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Episode2. 06



「また事件に巻き込まれてるし…」

群馬県警に江戸川コナン絡みの調書が上がったと連絡が入ったのはベルツリー急行が走る数日前だった。
群馬のキャンプ場で遺体を発見した少年探偵団のメンバーが犯人により監禁され、危うく山小屋と一緒に黒こげになるところだったらしい。
その事件を解決したのはもちろん江戸川コナンだ。
毛利小五郎かコナンが絡んだ事件については報告を上げるよう部下たちに通達してあるのだが、これがまた頻繁に報告が来るのだ。

「歩美ちゃんを助けたのは若い女性…」

調書の中で最もひっかかるのはそこだ。その女性を見たのは歩美・元太・光彦の3人だと言う。

「これはどう考えるべきかな?」

自分の欲求に忠実に言えば、沖矢に小五郎のパソコンデータを見せてもらいたい。きっと絡み合った糸は真っ直ぐ1本になる。だがハッキングしたのが沖矢だという確かな証拠を見たくはない。
万が一名前が沖矢に接触したことがバレたら、降谷は絶対に名前に問うだろう。

『毛利小五郎のパソコンをハッキングしたのは沖矢昴か』

『沖矢昴の正体は赤井秀一か』

名前は『わからない』以外の答えを持ちたくない。
だから沖矢昴と会った際にも絶対に赤井の名は出さなかったし、ハッキングについても尋ねなかった。
証拠を持たないことが正解を知らないことと同義だとは思わない。
降谷に隠れて行動をすることもある。
降谷の望まない方法を取ることもある。
ゼロに所属する名前にとって降谷の事情を汲むことが最優先にはなりえない。

(でも嘘はつかない)

それだけは名前が貫いていることだ。
降谷が名前を『絶対に裏切らない』と言っているのはそれが理解されているからだ。

「若い女性は警察が来る前にどこかに消えてしまった」

名前はもう一度調書の一部を読み上げた。

「消えてしまった、か」

もしかすると、この表現は真実にとても近いのではないだろうか。
名前はすでに知っていた。“消えてしまった”存在を。そして消えてしまった彼が今どうしているのかを。
だから可能性の一つとして考えていたことがある。
やはりそのきっかけは名前の『勘』だった。偽りの名前を名乗らなければ名前が気付くこともなかったかもしれない。気付いてしまえばなぜなのかを推測してしまう。
例えば、灰原哀が何者であるか。


□ □ □


ピースは集まった。
事件に巻き込まれた探偵団の子供たちを助けて消えしまった若い女性。
毛利探偵事務所のパソコンで何かを見たバーボン。
そのパソコンをハッキングしていただろう工藤邸に住む沖矢昴。
貨物列車ごと爆発したベルツリー急行。

(これを少し別の角度から見てみる)

探偵団の子供たちを助けた時に姿が見えなかった灰原哀。
沖矢昴に工藤邸に住むことを勧めた江戸川コナン。
ベルツリー急行に乗車したバーボンとベルモット。

(赤井秀一は生きていて江戸川コナンが関わっている。だから赤井秀一は沖矢昴として工藤邸に住んでいる)

その理由はまだわからないが、少なくてもコナンと沖矢は協力関係にある。

(灰原哀はおそらく第2の工藤新一。灰原哀…いえ、灰原哀になった元の人物はキャンプ場で子供たちを助けた)

これは仮説の域を出ない。
バラバラの事実を名前の都合よく組み合わせたに過ぎない。
しかしキャンプ場で事件があったのは今から1週間前。ベルツリー急行のパスリングが手元に届く頃だ。

(もし哀ちゃんがリングをしたまま元の姿に戻ったとしたら。その姿を捉えた写真や動画が毛利探偵事務所のパソコンへ送信されていたとしたら。そしてバーボンとベルモットの目的が灰原哀になった人物であったなら……)

組織は彼女がベルツリー急行に乗車する可能性に賭けるだろう。
ベルツリー急行の走行中でなくてはならなかったことの説明ができる。

(列車は爆発してる。あそこまでやったからにはあの貨物車に哀ちゃんを追い込んだはず。でも本当にそうかしら…?)

パソコンをハッキングしていた沖矢昴はバーボンが次に出る行動を予想できたはずだ。
そしてこの事件にまだ嵌めていないもう一つのピース。

(江戸川コナン)

コナンが哀の正体を知っていないはずがない。哀が狙われているのであれば彼が対抗策を講じるだろう。赤井の死を偽装して降谷…いや、あの組織を騙したのだ。同じことが起きないと言えるだろうか。

「そろそろ本気で考えないといけないかもね」

名前が灰原哀の正体を考える時に、必ずぶつかる壁がある。

(なぜ江戸川コナンが存在するのか)

常識では考えられないことだが、公安鑑識が出した指紋データに間違いはなかった。だから名前は事実のみ受け入れた。その理由は飲み込んで保留にしたまま。
しかし灰原哀がバーボンとベルモットに狙われている以上、その意味を考えないわけにはいかない。

「これも自分で動くしかないか」

もしかすると今回の事件がそのきっかけを作ってくれたかもしれない。

「その前に哀ちゃんの安否確認…!」

名前はいまだ爆破現場が流れるテレビの電源を切り、携帯を取り出した。



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