Dream


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Episode4. 00



朝出社してメールチェックをしていると、課長が「目を通しておくように」とだけ書かれたメールが届いていた。あまりいい予感はしないがとりあえずデータを開くと、ある企業の裏情報が書かれたファイルだった。

「朝から難しい顔してるけど、どうした?」

いい香りと共に小さなコップが渡された。水筒のコップではないかと差し出してきた降谷を見れば、その手には予想通りのものが握られていた。どうやら今朝家で淹れてきたコーヒーのようだ。ありがたく受け取って口を付ける。

「課長からメールが来てたんだけど、たぶん新しい潜入捜査だと思うんだよね」

ディスプレイを指差すと、グイッと降谷が体を寄せて来る。

「ああ…とうとうあそこにも切り込むのか」

確かに最近公安が特に厳しく目を光らせていた企業だ。ようやく本腰を入れるつもりなのだろう。
降谷にもらったコーヒーは絶対に名前の好み通りに淹れられているはずなのに苦く感じてしまう。もったいない。

「せっかく前のところが終わったのに…」
「だからだろう?無職のケイさん?」

慣れない呼ばれ方にドキリとする。もちろんわかっていてやっている降谷は涼しい顔をしている。今日も大層な美形だ。
コーヒーを飲み干してコップを返すと、当然のようにお代わりを注いでいる。それを受け取り口にしようとした瞬間、課長の呼び声に振り返る。

「苗字いるか?」

名前が返答をする前に、課長が隣にいる降谷に気付く。

「降谷もいるならちょうどいい。一緒に来い」

前の会議が終わったらしい課長がそのまま部屋を利用するというので降谷と一緒に席を立つ。入室すると着席を勧められ、前置きなく本題に移った。

「資料は読んだな?」
「はい。また潜れということですよね」
「ああ。やってくれるな」

否定の選択肢はない。名前が頷こうとした時、突然降谷が2人の間に割って入る。

「苗字を使い過ぎではないですか?」

投げ込まれた言葉に名前は「は!?」と間の抜けた声を出す。先程までは名前が潜入して当然という口振りだったのは誰だ。
課長は異見を唱えた降谷を正面から見据える。

「否定はしない。前の潜入捜査が終わってからの日も浅い。だが年齢や性別を考えると苗字が適任だ」
「潜入捜査は苗字の十八番ですからね」
「ちょっと降谷…!?」

降谷の言い方はあからさまに嫌味を含んでいた。戸惑う名前に構わずに降谷は続ける。

「何が言いたい?」

厳つい課長の顔が更に凄みを帯びていく。それに怯むことなく降谷は冷静に答えた。

「彼女が潜入捜査に適していることをいいように利用しているのではありませんか?」

名前が降谷の腕を強く掴む。

「私はそれを承知でここにいるのよ」
「君自身が自分を利用することは問題ない。だが上の人間がそれありきで君を使うのは間違っている」

キッパリと断言する。部下にここまで啖呵を切られた経験は課長もないだろう。
じっと降谷と課長が睨み合うこと1分。先に口を開いたのは課長だった。

「降谷の言うことはもっともだな。だが勘違いしてもらっては困る。今回の案件が精神的負荷が高いことは認める」

課長が目線で「申し訳ない」と謝罪をする。

「しかしその上で苗字へ頼みたい。潜入捜査において右に出るものはいないと言われる苗字を見込んでのことだ」


□ □ □


「それが苗字を利用しているって言うんだ」

降谷は綺麗な顔を歪めてボヤキながら隣を歩いている。課長に改めて承諾の返答をして退室してからというもの、ずっとこうだ。

「利用できるものは利用する。正しいじゃない」
「君が1番足がつきにくいという下心を隠しきれていないのは?」
「隠す必要ないわよ。事実だもの」

あっさりと認めると、降谷が足を止めるので名前もあわせて立ち止まる。

「…で、どこから気付いてた?」
「降谷を一緒に呼んだところから」
「僕もだ」

今回の任務に最も適した人間は名前だ。だが前回の潜入捜査との間隔からも無理があるのは誰の目にも明らかだった。それでも名前が真っ当でないと直接指摘するのは角が立つ。だから課長はその抗議を代弁させるために降谷を同席させた。

「降谷が全部言ってくれたからスッキリしたわよ」
「見事な演技だったな」
「お互いにね」
「しかしここまで全て課長の思惑通りなのが1番面白くないな」

警備局警備企画課は優秀な人材の集まりだ。彼も伊達に課長を務めているわけではない。これで名前はわだかまりなく任務に着ける。不本意でも2人は掌で踊らされる立場なのだ。

「待田ケイの再就職を考えていたところだったし。ちょうど良かったわ」
「どういう意味だ?」
「コナン君よ。きっと待田ケイのことも調べるわよ」

先日病院で安室透が『ゼロ』の言葉に反応したことをコナンは逃しはしまい。彼について調べ上げるはずだ。そして彼と同期だと言っている待田ケイについても。

「それは…コナン君に同情するな」

心底不憫だという表情で降谷が廊下の天井を見上げる。名前もそれについては全面的に同意する。
待田ケイの砦は強固だ。
潜入捜査において名前以上の適任者はいないのだ。だから今日課長は何としてでも名前を着任させようとした。

「あの子は君に辿り着けるかな?」
「さあ…どうかしらね。証拠がないとダメだって言っておいたけど…」

名前が足を進めると、やはり隣に降谷が並ぶ。どちらが合わせなくても同じ歩調で警備局警備企画課の扉の前に到達する。
推理だけならば名前は否定して終わりだ。重要なのは証拠なのだ。

「証拠なんて私が欲しいくらいだわ」

扉を開ける名前を降谷は黙って見守っていた。



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