*パラレル設定
*円堂=中学生、豪炎寺=医者
*円→豪


稲妻総合病院の広々とした待合室に円堂は来ていた。

「円堂さん 円堂守さん、5番の診察室にどうぞ」
看護師によって名前を呼ばれた円堂はゆっくりと立ち上がると気だるい体を引きずるように5番の診察室へと進んでいく。

事の発端はほんの数時間前。

「ほんとに一人で大丈夫?」
隣に座った母の温子はマスクに顔を覆った我が息子を心配そうに眺めている。

「大丈夫だよ、母ちゃん。」
マスクをずらしてそう答えるその声は少し掠れて鼻声だった。

「だってあんためったに風邪ひかないじゃない」

「大事な用事があるんだろ?俺なら平気だって、ただの風邪だよ」

「……終わったらちゃんと連絡入れるのよ?」
了承の代わりに手を挙げたのを見て、温子はコートを羽織ると病院の外へと向かっていった。

円堂は病院の雰囲気が苦手だ。
清潔感を漂わす白で統一された壁や廊下、独特の消毒液のような香り、そして何より医者からの診断で大好きなサッカーを止められる可能性がある。
鼻詰まりと喉の痛みはあるが、熱はないということを伝えたうえで運動は可能か聞いてみよう、そう待合室で医者に言うべきことを考えていたときに名前が呼ばれた。

「円堂さん 円堂守さん、5番の診察室へどうぞ」

「ハイ」
ゆっくり5番の数字が大きく書かれた引き戸の前まで来ると、円堂は一呼吸置いてそれを引いた。

「もう少しお待ちくださいね、すぐ先生来ますから」
本来ならば医師が座るのであろう椅子に姿はない。
円堂は少し安堵して看護師に指定された椅子に座る。
奥の方で、消毒済みの器具が、ズラリと並んでいるのを見ると少し背筋が寒くなったので、気を紛らわすためにも室内に貼られたポスターなどに目をやって時間を潰すことにした。

「こんにちは、お待たせしました」
少しだけ慌ただしい足音と共に白衣を着込んだ人物が目に視界に入ってきた。

「こ、んにちは……」
そこにいたのは円堂が勝手に想像していた医者のイメージとはだいぶかけ離れた、顔立ちの整った若い男が笑顔を浮かべて目の前の椅子に座る。

首から下げられた名札には「豪炎寺」と書かれていた。

「今日はどうされましたか?」

「……あ、昨日から少し喉が痛かったんですけど、朝起きたら悪化しちゃったみたいで」
カルテが表示されたパソコンを操作しながら症状を問うてくる医師を暫く見つめてから、円堂は慌ててマスクを外すと自身について語り始めた。

「なるほど、それでは見ていきますね」

聴診器を当てられ、喉と鼻も器具を使用して調べた結果、やはり風邪だと診断される。
そして薬を数種類出すと指示があった時、円堂は一番聞きたかったことを口にした。

「先生、スポーツはしても大丈夫ですか?俺、サッカーが大好きで毎日練習がしたいんです!」

「今日は熱が出るといけないので安静に」

「明日からはいいですか?」
円堂のその問いかけに医者はこくりと頷いて答える。

「よかったー」

「よくわかる」

医師の呟きに、円堂は数度瞬きをしてそちらを見た。

「俺も小学校、中学、高校とずっとサッカーをやっていたから怪我や風邪で練習できないのがもどかしい気持ち、よくわかるよ」

「本当ですか?!先生、ポジションは?」

「ずっとフォワードだった 君は?」

「俺は、キーパーやってるんです!!先生のシュート受けてみたいです」
このやりとりを皮切りに、次々とサッカーの話題で盛り上がっていった。

「豪炎寺先生、次の患者さんがお待ちですよ」
走り回っていた看護師の一人がカルテを抱えながら、盛り上がる二人を見つけて小声でそう施す。

「すみませんでした、俺つい…」

「いいや、懐かしくて俺のほうこそ長引かせてすまない。お大事に」

「……はい! ありがとうございました!」

コートとカバンを持ち、マスクで再度顔を覆った円堂は一礼すると診察室を後にした。


診察室へ入った時の重苦しさはまるで嘘のように、軽い足取りで病院の隅にある公衆電話に向かうと自宅へ電話を掛ける。

「もしもし母ちゃん?やっぱりただの風邪だったよ……うん。部活も明日から参加していいって言われた」

「あら、たいしたことなくてよかったーそれより守、なんで嬉しそうなの?」

「え?俺、そんなに嬉しそうかな?」

温子にそう指摘をされた時、脳裏に浮かんだのは先ほど出会ったばかりの医師の顔だった。

病院が苦手である…そんな意識がいつの間にか薄れ、もう一度彼に出会い学生時代の話をもっと聞いてみたいという思いが湧きあがる。
その時は確かに憧れの感情であった。

「豪炎寺先生……か」
しかし円堂の体調が元に戻ってからその感情がもっと大きなものに変わることに、今はまだ気付かない。

***
ツイッターでの診断にて「病院が舞台、片思いの円豪」と出て書いたもの。
これから円堂さんが猛アタックします 笑




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