Dream


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Xmas Eve



窓の外に広がる夜景を眺めながら名前はシャンパングラスを傾ける。

「こんなベタなことするとは思わなかったわ」
「好みじゃなかったか?」
「そういうわけじゃないんだけど……」

12月24日。世の中がクリスマスイヴで浮かれる中、警察庁のデスクにかじりついていた名前は定時に颯爽と現れた降谷に攫われるように車に連れ込まれた。
ブランド店のショッパーを押し付けられたので中を覗けば青いカクテルドレスが入っている。どうやらバッグやアクセサリーも揃えられているようだった。
その時点で察しはしたが、案の定車は有名な高級ホテルの駐車場へ入った。
渡された一式に着替えてみれば、名前の体型が映える良い見立てだったのはさすが降谷と言うべきか。

「高級ホテルのディナーからの最上階のバーにスイートルーム」

こんなホテルのスイートルームなんていつから予約すれば取れるのだろうか。
広いベッドに眩しい程のバスルーム。ルームサービスのシャンパンも一口で高いものだとわかる。
クリスマスデートとしてはベタ過ぎるほどベタではあるが、これで文句を言う女性はいないだろう。

「お気に召さなかったかな?」

首を傾げて名前を見る降谷は言葉とは違い全くそうは思っていないようだった。

「それとも仕事を連想させる?」
「わかってて聞いたの……」

そうなのだ。こういった場所は初めてではない。しかしその全てがプライベートでなく仕事の付き合いであったり、潜入捜査をする過程で必要に迫られて来たのであって、毎回気分は重いものだった。

「だから余計に名前と来てみたかったんだけどな」
「……1つだけ確認したいんだけど」
「何だ?」
「この部屋使ったことある?」

名前の問いに降谷が一瞬だけポカンとして、クスクスと笑い出した。

「そういうところが可愛いんだよな」

降谷は名前の手からシャンパングラスを奪うと一気に喉に流し込んだ。そしてネクタイを外して椅子の背に放り投げた。
降谷が探り屋バーボンとしてハニートラップをしていたことは知っていた。だが仕事で必要なら口を出せることではないし、自分も似たようなものだ。

「ハニートラップで使ったのと同じ部屋では抱かれたくない?」
「当たり前でしょ」
「君だって似たようなことをしていただろう?その度にはらわたが煮えくり返る思いをしていた男がいたのは知ってたか?」
「は……!?それっていつの話……?」

確かに過去の捜査上、ハニートラップと言われても否定できないこともした。必要だったのだ。でも降谷とこういう関係になってからは止めた。だからかなり前の話であるはずなのに。
降谷はニッコリ笑うと名前の胸の谷間に指を這わせた。

「僕がバーボンとしてハニートラップをしても君は何も言わない。でも同じ部屋で寝たくないくらいには嫉妬してくれるんだな」
「……何も言わないからって何も思ってないわけじゃないのよ」

本当なら彼の腕の中にいるのは自分だけでありたい。彼の唇が他の女に触れることなど考えたくもない。ましてや彼の温度を自分以外が知っているなんて気が狂いそうになる。

「ハニートラップ、して欲しくないって言っていいんだぞ」
「そんな権利ないもの」

降谷が名前の手を引いてベッドサイドに腰かける。

「そりゃあ『止めろ』と命令されても僕は従えない。でも『して欲しくない』って気持ちを言うのは自由だろう?その後にどうするかは僕が決める」
「言っても止める気ないくせに」

名前が気持ちを口にしたところで何も変わらない。バーボンは組織からハニートラップを命じられれば従うしかない。怪しまれる行動は極力しない方がいい。

「確かに全部のハニートラップを止めるのは難しいけどな。名前以外と寝るのはとっくに止めてる」
「…………は?」

視界がくるりと回って天井が映る。一瞬のうちにドレスのファスナーは下ろされ、上半身の肌が露わになった。
胸の頂を含まれて舌で転がされると、背中からゾクリと快感が昇ってきた。
降谷の言葉を頭の中でもう一度反芻する。
優しく抱きしめる腕も、慈しむように這わせる唇も、一つになる体温も、名前だけのものだと思っていいのだろうか。

「零」
「ん?」
「高級ディナーに素敵なバーとスイートルーム。ベタだけど……嫌いじゃない」

降谷好みの服やアクセサリーで名前を着飾るのも、脱がしやすいドレスを選んでいたことも大目に見よう。お喋りなくせに肝心なことは言わない口が、今日はこんなにも言葉をくれたのだから。

「嫌いじゃないから……朝まで堪能したい、かも」

舌の動きを止めた降谷が顔を上げる。驚いて見開いた目はすぐにその奥に熱を持ってギラついた。

「それじゃあお望み通りに朝までじっくり味わおう」

自分だけの男だと思って過ごす夜はどんな味だろうか。初めての夜のように胸が高鳴るのを感じながら、名前は与えられる快感に身を委ねた。



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