Dream


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Episode1. 06



警備企画課の部屋でデスクワークに勤しんでいると目の前の先輩から1枚の写真が渡された。そこに映っているのは見知った車…だったはずのものだろう。少し自信がない。何しろ助手席が潰れてなくなっているのだから。

「どうすればこうなるんでしょうか」
「それは隣の奴に聞け」

顎で指された降谷は澄ました顔で「人助けだよ」などと言っている。

「これ、あの日のやつ?」
「そうだよ」

銀行強盗一味に恋人を殺された女性が復讐のために毛利小五郎を利用した事件。犯人がコナンを拘束して逃亡したのを降谷が車を体当たりさせて止めたという結末だった。
事情聴取のために警視庁に連れてこられた一行を目にしたのもあり(そしてその中に安室透もいたため)供述調書は確認していたが、まさかRX-7がここまで悲惨なことになっているとは思わなかった。

「コナン君が人質にされていたから仕方なかったんだ」
「嘘。どうせコナン君が自分からついて行ったんでしょう」

名前が眉根を寄せる。コナンの無茶も困ったものだ。
しかし決して安くない車をここまで躊躇いなくぶつけるとは。拳銃を持った人間が車内にいたと聞いているので一刻を争う事態であったことは否めないが、コナンならここまでしなくても何らかの策を持っていたのではないだろうか。コナンをただの小学生と認識しているはずの降谷にそれを望むのは難しいとわかっているが、この写真を見ると他に方法はなかったのかと問い詰めたくなる。

「廃車…」
「まさか!修理に出したよ」

そこらの中古車を買った方がよほど安上がりだろうが、そんなことは本人が百も承知だろう。修理会社に大いに同情するのでその分降谷から巻き上げてほしい。

「というわけだから今日送ってほしい」

綺麗な笑顔を作ってさも当然のように言ってくる。名前が断ることなど微塵も考えていない様子なのが腹立たしい。

「お断り!仕事がたんまりあるの」
「御礼に夕食作るぞ」
「う…」

この一言の威力は絶大だった。
情けないことに名前は完全に降谷に胃袋を掴まれている。普通は男女逆だろうという指摘は認めない。料理の腕を前に男女の性差は意味をなさないのだ。

「お前ら先輩の目があるのに堂々とイチャつくな」

2人の前に座る先輩が心底迷惑そうに溜息をつく。
それも仕方ないことではある。「送ってほしい」と言いつつ降谷は夕食を作ることを口実に名前の家に行く気でいるのだから。

「苗字も残念な奴だな。美人だからモテるだろうに、こんな面倒臭い男に捕まって」
「言っておきますが、付き合ってませんからね?」
「本当にめんどくせーなお前ら…」

降谷と名前の関係は基本的には隠しているがゼロの中では例外だ。2人が同期であることもバディでもあることも周知であるし、隠さなければいけない理由が存在しない。付き合ってないと主張する2人が、男と女としてそれなりの関係であることも筒抜けだ。

「降谷、俺たちにも一度くらいお得意の料理を振る舞ってくれよ」
「僕に何のメリットが?」

これもまた綺麗な笑顔で一刀両断する降谷に、先輩はもう何も言うまいと口を閉ざした。

「車、出してくれるだろ?」
「……デザートつけてくれる?」
「もちろん」

しかしこれを聞いた諸先輩たちが一致団結して降谷に容赦なく大量の仕事を持ってきた。

「嫌がらせですか?」
「障害があった方が燃えるだろ」
「なるほど」

鼻息を荒くしていた先輩たちだったが、名前がPCを閉じると同時に全て終わらせた降谷の報告に撃沈した。そして名前を連れ立って部屋を出ていった降谷の背中に先輩たちが次々に野次を投げつけた。


□ □ □


「ところでさっきの言葉だが」

名前の車に乗り込みシートベルトをカチャリと締めると、降谷が頬杖をついてこちらを窺っていた。この顔はよろしくない。

「『どうせ』コナン君が『自分から』?」

やはり失言だったか。降谷が何も反応しないので流されたと思っていたが、単に先輩の目があったからのようだ。助手席からの視線が痛い。

「苗字はコナン君のことをよく知ってるみたいだな」
「降谷よりはね」

コナンが犯人の乗る車に同乗していた。だがただの子供が犯人によって人質にされたのだとは逆立ちしても考えられなかった。

「僕は毛利小五郎と一緒にいたけど、もしかして選択を違えたかな」
「間違ったも何も、安室透は毛利小五郎の弟子でしょうが」
「眠りの小五郎の、ね」

意味深な言い方をする。降谷が毛利小五郎やコナンと事件に遭遇したのは2回目のはずだがどういう洞察力をしているのか。

「君といい彼女といい、コナン君はすごい2人を味方にしているな」
「…は?」

コナンの味方だと明言されると非常に微妙ではあるが、もう1人の彼女というのは誰だ。言い方からして蘭ではないだろう。

「そしてその2人に僕は振り回されるというわけだ」

降谷はそれ以上何か言うつもりはないようだ。窓の外を見て「腹減ったな」ととぼけている。しかし深追いしてほしくないのは名前も同じだ。首を振って頭のスイッチを切り替えると名前はアクセルを踏み込んだ。



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