Dream


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Episode1. 08



携帯のアラームが朝を告げる。手を伸ばしてそれを止めてから「んー」と腕を伸ばす。

「痛っ」

拳が何かに当たると同時に掴まれる。
そう言えば降谷が隣で寝ていたなと思い出したが特に謝罪もしない。
そもそもここは待田ケイのセーフハウスだ。それなのに夜中に降谷がベッドに潜り込んできた。セーフとは何なのか。

「おはよう」
「…おはよう」

なぜ来たのか問うのはやめた。聞いてどうなるわけでもない。
降谷も起き上がり伸びをする。

「朝食何が食べたい?」
「トーストと卵」
「卵はスクランブルエッグにするか」

朝から降谷の作ったご飯が食べられるのは悪くないと名前がベッドから出ようとすると、腕を引かれてシーツに縫い付けられる。
ニコリと名前を見下ろす降谷を睨み付ける。

「朝ご飯!」
「終わったら作ってやる」

反論しようとするとそれを待っていた降谷が口を塞ぎ舌を捻じ込んでくる。

「ふ…るや…」
「名前、大人しく食べられて」
「ちょっと…待って!」

力一杯押し退けると一旦唇が離れる。眉を寄せて不機嫌を隠さない降谷は無視することにした。

「話があるの」
「それは今する話か?」
「今する話!降谷、私を嵌めたでしょう!?」
「何の話……ああ、ポアロの件か」

降谷が服の中で胸を掴んでいた手を離す。
やはり、と名前が怒りよりも呆れを露わにする。
降谷…安室と初めてポアロで鉢合わせた日、安室は名前(ケイ)のことを元々知り合いだと紹介した。しかし赤の他人を演じることもできたのだ。むしろその方が先日のコナンのような詮索をされずに済む。

「でも他人ということにしたら、苗字はポアロに来なくなるだろ」
「そりゃあ安室透と知り合いだってばれるリスクを避けたいし」
「だから初めから知り合いにした。そうすれば君はポアロに通い続けざるを得なくなる」

同期だという安室が働き始めたら名前が来なくなるのは不自然だ。安室の評判としても望ましくない。結果、いまだポアロに通い続ける待田ケイがいる。

「だったらやっぱり事前に相談があってよかったんじゃ…」
「大反対されるのをわかってて相談するはずないだろ」

降谷は悪びれない。

「苗字だって思うところがあってポアロに来てるんだろう?僕の都合でやめることはない」

そうは言っても降谷は上に確認を得てしている仕事。名前は隠れて行っている言わば潜りだ。どちらを優先すべきかは明らかだ。だが、降谷は名前自らやめさせないためにこの方法を選んだのだろう。
……甘くないだろうか。

「話は終わりか?名前」
「……終わりです」

名前が小さく呟くと、満足そうに細められたブルーの瞳が近付いた。


□ □ □


トーストにスクランブルエッグに簡単なサラダと食後のコーヒー。ここはカフェだったかと錯覚する朝食を済ませた名前は待田ケイになるべくメイク道具を出す。

「…何?」

降谷の視線に気付いて首を傾げる。

「実はちゃんと見たことなかったなと思ったんだ。待田ケイに化けるところ」
「化けるって…」
「この前警視庁ですれ違っただろ?毛利親子もコナン君も、誰も君に気付いていなかった」

RX-7が廃車寸前に追い込まれた日のことだ。
確かに安室以外の人間はそこに待田ケイと同一人物がいるのに気付かなかった。

「怪盗キッドが使うマスクでもないのに大したものだ」
「褒められてるのよね?」
「もちろん」

全く褒められた気はしないが、それ以上は反論せずに化粧品を並べ始める。
名前の特技の一つにメイクがある。
所謂特殊メイクではない。普通のメイクだ。だが、アイメイクや眉、髪型を工夫して組み合わせるので素顔の苗字名前とは全く異なる印象になる。
ほぼ別人に見えるので職場では『変装』と称されているほどだ。
先日警視庁でコナンでも見破れなかったということはなかなかの出来栄えではないかと自画自賛している。

「いくら降谷でも目の前でガッツリ化粧するところ見られたくないんだけど…」
「それは意識してくれてると思っていいのかな」
「1時間前に何してたか覚えてる?」
「もちろん。何なら君の蕩けた顔も鮮明に思い出せるが」
「わかった。もういい。こっち見ないで」

ピシャリと跳ねつけると、クスクスと笑いながらもリビングへ移動してくれた。
降谷に朝から翻弄されて時間もない。手早くメイクを済ませて髪を巻く。

「待田ケイの出来上がりだな」

あとネックレスをつけるだけのところで降谷が部屋に入って来る。アクセサリーが収納された引き出しを迷わず開けるとそこから一つ選んで取り出し、名前の後ろに立つ。

「メイクをするのも服を選ぶのも、髪を整えるのも、僕じゃない男に会うためなんだから腹立たしいな」

そう囁いてネックレスをつけると頸にそっとキスを落とす。

「欲しいものは手に入れろ。相手が僕でも押し通せ。そのための苗字名前と待田ケイだろ?」

鏡の中に映るのはよく知るもう1つの自分の姿。今日も自分は待田ケイを名乗るだろう。だが名前はもう自分の道を決めていた。
降谷の大きな手が名前の背中を押した。



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