Dream


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Episode3. 01



冬ならではのイルミネーションが街を彩っている。どこかそわそわした人々をウィンドウ越しに眺める名前はポアロでひとときの安息を得ようとしていた。

「ケイさん…」

名前を呼ばれて振り返れば、エプロンをしているのになぜか手にもエプロンを持っている梓が困ったように店に戻ってきた。
梓はいつもよりも来るのが遅かった猫の大尉に餌を持って外へ出た。マスターが呼んでいるからと安室が様子を見に行ったはずなのだが…安室の姿はそこにない。

「そのエプロン、安室君の?」
「はい。急に体調を崩したから早退すると言っておいてくれって…走って行っちゃいました」
「もっとマシな嘘つけばいいのに」
「ははは」

梓も慣れた風で気にしていないところを見ると、これまでも度々あったことなのだろう。実際、降谷は先日バイトを抜けて名前を助けに来た。梓に申し訳ない気持ちはあるが、名前に降谷を責める権利はない。

「でも何でまた急に?」
「実は……」

梓が店先で起こったことを説明してくれた。
大尉の首に巻かれたレシート。そのレシートは不自然に文字が消えていたが風に飛ばされてしまったこと。大尉の体が冷たかったこと。大尉が店に来ることを知っていた人間を安室が尋ねたこと。

「消えてた文字って…?」
「えーと何だったっけ?Cor、P、s…e…あれ?aだったかしら?あ、すみません!マスターに呼ばれてたんでした!」

慌てて店の奥へ入っていく梓を見送ると、名前は盛大な溜息をついて頭を抱えた。
梓が忘れてしまった最後の文字はeだ。“corpse”。意味は死体。

「あーもう…またなの…?」

どう考えてもコナンが事件に巻き込まれて助けを求めた結論しか出ない。
綺麗にたたまれたレシートが猫の首輪に挟まる可能性はコナンが事件に巻き込まれる可能性よりも圧倒的に低い。

「ケイさんもう行っちゃうんですか!?」

鞄と上着を持ち上げた名前を見て梓が大げさなほどにがっかりする。

「ごめんね。もう少しいたかったけど、仕事の連絡が入りそうなの」
「…入りそう?」

梓の疑問をにっこり笑ってやり過ごし、会計を済ませて店を出た。歩きながら携帯を操作すると2コールで通話に切り替わる。

「安室くーん?私に何か用はある?」
『梓さんから何か聞いたな?今どこにいる?』
「あと少しであなたの愛車が停まってる駐車場」
『本当に最高だな君は』

名前の視界にRX-7が入ると同時に反対側から安室が走ってきた。上着も着ずにどこかへ行っていたらしい。

「この番号の車を調べてくれ」

安室が差し出したのはところどころ文字が消されたレシートだった。風に飛ばされたと聞いたが見つけ出したらしい。そんなことできるのだろうかと考え、この男ならやるだろうと納得してレシートを確認した。やはり“corpse”の文字がある。そして車のナンバーと思わしき数字。

「なるほど。このナンバーならクール便ね。もう凍ってたらどうしようかと思ったわ」
「しかし大尉の体が冷えていたということだからそれなりに時間は経過しているはずだ」

すでに運転席に乗り込んでいる降谷が窓を開ける。

「苗字も来るか?」
「遠慮しておくわ。これ以上安室君との関係を疑われても嫌だし」
「君はこのメッセージを渡してきたのがコナン君だと思っているんだな」
「それはそうよ。条件が揃ってるもの」
「果たして君と僕の持っている条件は同じかな?」

見つめ合うこと数秒。ふっと同時に笑うと降谷はハンドルを握り、名前は車に背を向けた。


□ □ □


「降谷。米花町2丁目よ」
「了解」

車のナンバー照会と配送ルートを調べ、今の時刻にいるだろう位置だけを端的に告げて電話を切る。
自分の仕事は終わりだ。あとは降谷がどうにかするだろう。警察に(自分も警察だが)連絡してあげたいのは山々だが、降谷は偶然を装って助けるつもりに違いない。それならば余計なことはしない方が良策だ。

「調書が増える…」

今回はどんな経緯で巻き込まれたのやら。
本来、名前が江戸川コナンの調書を読まなければいけない理由はなかった。
なぜ彼が江戸川コナンになったのか。警察を頼らないのはどうしてなのか。追っていればいつかわかるのではないかとぼんやりと考えていただけなのだ。
しかしここに来て理由ができてしまった。
江戸川コナンは赤井秀一とつながりがあった。そして何よりもバーボンを警戒している。

(コナン君はあの組織を知っている。そこに加えて哀ちゃんがいる)

ベルツリー急行で狙われたのは灰原哀になった“彼女”だった。組織が彼女を狙う理由は何だろうか。
そもそもコナンはなぜあの組織のことを知っているのだろうか。
コナンと哀。2人をつなぐ黒い組織。そして2人の共通点である幼児化。

(小さくなった原因があの組織にある)

幼児化のことをバーボンは知らないのだろう。コードネームを持っていてもまだ知らない事実。それほどの機密事項であれば哀が狙われるのは必然だ。

「あ、クール便の中に哀ちゃんもいるかな…」

急いで携帯を取り出すと、今度は1コールで「何だ?」と応答した。

「助けたらすぐ戻って来て」
「……わかった」

珍しく名前が口を挟んだからだろう。理由を問われることもなく了承された。
バーボンは“彼女”が死んだと思っている。灰原哀と同一人物だと気付いてはいないだろうが、会わないに越したことはない。
数分後、コナンたちを助けたという電話を受けると安堵して息をついた。



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