Dream


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Episode1. 05



ポアロのキッチンで大量のサンドイッチが生産されている。大人数の来店客はいないのにどういうことかと梓と目を見合わせていると「よし」と最後にラップをかける。

「安室さん、そのサンドイッチどうするんですか?」

梓の問いに爽やかな笑顔を向けた安室の答えは「毛利先生への差し入れです」だった。
そういうことかと納得した名前は梓に食後のコーヒーを頼んだ。
毛利探偵事務所に差し入れを持って行った安室は程なくして戻ってきたかと思えば、昼まででシフトは終わりだから小五郎の依頼について行くと言う。休日の昼帯だからシフトの延長があるかもという出勤前の懸念に反して、今日は比較的空いているようだ。店内を見た梓が快く送り出す。
名前は口を挟むことなく残り少なくなったコーヒーを味わっていた。
上着を取ってきた安室が足早に出口へ向かう。

「悪いな」

名前の横を通り抜けたその一瞬の囁き。

(全然悪いと思ってないくせに)

心の中で悪態をつくが、実は名前自身もそれほど悪いとは思っていない。そういう仕事なのだ。例え久しぶりにオフが重なり2人の時間を過ごす約束をしていたことをたったの4文字で反故されても、だ。

「梓ちゃん、コーヒーお代わりちょうだい」
「はい!」

2杯目のコーヒーを飲みながらこれからの予定を組み直すことにしよう。
今日は降谷が安室として動いているのだ。それならば風見を捕まえることができそうだ。
すでに名前は仕事モードに切り替わっていた。


□ □ □


「風見さんは降谷がポアロでアルバイトすること知ってました?」
「ええ。時間の都合がつかなくなることが増えると謝罪していただきました」

警視庁公安部の警部補・風見裕也は降谷直属の部下だ。降谷の部下ではあるが彼に代わって名前が連絡を取ることも多い。場合によっては名前の指揮下に入ることもある。だから名前の部下と言ってもあながち間違いではないし、風見も年下の名前に対して敬語を遣う。
その風見は休日にも関わらず警視庁内にいた。書類仕事が溜まっているのだと疲れた顔で言われたが、容赦なく彼に資料の要求をした。それはそれ、これはこれだ。

「本当に知らされてなかったのは私だけなんですね…」
「苗字さんなら後からでも理解してもらえると考えたのでは?」
「絶対違うと思います」

真面目な風見らしい回答だが、『理解してもらえる』というよりも『言い包められる』と表現すべきだし、上司に黙ってポアロに通っているという名前の痛い部分をつけるという勝算もあっただろう。

「降谷さんは苗字さんを信頼しているように見えますが」
「あれは遠慮がないって言うんですよ」

そもそもこうしてあからさまに愚痴を漏らす名前も降谷に対して遠慮がないのだからお互い様だ。立場の違いからか、決して名前の愚痴には乗ってこない風見だが、いつか同意させたいと常日頃名前が狙っているのを彼は知らない。

「頼まれた資料ですが、すぐご用意できるかと」
「じゃあその辺歩いてきます。警視庁久しぶりなので」
「いいんですか?あまり目立たれては…」
「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」

風見に手を振って公安部を出る。
隣の建物で働いているというのに警視庁に来る機会はあまり多くない。しかも名前は警視庁警察学校ではなく警察大学校出身で余計に馴染みがないのだ。
頭の中の見取り図を思い浮かべながら庁内をぐるりと回る。
途中何度か視線を感じたがそのほとんどが男のものだったので名前の容姿の問題だろう。よくあることだ。風見の心配は杞憂と言えた。
一周し終えて公安部に戻ろうとした時、エントランスが騒がしくなった。野次馬のように近付いて見えたのは、探偵事務所のメンバーとヘルメットを持った(恐らく)高校生と、最後に安室が庁舎に入って来るところだった。
捜査一課の高木に連れられているところを見るとどうやら事件に巻き込まれたらしい。ポアロで別れてから数時間だというのにどうしたことだ。高木が「コナン君は一度医務室へ」と慌てているのでまた何かやらかしたようだ。
小五郎を先頭にコナンたちは名前のすぐ横を通り過ぎていく。
しかし誰一人として名前に話しかける者はいない。まるで名前を待田ケイだとは認識していないようだった。その中で安室だけが口元に笑みを浮かべている。

「あれが毛利小五郎ですか?」

名前の背後から風見が顔を出す。名前が頼んだ資料をもう用意してくれたようだ。手にはUSBが握られている。無言でそれを受け取りポケットへしまう。

「そうよ。あれが眠りの小五郎」

そう言った名前の視線は風見とは違う少年に照準があった。



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