*天京というより天→←京
*雷門中校舎などにねつ造設定あり。


休みを知らせるチャイムが鳴り響く。

学生にとっても教師にとっても喜ばしい時間の始まりの合図だ。
何人かの生徒は机をくっつけ、持参した弁当を食べ始めた。
またとある生徒は教室を出て、他クラスへと足を向ける。

「ねぇ!今日は天気がいいから外で食べない?」

空野葵は思い切った提案をした。
早速、弁当を取り出して食べようとした西園信助と松風天馬は無言で瞬きを数回。

「えぇーわざわざ?ボク、もうお腹空いてるよ」

そう言った直後に、ぐぅうと見事な音。
腹の虫が暴れまわっているようだ。

「ベンチで食べてる子たち、楽しそうだよ」

ほらほら、と指さす先には女子生徒が数人、暖かな日差しの下で仲良く談笑しながら昼食を楽しんでいるのが見える。
天馬はその女子生徒がいる先にある校庭へとすぐに視線を移していた。
澄み切った青空はどこまでも清々しく、サッカーをしたら最高に気持ちがいいのだろうなと思う。

「天馬……?」

「ご、ごめん! うん。外で食べるのも楽しそう」
葵の冷えた視線に気が付いて慌てて提案に同意する。

「またサッカーしたいなって考えてたでしょう」

しかし昔馴染みにその考えはお見通しらしかった。
天馬は少し気恥ずかしそうに小鼻をかいて誤魔化す。

「やっぱり外で食べるの?」

口調こそ乗り気でない西園だが楽しそうにしている。
3人とも弁当やら必要な物を持つと教室を出て下駄箱へ向かった。

「……あれ?」

靴を履き替え、場所を探そうとしていた時だった。
校舎の屋上に見覚えのある人物を見る。
雷門の生徒であるにも関わらず名が成す雷をあしらった制服を着ていない唯一の生徒。

剣城京介。

その人物に間違いない。
フェンスに凭れかかっていたが、手に持った何かをズボンのポケットから取り出すと奥へと行ってしまう。
天馬にはその様子が気になってしまった。

「屋上ってどこから行けるのかな?」
唐突に出た天馬の疑問に西園と葵が揃って視線を移すが、誰もいない。

「西棟からの階段で行けるらしいけど、あそこは封鎖してるって先生が言ってなかった?」
先日のホームルームで担任がそのような説明をしていたことを思い出す。
しかし、あの印象的な姿を見間違えるはずがない。
1度気になってしまったものはなかなか払拭できず、天馬は決めた。

「ごめん2人とも先に食べててよ! 俺、ちょっと行ってみる」

「天馬?」

「先生に見つからないようにねー」

驚く葵と興味はあるが空腹を満たすことを取った西園。
天馬は2人に心中で謝りながら西棟を目指した。



屋上に心地よい風が吹く。

剣城はフェンスに寄りかかって昼食を取っていた。
雷門の屋上は普段、危険という理由から立ち入り禁止になっている。

しかしフィフスセクターから監視という名義で雷門へ送り込まれた剣城には、組織へ報告をするために人目に付かない場所を望んだ。
理由を聞いて理事長である金山は喜んで屋上を解放した。
よって剣城は自由に屋上に入ることができる。
その事実を知っている生徒はおらず、ひっそりと静まり返っていた。
生徒たちの喧騒から離れたこの場所は剣城にとって心地よかった。
昼食のおにぎりを口にしていた時、ズボンに入れていた携帯電話が着信を知らせる。
素早く取り出すと、対応に応じた。

「はい、剣城です。……えぇ、指示通りです」

会話内容が漏れることを危惧し、フェンスから身体を離すと給水タンクの方へと向かいながら相手への報告を済ました。
「……わかりました。失礼します」
通話を終わらせて、携帯をポケットへと戻した時。

「――ッ!?」

階段を上ってくる足音が聞こえる。
この場所を知っているのは理事長の金山と校長の冬海だけだが、この2人はいつも組んで行動しているためどちらかという可能性は少ない。
生徒、あるいは教師の誰かが自分を見て調べに来た可能性、こちらの方が高い。
剣城は咄嗟に給水タンクの陰に身を潜ませる準備をして、相手を待った。
足音はどんどん近付いて、金属製の重いドアが開かれる。
そして入ってきた相手を見て……剣城は思い切り眉を寄せた。

「わ、本当に開いてる……」
恐る恐る、といったように天馬が屋上に出た。

「またお前か」
剣城は隠れることをやめて、低い声で言い放つ。

サッカー棟で会った時と同じセリフを敢えて言う。
サッカーはくだらなくない、必要なものだと大口を叩いた癖に技術は素人同然。
しかし時折、覗かせる本質に嫌な予感を覚える相手。

松風天馬。

「やっぱりいた。あの、ここって立ち入り禁止の場所じゃ……」

「あ?俺がどこにいようがなんでもいいだろ。校則違反だって言いたいなら、ここにいるお前も同罪だ」

「あ」

指摘されて初めて気が付いたのか、焦っているようだ。
それ以上、話す気になれず口を噤んでずっしりと給水タンクの傍に座りこむ。

「言わないよ!!」

「……は?」

「言うつもりで、ここに来たわけじゃないんだ」
まだ会話を続けるらしい天馬に、剣城は視線だけ向けた。

「あの、さ、剣城 一緒に昼ご飯食べない?」

「…………」
何を言われたのか理解できず、思わず天馬を凝視する。

「お前と?」

「うん。今日は天気も気持ちがいいし、食べ終わったら俺にサッカー……っ」

いきなり胸倉を掴まれて引き寄せられる。

「いい加減にしろ、松風天馬! 俺は慣れ合うために雷門にいるんじゃ……ねぇんだよ!!」

言葉尻と共に強く突き放す。
線の細い体は揺れて尻もちをついてしまう。

「お友達が待ってるぜ?とっとと行け」

「剣城だって、俺の友達だよ」
尻もちをついたままの天馬が、まっすぐに剣城を見つめてそう言う。
その瞳は、あの校庭でボールを受け止めた時と同じ揺るぐことのないものを感じさせる。

「剣城も俺の友達」

「言ったはずだ。お前は俺の嫌いなタイプだって」

「なんとかなるさ」

ね?と同意を求めるように笑う天馬に毒気を抜かれてしまった。

「……ったよ」
頭をがしがしと掻きながら言うが、上手く聞こえない。

「昼飯。俺はもう食い終わっちまったんだよ」

「そっか、ちょっと遅かったんだ」

天馬は立ち上がると裾についた土埃を払い、どうしたものかと思案を巡らせる。
その時、校庭の方で自分の名前を呼んでいる声に気付いた。

「行け」

「俺、明日はもっと早く来るから!」
そう言い残して天馬は急いで階段を下りて探している葵と西園の元へと向かった。


1人残された剣城は自分の言動を思い返してのたうち回りたくなる。

「松風天馬……やっぱりお前は俺の大嫌いなタイプだッ」
怒りに近い感情に任せてフェンスに蹴り込みを入れた。
ガシャンと派手に弛んだそれの音は昼休み終了を知らせるチャイムによって掻き消された。

その後、雷門中に立ち入り禁止の屋上で暴れまわる幽霊の噂話が出回ることとなる。

***
2話まで見て妄想した文を煮詰めました。
その後、屋上が本編に出てきてちょっとホッとしました。




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