわかるよな」


□ □ □


降谷と対峙した数日後。その日も名前は潜入先の会社への道を歩いていた。杯戸小学校の脇を通り、杯戸公園前に出たところで停まっているパトカーを見つけた。思い過ごしかもしれない。だが、どうしても胸騒ぎがした。

「昨夜から今朝にかけて杯戸町であった事件を調べて欲しいの」

勤務先へは体調不良で遅刻すると伝え、部下からの連絡を待った。
そして悪い予感は的中した。澁谷夏子が襲われ重体だと部下は告げた。

「事故ではないのね?」
『はい。警視庁の捜査1課が動いています』

バーボンは動く。それは降谷の言葉の端々から読み取れた。
澁谷夏子を利用するのは否定しない。だが巻き込むことはして欲しくなかった。名前が考えていた中で最悪パータンだ。しかし事態はもう進んでいる。名前の願いなど無視して。

『あの…申し上げにくいのですが』

躊躇う部下の言いたいことはすぐにわかった。

「安室透が参考人で呼ばれたのね」
『は、はい…。どうやら昨夜通話記録があったようで』

澁谷夏子は安室の依頼人だ。通話記録があってもおかしいことではない。普通はそう考える。

「他に参考人として呼ばれている人は?」
『学校関係者が数名。そしてFBIのキャメル捜査官とジョディ捜査官です。この後詳細をお送りします』
「キャメル捜査官?」
『はい。彼の携帯とも通話記録がありました』

なぜキャメルの携帯なのかと思い、それは違うと直感した。なぜキャメルなのかではなく、なぜ友人のジョディでないかを考えるべきなのだ。
現場には安室が呼ばれている。彼はジョディとキャメルに会うだろう。安室…バーボンはFBIと接触するために澁谷夏子を利用したのだからこれは意図的なものだ。だがFBIはコナンを介して彼がバーボンだと知っているはずだ。バーボンが知りたい情報を易々と漏らすことはないだろう。
そこまで考えて名前の頭に降谷の言葉が蘇った。

『困ったな…。別行動をするプランを立てないとな』

降谷はコナンが探りを入れてくると知って、ベルモットの存在を懸念していた。
それはベルモットが動く予定があったからに他ならない。
名前は事件に進展があり次第報告すること、澁谷夏子の容態についても変化があれば連絡するようにと部下に伝えると通話を切った。

「ジョディ捜査官とキャメル捜査官。ジョディ捜査官ともう1人。ああ…だからベルモットなのね」

FBIはバーボンである安室には口を割らない。だが同僚にはどうだろう。
組織の人間であるバーボンはいるだけでプレッシャーとなる。彼に挑発され、冷静さを欠いた状態で諫めるように同僚が現れたら?気が緩まないと言えるだろうか。
部下である風見も名前が行方不明者リストを調べていたのを吐かされていた。きっと同じように相手を挑発した心理的な手法を使ったのだろう。
名前の中で全てのピースが繋がった。



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