*世界編設定を元にしたパラレルです。


午前の練習が一区切りして昼食を取った後は自由行動が許される。

染岡は今日が日本で毎月購読していた雑誌の販売日であることに気が付き、置いてあるかは別としてもコンビニへと向かい確認したくなった。
そのことを伝えるため、次の練習内容について豪炎寺、鬼道と2人へ嬉しそうに話している円堂に声を掛けた。

「俺ちょっと外出るな」

「ん?外周か?」

「それじゃ午後まで体力もたねぇよ。コンビニ行ってくる」

外周なら付き合うぞと目を輝かせて言った円堂に染岡は半ば呆れて返した。

「携帯を一応マネージャーから預かって持っていったほうがいいぞ」

鬼道がマネージャー陣の方へと軽く顔を向け、それに同意するように豪炎寺が頷く。

「あーそうだな、そうする」

「染岡君、僕も一緒に行っていい?」

マネージャーたちのところへ向かおうとした時、耳に届いた柔らかい声。

振り向けば先ほどまで食堂にはいなかったはずの吹雪が傍にいて柔和な笑みを浮かべている。

「買いたいものあるなら代わりに買ってきてやるけど?」

「軽く散歩したいなって思ったんだけど、迷惑かな」

その言葉と共に眉尻が下がり、まるで叱られた子供のようになっている。
そして言いはしないものの「それくらいいいだろう連れて行ってやれよ」と鬼道、豪炎寺から視線で諭され、染岡は「行くぞ」と短く言うとマネージャーに事情を説明し、携帯を預かって宿福を出た。


「なんか2人でこうやって歩くの、久しぶりな気がするね」

「そういえば、そうかもな」

「デートみたいだね」

「……はぁ?!」

言葉の意味が理解できず数秒かたまってから、漏れた情けない声。
ただコンビニに行くだけだというのになぜそんなむず痒い例えをするのだろうか、吹雪を見た。

「ちょっとした散歩でも、染岡君と一緒だと楽しくなるんだ。不思議だね」

「俺にはその思考回路の方が不思議だ」

一緒にいて楽しい、と言われることは嬉しくもあることだがただの散歩で目的はコンビニへ行くことである。
それだけだというのに隣を歩く吹雪はニコニコしながら染岡の歩調に合わせている。

デートというものは特別な場所へ行ったりすることを指すと考えている染岡は、こうして共に歩くだけで楽しそうしている吹雪が不思議だった。
しかし、それと同時にその笑顔を見ていると体が少し暖かくなる自分の体も不思議だった。

他愛もない話をすればあっという間に目的のコンビニへ着き、染岡は一直線に雑誌コーナーへと足を向けた。
ラックに並ぶ雑誌の中、自分が愛読しているものを見つけて購入する前に今月の特集が載った見出しに目を走らせ、中身を捲る。

その視界の端に、吹雪が何かを持ってレジへと進んでいくのが見えた。

「(んだよ、あいつも財布持って来てたのか)」

自分も早く買って、部屋でじっくり読もうと決めた染岡も雑誌を持ってレジへと進んだ。



「ありがとうございます」

一礼してそう返す店員の声を背中に2人はそれぞれ買った物を手に帰路へと向かう。

「で、さっき何を買ってたんだよ」

その問いかけに無言で何度か瞬きした吹雪が、少し呆れた顔をした。

「キャプテン程じゃないけどさ、染岡君も鈍いよね……」

「あぁ?」

何が言いたいんだと詰め寄った染岡のジャージのポケットを指さす。

「それより、一応これから帰るってこと木野さん達に連絡したほうがいいんじゃない?」

「……」

「ほら、心配させちゃうよ」

無言で睨む染岡にそう施す吹雪はまた少し、楽しそうだった。
渋々と言及することを止めて預かった携帯を取り出すとマネージャーへと連絡を取り始めた。

すぐに帰ることを伝える簡易なやりとりをして電話を切った時、ふいにジャージのズボンのポケットにずぼり、と何かが差し込まれた。
慌ててそちらを向けば吹雪が右手を思い切って突っ込んでいる。

「おい、その手はなんだ」

「なんだろうね、なんでもいいんじゃない?」

その言葉と同時に突っ込まれた右手がもにょりと動いて、染岡の太ももに戯れた。

「よくねーよ!!てか、ふともも撫でんな気持ち悪ィ!」

「ひどいなぁ」

たいして落ち込んだ様子もなくそう言って吹雪が手を抜きとるが、まだポケットの中に何かあるのがわかる。
物を入れた記憶のない染岡が怪訝に思い、手を入れて探る。

「ライオコット島って暖かいから、すっかり忘れてたんだ。今日って2月14日なんだよね」

出した掌に乗っていたのは小さなキューブ形のチョコレート菓子が3つ。
どれもパッケージにはほんわかした白クマの絵が描かれている。

「吹雪、これ」

「お返し、待ってるからね」

口をパクパクさせて何か続きを言おうとする染岡の言葉を遮って、辺りに誰もいないことを確認すると自分の唇を指さした。

「でも、今すぐくれたら嬉しいな」

「……自分で言って照れんなよ」

「染岡君も赤いよ」

2人の頬は朱色に染まり、形容しがたい雰囲気になる。

「だめ……かな?」

それを先に破ったのはコンビニへ出かけるときにも似た、しょげた表情での問いかけだった。

染岡の中にある頑固な何かが音を立てて折れた。
完敗だ。

「一瞬だぞ、一瞬」

染岡は警戒するように辺りを見回すと一瞬屈んで、唇を合わせた。

***
バレンタインの時期に書いた染吹でした。



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