Dream


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Episode3. 07



ガランと落下する音がして、自動販売機から缶コーヒーを取り出す。

「それで、大尉は元の飼い主のところに戻ったのね」
「ああ」

すでにコーヒーを飲み始めている安室は、大尉の飼い主を見つけるまでの騒動を苦笑いで話した。コナンがわざと嘘をついたことまで見破っているのだから、降谷の中で江戸川コナンに対する認識はただの小学生から別のものに塗り替わっていることだろう。
何はともあれ、野良になってしまっていた大尉が元の飼い主のところに戻れたのは良い知らせだ。

「あの子珍しい子だものね」
「確かに。珍しく君に靡かない雄だったな」
「三毛猫の雄!!」

揶揄う降谷の胸を軽く小突くが、当然痛みはしない。逆に拳をすっぽり握られてしまう。

「はーなーしーてー」
「そう言われると離し難いな」

振り解こうとしてもクスクスと笑う降谷は一向に手を離さない。

「君は犬というよりも猫だからな。首輪をつけてもどこか行ってしまいそうだ」
「だから物理的に捕まえてるの?」
「触れてないと心配なんだよ」

手を引かれて抱き締められる。

「ここがどこだかわかってる?」
「自動販売機の影かな」
「庁舎内のね」

さすがに深夜で人がまばらになっているが、2人がいるのは警察庁の中だ。眠気覚ましのコーヒーを買いに来て立ち話をしていたはずがいつの間にかこんなことになっている。

「わかってるなら離して。誰かに見られる前に」
「せっかく捕まえたのに」
「まだ仕事が残ってるんだから逃げないわよ」
「仕事か…」

不服そうな声がする。しかしまだ体は解放されない。
睨みつけようにも胸に押し付けられてしまっていて顔を見上げることも叶わない。

「このまま連れて帰ろうかな…」
「野良猫拾ったみたいに言わないでよ」

非常に分かりにくいが降谷は疲れているらしい。しばらく抱きしめられている程度ならいいか思っていると、突然降谷の顔が目の前に現れる。

「1回キスしたい」
「は!?ダメ…」

それは最後まで言えなかった。断られることなんてわかりきっているのだ。降谷が返答を待つはずもない。
覆いかぶさるように抱きしめられていた身体は壁に押しつけられる。名前の身体が自動販売機に隠れてしまったのをいいことに、降谷は更に深く口付けてくる。
静かな廊下に2人の唾液の音だけが響く。

「さて。仕事に戻るかな」

数分間の濃厚な時間を過ごして降谷が笑みを浮かべて身体を離す。すっかり力の抜けた名前の腰を支えるのは忘れない。

「歩けるか?」
「歩ける…けど、あと1分待って」
「運んでやろうか」
「そんなことしたら一生飼われてやんないから」
「簡単に飼われてくれないくせによく言うよ。まぁ僕も首輪の代わりは付けさせてもらうつもりだけどな」

降谷の唇が名前のその部分にそっと触れる。名前の火照っていた体がまた熱を帯びる。満足そうにニヤついた顔が悔しくて、復活した名前が降谷を突き飛ばしたのはきっちり1分後のことだった。


□ □ □


「だから大ちゃんはその人のお家の子になったの!」

大尉の飼い主の家に遊びに言った少年探偵団のメンバーが遭遇した事件。歩美ちゃんが明るく話をしているが、要は殺人未遂だ。ちなみにその事件の捜査資料は今朝送られてきたのですでに頭に入っていた。子供たちは梓がよく大尉の世話をしていたため、その後どうなったのかをポアロまで報告しに来たようだ。
梓が「事件が解決してよかった」と笑っているのを眺めていると、コナンがスッと隣に座ってきた。

「事件解決おめでとう。名探偵さん」
「ケイさんでも解けたと思うぜ。おっちゃんよりも探偵に向いてそうだし」

揶揄うように言った名前に、コナンは挑発気味に返してきた。怖々と警戒されるよりもいいが、可愛げはない。

「今日は安室さんいないの?」
「そうみたいね」

アイスコーヒーのストローを回しながら答える名前にコナンが声を潜める。

「オレのこと誰にも話してねーみてぇだな」
「言ったでしょう?大人は複雑なのよ」

先日のことを思い出したのか、コナンの頬がほんのり赤くなる。それを微笑ましいと思って見ていたが、すぐに厳しい表情に変わってしまった。

「正直気が気じゃねーんだよ。正体がわからない人間に自分の重大な秘密を知られてるってのはさ」

コナンの言い分に名前の目がすっと冷たく光る。

「重大な秘密を知られてる?それは私があなたにヒントを与えたからでしょう。私が言わなければ今も秘密を知られていることにすら気付かなかった。違う?」
「……っ!」
「甘えたことを言わないでね。探偵さん」

初めての待田ケイからの鋭い言葉にコナンが息を飲む。

「教えてあげましょうか。本当に隠したいのなら、その事実すら無いことにするのが1番なのよ」
「…オレがいなくなるのがいいってことか?」
「工藤新一が生き続けているのがいけないということよ」

新一から時々連絡があるのだと、蘭はあっさり教えてくれた。小五郎や園子だけでなく、名前同様に周囲の人間はそのことを知っているようだ。
しかし本当に隠したいのであれば蘭にすら生存を隠しておかなくてはならない。例えそれが蘭にとってつらい事実であってもだ。今、ジョディが悲しみに暮れているように。

「辛辣だな」
「ええ。そうでしょうね。でもあなたはとても危ない橋を渡っているのよ」
「……で、そんなアドバイスをくれるケイさんは、結局オレのことを黙っててくれるってことだな」

コナンが眼鏡の奥から真摯な瞳を向けていた。名前はフッと表情を綻ばせる。

「最善の方法でないことはわかってても、あなたには帰る場所があって欲しいと思ったのよ」
「それは……」

もう帰る場所がない人の言葉だと言いかけたコナンの唇に、名前の人差し指が添えられた。
ひんやりとした指先の感触が詮索を拒否しているようで、コナンは口を噤むしかなかった。



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