Dream


≫Info ≫Dream-F ≫Dream-A ≫Memo ≫Clap ≫Top

恋人の日



6月12日がもうすぐ終わろうとしている時刻。徹夜覚悟で戻った本庁で仕事をしている名前の携帯に降谷から着信が入った。

『今日は恋人の日だそうだ』
「へぇ〜それが私と降谷に何か関係ある?」

前置きもなく告げた降谷の言葉をにべもない態度であしらう。
散々付き合っていないと公言しておいて何を言っているのだろうか。

「絶対零度の空気を感じるよ…。まぁそう言うと思ったけどな。でも別に恋人でなくても恋人っぽいことはできると思わないか?」

『恋人らしい』と言えば恋人たちを指すだろうが、『恋人っぽい』言えば恋人に限ることはない…と言いたいらしい。詭弁だ。だがパソコンとの睨めっこも飽きてきていた名前は敢えて降谷の悪ふざけに乗ることにした。

「降谷の考える恋人っぽいことって何?」
『そうだな。まずはデートするとか』
「私まだ仕事中なんだけど」

デートそのものを否定はしないが、もうすぐ今日が終わろうとしている時間にそれはないだろう。

『手料理を振舞うとか』
「降谷の手料理しばらく食べてない…」
『ポアロで食べてるじゃないか。それよりも君が作る選択肢はないのか?』

電話越しのクスクスという笑いが耳を擽る。

『じゃあ君の考える恋人っぽいことは何だ?』

しばらく恋人という存在がいない名前は考え込む。改めて聞かれるとすぐには出て来ないものだ。

「そうねぇ。やっぱり一緒に遊びに言ったり…ご飯食べたり…」
『僕と同じじゃないか』
「今考えてるところ!あとは手を繋いだり、キスをしたり…」
『セックスしたり?』
「……恋人の定義から議論を始めましょうか?」

デートはともかく、他のことは全て当てはまる自分たちに頭が痛くなる。恋人はいない…はずだ。

『他にも恋人っぽいことはあると思うんだが…』
「墓穴を掘りそうだからあまり聞きたくない」

名前の抵抗をあっさりと無視した降谷が続ける。

『家でゆったりと2人きりで過ごすのも恋人っぽいと思わないか?』

その時、警備企画課の扉がガチャリと開いた。入って来たのは明るい髪と褐色の肌の同僚だった。

「仕事どのくらい残ってる?」

名前が携帯の通話を切ると、降谷も同じ動作をしてから自席についた。そして名前の机にのった資料に視線を向け、その量にため息をつく。

「溜め込んだな」
「地下活動に専念していたバディのおかげで2人分なのよ」

組織の任務で留守にしていた降谷に代わって処理した案件もいくつかあった。そちらに時間を割かれた結果、自分の案件の報告書にすら手が回らなかったのだ。

「僕の分をくれ」

殊勝なことに自身の分は引き受けると申し出た降谷に、言われた通りの資料を差し出す。最初は片手を出していた降谷だが、思いのほか多い量に仕方なく両手で受け取ることになった。そしてそのままの格好で顔を歪ませているので、名前は笑って書類の山から一束を抜き出す。

「急ぎはこの1件だけよ。ちなみに私の急ぎ案件も今やってるのと、もう1件だけ」

言外にそれが終わったら帰ろうと含める。降谷は少し驚いて名前を見るが、それならなぜここまで来たというのだ。

「2人でゆったりと過ごすんでしょう?ちょうど観たい映画があったのよ。明日は寝不足だけどいい?」

名前の言葉に降谷はフッと顔を綻ばせる。

「…そこらへんの恋人なんかよりもずっと君は僕のことをわかってるな」

部屋に入って来た降谷を見て察した。組織の仕事で疲れた時…特に精神的に疲弊した時の顔だった。降谷は自分をすり減らすと、決まって名前のところへ来る。それは彼が組織に入った頃から続いている暗黙の了解だった。

「ねぇ降谷。恋人かどうかなんて、正直どうでもいいと思わない?」
「そうだな。僕と名前の関係は僕と名前だけのものだ」

書類が終わるまでどのくらいだろうか。
その後は恋人たちよりも恋人らしい時間が2人を待っている。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -