Dream


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Episode3. 09



コナンと別れて病院を出ると、過ぎ去る人たちがチラチラと同じ方向を振り返りながら歩いている。気になって見てみれば、なるほど振り返るわけだ。柱に寄りかかる降谷の姿はさながらモデルのようだ。
コナンから安室の名前を聞いてこの病院へ来ている可能性も考えていたが、まさか名前を待っているとは思わなかった。

「蘭さんに君が怪我をして診察に来ていると聞いたんだ」

どうやら蘭がお節介を焼いたらしい。名前のことをコナンには言わずに安室に告げた蘭は、2人の関係をどう考えているのだろうか。降谷と顔を見合わせてクスリと笑う。

「送るよ」

短くそう言った降谷が名前の手を取った。
何度も情事を重ねているのに、こうして外で手を繋いで歩くことなどほとんどない。どこか気恥ずかしいが、離し難くて引かれるままだ。
病院の駐車場に停めていたRX-7に乗り込むと、降谷が包帯の巻かれた足元をじっと見つめる。

「ドジを踏んだな」

名前と全く同じ感想を口にした降谷がエンジンをかけ、RX-7が発車する。

「否定はしないけど、まさかあそこで襲われるなんて思わないでしょ…」
「は?襲われる?」
「降谷、顔怖いから!襲われたのは私じゃなくてターゲット」

昨夜の出来事をかいつまんで説明する。険しかった降谷の表情は若干緩んだものの、眉間の皺はそのままだ。

「結果として軽症だったから取り押さえられたが、骨折でもしていたら君も被害に合っていたかもしれないんだぞ」
「かと言って見て見ぬフリもできないし」
「出ていくタイミングがあるだろう。で、暴漢は逮捕したとしてターゲットは?」
「もちろん捕まえたわよ」
「そうだろうな」

なぜか名前ではなく降谷が自信たっぷりに頷いている。名前の実力を信用しているからこその反応だ。嬉しくならないわけがない。しかし面倒なことに、「ありがとう」と素直に告げた後には天邪鬼が顔を出す。

「ドジを踏んだと言えば、降谷もじゃない」
「何のことだ?」

怪我はしてないぞと見当違いのことを言うので笑ってしまう。名前は首を横に振り、形の良い唇で告げた。

「ゼロ」

病院でコナンにあったこと。彼が投げかけてきた言葉。名前が包み隠さずに話せば、降谷は苦く笑った。そしてそこに至った経緯を語る。

「『ゼロ』と言った子供がちょうど同じ年頃だったんだ。初めて『ゼロ』と呼んだ時のヒロと」

車がゆっくり停止する。赤信号だ。
降谷はハンドルに身を預けながら遠く懐かしいものを見ていた。
名前の記憶にある声よりも幼い声が、その名を呼んでいるのだろう。

「まぁドジを踏んだことには違いないけどな」

静かに落とされた自虐に名前は何も言わなかった。
信号が青になりRX-7は動き出す。降谷も口を閉ざし、車内は沈黙の空間に変わる。お互いがそれぞれの思考に耽る。2人の間ではよくあることだ。

「ゼロの件は適当にごまかしておいたけど…どう思う?」

10分以上が経ち、赤信号で再び停止したところで降谷が呟いた。

「間違いなく探りを入れてくるでしょうね」
「やっぱりそうか…」

普通の小学生ならば『ゼロ』という単語で公安を連想することはない。だが降谷もすでにコナンがただの小学生でないことを知っている。
コナンはいつ動くだろうか。組織の人間と一緒のタイミングだとすると非常にまずい。特にベルモットは変装の達人だ。コナンとて容易に見破れるものではないだろう。彼女がいるところで下手な探りを入れられるのが1番厄介だ。

「困ったな…。別行動をするプランを立てないとな」
「何か仕掛ける予定があるわけね」
「あれ?苗字はとっくに気付いていると思ってたけどな。今日僕が病院にいた理由を聞かないじゃないか」
「じゃあ聞くけど、どうして病院にいたの?」
「ちょっと調べものがあったんだ」

可愛くない回答に名前が眉を顰める。降谷も名前の反応は予想していただろうに、クスクス肩を震わせ愉快そうだ。

「風見に資料を頼んだだろう?」
「あ…!?チッ…あの降谷信者め」
「随分な言い様だな」
「……まさか降谷が風見さんを誘導したんじゃないでしょうね?」

したり顔の降谷に名前の指摘が正解だとわかる。
名前が先日警視庁で行方不明者リストを調べていたことは降谷に筒抜けだったようだ。もちろん目的が誰だったかを推測するのは難しくはなかっただろう。

「あの日君が警視庁にいたようだったから、風見をちょっとつついてみたんだ」
「それでゲロっちゃうなんて部下の教育がなってないんじゃないですか?降谷さん?」
「そのことについては面目次第もない。だから風見にはきつく言っておいたよ。たとえ僕と苗字が同じゼロでバディだとしても安易に情報を漏らすものじゃないってな」

そこまでされてしまったら名前にはもう言うことは何もない。まぁ遅かれ早かれ降谷にはわかったことだろうから風見を責めることはやめておこう。降谷にきつく叱られたのだろから少し同情する気持ちもある。

「それで、調べものは無事終わったんでしょう?」
「君と同じようにな」
「あーもう最悪……」
「そうか?僕は苗字のそういう抜かりないところが最高だと思うぞ」

いつの間にかRX-7は名前の自宅に向かう道に入っていた。
名前が隠れて動いていることに何も感じないはずはない。誉め言葉も素直に受け取っていいはずがない。だが降谷の横顔は紛れもない本心だというように穏やかに笑っていたので、名前は目を閉じて背もたれに体を預けた。



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