Dream


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Episode3. 02



「さて、まずはそちらの主張を聞こうか」

冷蔵車に閉じ込められたコナンたちを救出した降谷がその足で待田ケイのセーフハウスに来たのは15分後だった。徒歩の名前と車の降谷。当然待田ケイの化粧を落とす間もない。

「君が口を出すのは珍しいからとりあえずは従ってみたが、理由を聞く権利はあるはずだ」

主張を聞くと言っておきながらこれだ。要は「何で邪魔をしたのか言ってみろ」だ。
降谷はリビングの椅子に座ると、向かいの椅子を指して名前にも座るよう促す。ここは誰の家だったか。

「どうせ偶然通りかかったフリをするつもりだったんだから同じじゃない?」
「却下」
「チッ」

反射的に舌打ちが出る。
元々適当な言い訳で妥協してくれる相手でもない。チラリと見れば名前をじっとりと睨んでいる。ここは腹を括るしかなさそうだ。

「コナン君がそうして欲しいだろうと思ったからよ」
「まただ。江戸川コナン」

降谷の眉が上がる。顎に手を当て何かを考える仕草の後、ポツリとつぶやいた。

「眠りの小五郎」

ピクリとほんの僅か名前の肩に力が入る。普通なら気付かないほど僅かでも見逃す降谷ではない。

「やっぱり苗字は知っていたんだな。眠りの小五郎の正体を」

降谷は大きく息をついた。もしかするとまだ半信半疑だったのかもしれない。名前の反応で確信を得たといった様子だ。
名前としては降谷がどうして気付いたのか興味がある。

「苗字は眠りの小五郎のからくりを知ってるか?」
「…さあ?私は彼らと事件に出くわしたことはないもの。ただ…“眠りの”と言われるのだから毛利さんは本当に寝てるんじゃない?事件の謎解きを覚えていないことも多いって前にポアロで言ってたし」
「コナン君は変な時計を毛利小五郎に向けていたよ」
「阿笠博士の発明品ね」
「おそらくは。時計に仕込めるものは限られているから…まぁ麻酔の針でも入ってるんじゃないか?」

合点がいった。麻酔で眠られているうちにコナンが真相を解明していたのか。それでは毛利小五郎が覚えていないのも無理はない。毎回同じことが起きて疑問に思わないのもどうかと思うが…まぁ彼ならそれも納得か。
コナンも小学生がつけるには不似合いな腕時計だとは思っていたが、彼にとって必須アイテムだったというわけだ。

「話を戻すぞ。コナン君は僕があそこに残ることを望んでいなかった。いや、正確に言おう。“バーボン”があの場にいてはいけなかった」

名前は黙って続きを待つ。降谷が本当に名前に答えてほしいのは、次に出てくる言葉であるはずだ。

「コナン君は知っているんだな?僕がバーボンであることを」
「そうよ」

名前は躊躇わずに断言する。
2人だけの室内に緊張が走る。
真っ直ぐ射抜くように見据えると、数十秒後に降谷が大きなため息をついた。

「道理で最近コナン君の態度がおかしいはずだ。僕を見る目がやけに険しいし…。あの子はなぜ組織のことを知っているんだ?」

この質問には心臓が大きく跳ねた。
先日組み立てた『組織にコナンと哀の幼児化の原因がある』という名前の仮説。コナンが自分で降谷に助けを求めるのであれば別だが、仮説の域を出ない限り名前から伝えるつもりはない。
何より哀の存在が名前を押し留める。

(“知らない”ことが必要な時もある)

降谷は名前の仮説を知ったとしても哀を組織に差し出すことはしないだろう。しかしバーボンが哀に接触したことで、組織が彼女の生存に気付いてしまったら?
バーボンである降谷と哀を結びつける糸はない方がいい。
だから名前は笑って首を振った。

「待田ケイはただの一般人よ。そんな物騒な話するわけないでしょ」
「確かにな。だがそれにしては君はコナン君のことに詳しいな。情報源は何だ?」
「企業秘密」
「公務員だろうが」
「少し前までは一般企業に勤めてましたー」

先程までの張りつめた空気はもうない。
降谷は髪をかき上げて名前を見つめてから、ふっと力を抜いて笑う。

「バーボンがあそにいてはいけない理由は他にもありそうだが…。まぁ今回は助けてもらったし、ここまでにしようか」

絶対に口を割らない名前を知っている降谷の引き際は早い。

「あなたがバーボンだってバレてから私まで警戒されてるのよ?むしろ貸しの方が多いわよ」

あれ以来、ポアロで顔を合わせるたびに明らかに緊張した顔をされる。
もちろん、1番の理由は名前が彼の本当の名を知っている事実を明かしたからだ。とは言っても安室透がバーボンだとバレたことが最初の原因なのだから貸しがあるのは変わらないはずだ。

「はは。それは申し訳ない。君はコナン君が好きみたいだしな」
「まぁ…コナン君は、好きかな」

妙なところで言葉を区切ってしまった。小学生の江戸川コナンは可愛いが、中身のことを考えると素直に好意を言っていいものか。蘭という彼女もいる。
内心で葛藤しながらの微妙な肯定だったが、なぜか言い出した張本人の降谷はムスッと口がへの字になっている。

「え…?降谷、まさか…」
「実際に耳にしてみたら想像以上に不快で僕も驚いてる」

憮然とする降谷に、名前は嬉しさよりも呆れが上回る。無言の時間は徐々に恥ずかしさを湧き上がらせてしまい、ますます返す言葉が思い浮かばない。

「僕だって言われたことないのに」

子供のように拗ねた降谷の機嫌はどうすれば治るだろうか。
名前は身を乗り出すと彼の胸倉を掴んで引き寄せる。チュッという軽い音が部屋に響いた。

「機嫌直して?零」
「それは名前次第かな」

今度は降谷が身体を起こして近づいて来る。それが触れるまであと数ミリ。目を閉じる前に映った降谷は口元に笑みを浮かべていた。



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