Dream


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Episode4. 03



よくよく考えると思い当たる節は多かった。
盗聴器の探り出し方やピッキング、怪我の応急処置…探偵としてのスキルと言えばそれまでだ。しかしベルツリー急行で彼はシェリーを消そうとしていたわけではなかった。コナンは何度か彼に窮地を救ってもらった。全て、その正体が公安警察であるであるとすれば納得だ。

「ゼロ?」
「そう。公安警察の俗称がゼロ」

すっかり見慣れてしまった沖矢昴の姿から赤井秀一の声がする。コナン相手に変声機を使う必要がないのはわかるが、沖矢と赤井の両方を知っている身からするとチグハグなな印象で居心地が悪い。
コナンは工藤邸のリビングで沖矢昴と向かい合っていた。杯戸中央病院で安室透が『ゼロ』という言葉に反応したこと、子供の頃のあだ名がゼロだと言ったことを話した。そして安室が来葉峠での赤井の死に疑問を抱いているだろうことも。

「何で安室さんが赤井さんの偽装死を暴こうとしているのかはわからないけど、彼が公安警察で組織にスパイとして潜入しているのなら協力を求められるかもしれない」

コナンがそう考えるのも無理もない。FBIと日本の公安警察。組織を追い込もうとしている者同志だ。だが沖矢は難しい顔をする。

「彼とは…少々諍いがあってな。協力を求めるのは難しいだろう」

それどころか彼は自分を捕らえて組織に渡すつもりだろうと語った沖矢に、コナンは驚きを隠さなかった。しかしそれならば執拗に赤井の偽装死を暴こうとしていることにも説明がつく。コナンが眉間に皺を寄せて唸る。

「それでも…まずは安室さんが公安警察であることを確かめないと」

コナンの意見に沖矢も頷いた。彼が本当は何者であるか。相手を知らなければ何も対策は立てられない。

「ところでボウヤ。子供の頃にゼロと呼ばれていたというのは本当か?」
「うん。ケイさんも安室さんの友達がそう呼んでたって言ったし、本当だと思うよ」

子供の頃のことなど知らないと言って通せる話だった。だがあの時ケイは何かに想いを馳せているように見えた。昔、彼がそう呼ばれていたことを思い出すかのように。

「ホォー…彼女がそう言ったのであれば事実なのだろうな」

僅かにだが、声が愉快そうに弾んでいたのをコナンは聞き逃さなかった。

「赤井さんはケイさんのことをどこまで知ってるの?もう調べたんだよね?」

待田ケイは沖矢昴の正体を知っている。その上で沖矢の元を訪れ、沖矢も彼女を招き入れている。彼女について何も調べていないはずはない。

「それなんだが…彼女は白だ。怪しい経歴は全くない」
「本当に?学校の記録は?友人関係は?」
「俺も疑って何度も調べたが、経歴を偽装していたり誰かが成り代わっていたりする痕跡はなかったよ」
「じゃあ待田ケイは本名ってこと…?」

あの日、杯戸中央病院でコナンは彼女の診察券を拾った。そこに書かれていた名は『待田ケイ』だった。
それだけではない。彼女は司法試験に合格している。後から合格者の記録を改ざんしたのであれば、英理が待田ケイの名前を記憶していたこととの辻褄が合わない。
赤井の調べでも彼女の経歴は確かなものだと言っている。
しかしどうしても1つだけ引っ掛かることがあるのだ。

「ケイさんは偽名が見抜けるんだ」
「ああ、俺も聞いた。彼女自身が偽名を遣っているからだと考えるのが自然だな」
「ボクもそう思ってたんだけど…」

出て来る事実全てが彼女を待田ケイだと証明している。
彼女は本当に一般人で偽名を見抜けるのはただの勘だと言うのか。しかしただの一般人が自分や沖矢の正体を知るはずもない。
何か見誤っている。
このまま進むと出口のない迷路に入ってしまうような予感がして、コナンは呆然と立ち尽くした。


□ □ □


名前は待田ケイのセーフハウスで1人パソコンに向き合っていた。
潜入先での勤務を終えて帰宅し、コンビニで買ったおにぎりを頬張りながら部下から報告の電話を受ける。

『依頼されていた資料を送りました』
「ありがとう」

電話を切らずにファイルを開く。画面には数十人の男女の顔が並んでいた。杯戸小学校の教員名簿だ。その中から目的の人間を探す。

「澁谷夏子・28歳」

先日、杯戸小の校門で見かけたのは彼女だ。安室透の依頼人。
今この時期に安室透が受けている依頼だ。どうしても気になり調べることにした。同僚を探るのは褒められたことではないが構わない。
電話の向こうに呼び掛けると、待っていた部下が即返事を戻して来る。

「澁谷夏子について今すぐ調べてくれる?」

詳細なデータは1時間と待たないうちに届いた。
澁谷夏子はアメリカへの留学経験があった。そして現地で事件に遭遇した時に知り合ったのが他でもない、FBI捜査官のジョディ・スターリングだ。ジョディが教師として来日した際に手助けをしたのが彼女であることも判明した。ならば今でも2人が連絡を取り合っている可能性は高い。

「ジョディ・スターリング。FBI。赤井秀一。来葉峠。死体。楠田陸道。杯戸中央病院…」

あの日、降谷は杯戸中央病院で調べ物があったと言った。
楠田陸道は組織の人間だった。来葉峠の事件前日に行方不明になった彼をバーボンが怪しむのは当然の流れだ。そして死体のすり替えトリックに気付くだろう。だがこの件で唯一不確かなことがある。
あの車内の血痕が楠田陸道本人のものであるか否か。
彼が行方不明となっている以上、確かめようがない…はずだ。

「いいえ。1つだけ、確かめる方法がある」

楠田陸道の遺体を発見し、回収したFBIから直接聞き出せばいい。

「降谷…バーボンはFBIと接触するために澁谷夏子に近付いたのね」

一度は終息した事件が再び動き出した。
彼は必ず最後のピースを手に入れるだろう。そして彼がどう動くかは名前が1番よく知っている。
名前は決断をしなければいけなかった。



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