Dream


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Episode2. 02



招き入れられた名前は応接室に通された。
家具や調度品が全て良いものなのだとわかる。世界的人気作家だけはある。名前もそれなりに高給職ではあるがここまでのものを揃えることは一生できなそうだ。

「コナン君や探偵団の子供たちからあなたのお話は耳にしています」

沖矢はアポもなく突然現れた初対面相手に極めて紳士的に対応をしてくれた。
名前にソファを勧めると、最近凝り始めたという紅茶を淹れ始める。名前と沖矢自身の分2つのティーカップが並べられ、沖矢は名前の正面に座った。

「自己紹介が遅れました。沖矢昴です」

名前を名乗った単なる自己紹介だ。
しかしその言葉に名前は目を閉じる。
この自己紹介こそが名前が最も聞きたかった言葉だ。
そしてここに来たことは間違っていなかったと確信を得た。

「沖矢昴さん…」
「はい」
「私、勘が働く方でして。その名前があなたの本当の名前でないことはわかります」

静かに告げた名前にほんの僅か眉が上がる。
いきなり何を言い出すのかと思ったかもしれないが、反論の言葉はない。

「あなたがただ事件の関係者としてコナン君に接触しただけであれば、私は気に留めなかったかもしれない。でもあなたはこの工藤邸に住んでいる。私には、あの子が容易にそれを許すとは思えない」

他人の沖矢を住まわせるのにはそれなりの目的があるはずだ。しかしそれも沖矢の素性が確かなものである前提だ。

「だから私はあなたを調べました。あなたが私たちの…いいえ、あの子の前に現れた時期や交友範囲を。そしてある説に辿り着いた」

沖矢昴が変装で別の人間である可能性に。
沖矢の正体が名前の推測通りの人間であれば、コナンが彼をここに住まわせたことにも納得ができる。

「それで、あなたは私を誰だと考えているのですか?」

沖矢の問いに名前は黙って首を振った。

「あなたの正体を暴くことは私にとって意味のないことです。私にとって重要なのはあなたが彼の障害になるか否か」

沖矢が“彼”であればバーボンの敵ではあるが、降谷の敵とはなり得ない。降谷自身がどう考えているかは別として。

『こんな面と向かって“絶対の味方じゃない”と言われているのに、君だけは絶対に僕を裏切らないと確信できるんだ』

“彼”の存在はこの先きっと降谷に必要になる。
それならば降谷が望まない方法であっても正しいと信じて貫くまでだ。
名前は降谷の絶対の味方ではない。
だが決して裏切りはしない。
沖矢を真っ直ぐに見据えるとその口元がフッと緩んだ。

「単身ここに来たのだから、もう結論は出ているのでしょう?」
「はっきりしたのはあなたが名乗った時ですけど」

この事実に降谷はまだ到達していない。名前が辿り着けたのはたまたま江戸川コナンというピースを持っていたからに過ぎない。
降谷にとってきっかけとなるピースは“彼”の死に対する疑念だ。そのピースが降谷の手に落ちれば、必ず沖矢に辿り着く。そして徹底的に正体を暴こうとするだろう。

「1つ質問なのですが、あなたはなぜ私の名前が本名でないと?」
「さきほど言いましたけど、勘ですよ」
「勘というものは根拠のないものと思われがちですが、実は経験に基づくものが多いのですよ。知識と言うよりは経験値に近いので言葉で表現しにくい。だから勘という言葉で済ませてしまう」
「勉強になります」
「あなたは何の経験で得たものなのでしょう?」

あくまで声音は落ち着いたまま名前の逃げ道を封じようとしている。ピリピリとした空気を肌に感じる。

「私のことはすでに調べたのでしょう?」
「待田ケイ。29歳未婚。中学・高校ともに成績優秀で品行方正。某国立大学も優秀な成績で卒業していました。才色兼備の見本ですね。一般的と括るには些か突出していましたが、怪しむべき点はありませんでした」
「それはどうも」
「だからこそ不思議なんです。あなたの経歴からは先程の勘を得られたとは思えないのですよ」
「経験値も何もないただの勘で済ませることはできませんか?」
「できませんね。あなたはその勘に絶対の自信を持っている。根拠がなければそうはいきません」

待田ケイの経歴は徹底的に調査しているだろうに、沖矢は食い下がる。それもまた彼の捜査官としての勘なのかもしれない。

「雰囲気は一般人のそれです。コナン君があなたをノーマークだったのも頷けます」
「そこまで言うなら一般市民として認めてもらいたいのですが」
「少なくてもあなたは安室透君と私、そして江戸川コナン君の秘密を知っている。それだけで十分なキーパーソンです。あなたがどの陣営に着くかで明暗が分かれる可能性すらある。その上平穏無事に生きてきた人間が身につくとは考えにくい勘を持っている。一般人と言い張るには難しいと思いませんか?」

ここで素直に名前が「はい」と言うはずもない。沖矢もそれは承知だ。だから次に来るのは核心を突く一言だ。

「あなたは誰なんですか?」

沖矢昴の細い目が開かれて、翡翠色がこちらを覗いた。



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