Dream


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Episode2. 09



ピンポンとチャイムが鳴って入ってきたのはコナンだった。ちぐはぐな気がするのだが、今この家は沖矢が住んでいて、家主である工藤優作と江戸川コナンは遠い親戚ということになっているそうだから、きっとこれで正しいのだろう。

「昴さ……ケイさん!?」
「こんにちは。コナン君」

名前と沖矢が向かい合って座り、ティーカップを持っている。それを目撃したコナンの衝撃は如何程のものだろう。

「ケイさん…何でここに?」
「昴君とお茶友達になったの」

嘘だろ?とコナンが沖矢に目線だけで問うが、沖矢は「そうなんだ」と微笑むだけだ。

「お茶友達っていつから…?」
「ついこの前、偶然昴君と話すタイミングがあってね。意気投合して一緒にお茶をする友人になったの」

このとぼけたような話はあながち嘘ではない。核心部分を抜いた外枠だけを話す。待田ケイがよく使う方法だ。

「ケイさんは美人ですからね。私にも多少の下心があるかもしれませんよ」
「あはは。昴君にそんなの欠片もないこと知ってるからね?」

『ケイさん』『昴君』と呼び合い、冗談すら交わす2人をコナンが信じられないという目で見ている。
それはそうだろう。
今まさにこの部屋のテレビで流れ続けているベルツリー急行の爆破事件。そこに乗っていたコナンと、降谷零ことバーボン。
あの日沖矢が言っていた通りコナンはバーボンの正体に辿り着いた。

(というのは昴君から聞いたんだけど)

名前は付き合いの長さから、降谷が何も語らないことを熟知している。別のルートから話を聞くにしても、蘭や園子は名前の欲しい情報を持っていないだろう。するとコナンか哀か…しかし彼らにバーボンのことを尋ねるのは藪蛇だ。
この時点で名前の残された選択肢は一つだった。
情報は命綱だと沖矢は言った。だからベルツリー急行で何が起きたのか聞き出すためにどうすればいいか。名前は考え抜いた末、正面突破することにした。

『あの日何があったんですか?』

どうせ名前が何を聞きたいかなんてバレている。それなら小細工は無用だと開き直ったのだ。だが意外にも沖矢はコナンたちが何を仕掛け、何を守り、何を知ったかを教えてくれた。そして…

(やっぱりめちゃくちゃ警戒されてる)

懸念していた通り、コナンは名前から視線を外さない。
まさか安室とケイが単なる友人だと思ってくれるはずもない。怪しむべき要素があまりに多過ぎる。少なくても待田ケイが組織の人間でないと証明する必要があるだろう。だが今はその時ではない。

「コナン君は昴君に用事?」
「う、うん…」
「じゃあ私はお暇しようかな」

名前が立ち上がると、上着を準備してくれた沖矢が見送ってくれる。実にスマートだ。さすが英国育ちだと感動すら覚える。
その間もコナンからの痛いくらいの視線が突き刺さってくるのは仕方ない。

「あの子には上手く言っておいてくださいね」
「承知した」

玄関を出たところでひっそり告げると力強く頷かれた。その口調は沖矢のものではないが苦笑するに留めておいた。
背後でドアの閉まる音を確認してから門を出た。本庁に行く前に待田ケイから苗字名前に戻らなくてはならない。一度自宅へ帰ろうと足を踏み出した時、再びドアの開く音がした。

「ケイさん待って!」

コナンが厳しい表情で呼び止める。
どうやら沖矢の言い訳を待たず追いかけてきたようだ。このあたりがこの子の若さだ。名前は嫌いではない。

「何?そんなに慌てて」

クスクスと笑う待田ケイはこれまでと何も変わらない。普通すぎる反応にコナンが躊躇いながらも口を開く。

「ケイさんは安室さんの何?」

ただの小学生がするには鬼気迫った問いだった。コナンは今、待田ケイに対する疑念でいっぱいのはずだ。
「怪しい」「そんなはずはない」と、疑いと否定を頭の中で繰り返しているだろう。険しい表情の中にどこか悲痛なものが見え隠れしている。
子供にこんな顔をさせてしまうことを申し訳なく思うが、表面上は何も気付いていない風の笑顔を貼り付ける。

「最初に言ったでしょ?私は安室君の同期だよ」

そんなことを聞きたいのではないとコナンが無言で責める。だが正面から否定することはできない。コナンにとって待田ケイは、あくまで『安室透の知り合い』という点でしか怪しむところがないのだから。

「コナン君は何を知りたいの?安室くんは私立探偵でポアロのアルバイト。それじゃあマズイことがあるのかしら?」

これにはコナンも虚をつかれた。
本来探られたくないことがあるのなら相手のことを探らないべきなのだ。ましてや名前は探りたい本人ではない。躱すどころか反撃の余地すら十分ある。
言い返せず俯いてしまったコナンに肩を竦める。こんな身近にバーボンがいたのだ。彼が必死であることは容易に想像がつく。
これは好機かもしれない。
名前も江戸川コナンの存在について思案していたところだ。

「謎があるならそれを解くのが探偵でしょう?」

だから名前は声に出さず唇だけでその名を告げた。

『工藤新一くん』




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