Dream


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Episode1. 07



背後から複数の気配が近付いている。名前は気付かないふりをしながらほんの少し歩く速度を緩めた。

「ケイお姉さーん」

明るい声に振り返ると少年探偵のメンバーが駆け寄ってくる。皆ランドセル姿のままなので帰り道なのだろう。ここは帝丹小の近くだったか。

「「「こんにちは!」」」
「こんにちは」

元太・光彦・歩美の挨拶に笑顔を返す。その後ろからゆっくりと歩いてくるのはコナンと哀だ。

「ケイさんお仕事は?」
「これでも仕事中よ?外出した帰りなの」

淀みなく答えるが、実際は協力者と会って来たところでこれから本庁へ戻ろうかと考えていた。
ようやく名前に追いついたコナンがどこか躊躇いがちに見上げてきた。

「ケイさんは安室さんと知り合いなんだよね」

先日の事件があったせいだろう。毛利小五郎に感銘を受けて弟子入りしたという安室に違和感を覚えたのかもしれない。
それはそうだろう。あのRX-7の状態だ。ただの一般人はあんな無茶をしないし、できない。

「この前久しぶりに再会したみたいにしてたけど、あれ嘘だよね」

名前の前を元太たちが楽しそうに学校での話をしながら歩いている。できればこの追究を逃れてほのぼのした会話に混ざりたいものだ。3歩分がとても遠い。

「嘘だと思う理由を聞いてもいいかな」
「普通久しぶりに会ったらまず『元気だったか』とか『今何をしてる』とか聞くよね。でも2人はそういう話はしていなかった。ケイさんは安室さんに会って驚いてたけど、それは安室さんがポアロにいたことに対してで、久しぶりに会ったことじゃないよね」

これだから探偵という人間は困る。人の言葉の微細な部分を突いてくるのだ。そして追究の手はますます拍車がかかる。

「まだあるよ。ケイさんが仕事で忙しかったって言ったのに安室さんは仕事について尋ねなかった。久しぶりなら『何の仕事してるのか』とか聞くよね。だからケイさんの今の仕事を知っていたってことだ」

ここまでコナンに詳らかにされてしまうとこちら側のミスとしか言えない。だから事前に知らせておいてくれればいいものを。そもそも赤の他人を通しても良かったはずなのだ。

(………そうだよね)

「ケイさん?」
「あ、ごめん。続けて?」

閃いてしまったある可能性に思わず顔が険しくなりかけたが即持ち直す。今はこの少年との攻防に集中しなければならない。

「だから、ケイさんと安室さんは最近会ったことがあるか、もしくは…」
「よく会う間柄」

コナンの締めの言葉を受け取る。

「さすがね。小さな探偵さん」

ニコリと笑うと眼鏡の奥に動揺が走った。
まさかこんなにあっさりと認めるとは思っていなかったのだろう。名前もプロだ。コナン相手に引けを取るわけにはいかない。

「私と安室君が会ったのは久しぶりじゃないわ」
「それならどうして嘘を…」
「どう推理する?探偵さん」

挑発的に問いかけるとコナンはやはり間髪なく答える。

「2人が恋人同士っていうのが1番妥当だけど、それなら嘘をつく必要ないよね」
「そうね。私と安室くんは付き合ってないわ」
「次は友達って線だけどこれも嘘をつく必要はない。嘘をついたってことは2人が会ってたらまずい理由があるってことだ」
「よくある話だと浮気とか不倫とかね」
「あとは同期っていうのも嘘で名前さんが安室さんの依頼者だった場合」

鋭い指摘だ。嘘をついてまで守るべき秘密の第一は仕事だろう。仕事関係であることは間違いないのだからコナンの読みは正しい。
だがコナンは推理に必要な安室透の正体という重大なパーツを持っていない。

「残念不正解。でも、もう一歩かな」

名前の答え合わせにコナンはうーんと唸った。
安室へは多少の違和感はありつつもまだ不信感にはなっていないのだろう。先日の事件も方法は一般的ではなかったが、結果的にはコナンを救ったことに変わりはない。

「確かに元依頼人にしては安室さんの態度は馴れ馴れしい感じだよな…」

コナンは純粋に謎の解読に興味があるだけのようだ。
名前は腰を屈めてコナンに目線を合わせると、片目を瞑って最後の種を巻いた。

「もしコナン君が私と安室くんの関係を探り当てたら教えてね。その時は証拠も揃えること。ね?小さな探偵さん」


□ □ □


ケイはこれからまた寄るところがあると地下鉄乗り場へ向かった。それを少年探偵団と共に見送ると、哀が溜息をついた。

「探偵ってどうして自分の推理を披露するのに必死になるのかしら」
「さっきのケイさんの話か?」
「そうよ。あなた、途中から質問する側から質問される側に変わってたわよ」

その言葉にコナンがハッとしたので哀の顔がますます顔が険しくなる。

「やっぱり気付いてなかったのね。あなたを一泡吹かせるなんて、彼女ただの美人ってわけじゃなさそうね。それとも美人だから油断したのかしら?」
「んなことねーよ」
「そう?ならいいけど」

コナンは自分とケイのやりとりを思い出す。油断はしていなかったはずだがケイは犯人ということでもない。本来事件でもなんでもない2人の関係を追究するだけ無粋なのだ。

「なーんか毒気を抜かれるんだよなぁ」
「油断してるじゃない。まぁわからないでもないけど」

哀がケイに対してはそれほどの警戒心を持っていないことはコナンも見て取れた。だからこそ余計に油断しそうになるのだが。

「コナン君ー哀ちゃーん、置いてくよー!」

かなり先をいく歩美が手を振っている。なかなか追いつかないコナンたちに元太と光彦も何か文句を言っているようだ。
「今行くー」とコナンが声を張ると哀も揃って走り出した。



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