3時間目、4時間目の授業が終わってからの昼休み。

天馬は影山によって案内された食堂の一角にある机に突っ伏していた。

「だ、大丈夫ですか……?」

「なんとか」
休み時間になる度にクラスメイトたちに囲まれて質問責めをされていて、天馬は少しばかり驚き、疲労していた。
前にいた学校のこと、前にいた街のこと、好きなテレビや芸能人についてなどの目まぐるしい問いかけに答えてはいたものの、後半自分で何を言ったのか天馬はハッキリ覚えていない。

「ごめん、僕もたくさん質問しちゃって、天馬を困らせちゃったかな」
項垂れて申し訳なさそうにする信助に天馬は明るく笑いなが首を横に振る。

「そんなことないよ!ただ、俺こんなに色々と聞かれたのは初めてだったからビックリしてるだけなんだ」
そう言うと、信助と影山が顔を見合わせてホッとした表情を浮かべた。

「ところで ここのお昼休みはどうなってるの?」
影山と信助の話によると雷門学園の昼食は食堂、購買、持参した弁当を持ちこむ者と多岐にわかれているらしい。
今日は授業初日と言うこともあり、財布のみを持って来ていたが今度からは親に頼んで弁当を作ってもらおうかと頭の片隅で考えた。

「券売機で食券を買って、作っている人たちの前で出せばそれで大丈夫!ちなみに日替わりメニューはエビチリだったよ」
メニューの名前を聞いただけで天馬のお腹は唸り声をあげそうになる。

「それじゃ、財布を持って並びましょうか」
カバンから財布を取り出した影山に続いて信助と天馬もそれぞれが自分の財布を持って、やや込み合っている券売機の列からまず並ぶことにした。


自分たちのテーブルに各々のトレーを持って席に着くと、天馬は嬉しそうな声を出す。

「凄いね!他にも美味しそうなメニューたくさんある!」
目を輝かせながら天馬は本日の日替わりメニューであるエビチリとデザートのマンゴープリンのセットを眺めている。
信助は2種類のソースがついたパスタとプチシュークリーム、影山はチーズが乗った煮込みハンバーグをそれぞれ席に置いて、手を合わせた。

「「「いただきます!」」」
こうして食事に手を付けながら、暫くこの学園のこれから起こる行事や、要注意した方がいい教師の名前などを信助と影山から聞いては頷いていた天馬の耳に数人の女子生徒の嬌声が入り込んできた。

「あ、来たわよ!!」

「キャー今日も3人揃ってる!」
女子生徒数人がなおも黄色い悲鳴をあげながら食堂の窓から外を見つめていた。

「なに?」
天馬が首を傾げると、影山と信助は顔を見合わせる。

「そっか、天馬は知らないんだよね。下剋上組」

「げこくじょう……ぐみ?」
耳慣れない単語に更に首を傾げる天馬。その背面にはたくさんの疑問符が浮かんでは消えしているのがまるで目に見えるようだ。

「直接見た方が早いかもしれませんね」
そう言った影山が手招きして天馬を席から立たせると自分たちも窓際の方へと移動した。

◆◆◆

女子生徒たちの合間から外を見ると3人の男子生徒が横並び一列になって中庭を歩いている。周りのベンチなどで会話をしている生徒やボール遊びに興じていた生徒たちも動きを止めるとその視線を3人へと注ぐ。

「隼総くーん こっち向いて!」

「写真部からこの前、体育の授業中の磯崎くんの写真買っちゃったの」

「剣城くんは相変わらずかぁ……」
それぞれ名前を呼ばれ手を振ったり、呼ばれた相手と会話をしたりしているようだがその中で1人、剣城だけは誰に呼ばれても軽く会釈をするだけだ。
それにしてもまるでアイドルを見ているかのような女子生徒たちの反応に驚きながら、天馬は小声で2人に問う。

「ね、ねぇ、これってどういう……」
西園がこっそり窓の外の人物を指さして口を開いた。

「あの3人は雷門学園で1番の有名グループで、黒髪に白いメッシュが入ってるのが5組の磯崎。色んな部活の助っ人をやってるんだ。今日もほら」
どうやら磯崎の周りを囲んでいるのは人手の足りない部活の部員らしい。中でも懸命に手を合わせているのはバスケットボールを持った生徒なのでおそらくバスケ部による誘いなのだろう。

磯崎は受けるか否かを考え、そして裏のありそうな笑みでなにか交換条件を出しているようだ。

「その隣の紫髪で少し派手なのが軽音部に所属してる7組の隼総。軽音楽部でバンドを組んでるんだけど、女子のファンがたくさん!もう文化祭での演奏が期待されてるよ」
天馬は女子に囲まれている隼総を見て、男子でも化粧をする人物がいるのだなぁと妙な関心を持ちながら視線を向ける。

肩に担がれた黒いケースはきっと演奏に使う為の楽器が入っているのだろう。
信助に続けて同じ動作で影山が続ける。

「磯崎の隣でその……雷門学園の制服を着てない生徒が僕たちのクラスメイトであり、天馬君の後ろの席にいる剣城くんです。」

「剣城は誰とも話してないね?」

「剣城がある日、屋上指定席権を他の先輩たちから奪っちゃったんだって」
信助の口から出た、奪うと言う物騒な言葉に天馬が丸い目を更に見開く。

「奪われた先輩たちは黙っていなかったようです。勿論、何回も取り返そうとしたようですが、剣城くんが完膚なきまでに先輩たちをねじ伏せまして……」
あれは凄かったね、などと信助と影山が頷き合ってどうやら当日の様子を思い出しているらしい。

「で、まぁ剣城と価値観が合った磯崎と隼総も一緒に屋上にしょっちゅういるんだ。先輩達からその場所を奪ったから下剋上組。先生たちすら一目置いてるんだよ」
そんな凄まじいエピソードを持つ人物だとは知らなかった天馬は改めて、遠くでポケットに手を入れて気だるげに歩く剣城を見る。

屋上でこちらを見ていた理由はわからない。
しかし、それでもあの光景を思い出すと天馬の心に浮かぶ感想はただ一つだった。

「綺麗だったな」
その呟きは誰の耳にも入らなかったらしく、壁に埋め込まれた電子時計の数字を見て影山が慌てた声を出す。

「あ、2人とも! そろそろ食器を片づけて教室戻らないと鬼道先生は時間に厳しいですよ!」

「英語の先生だっけ?」

「そうそう、面白い眼鏡かけた先生なんだけど怒らせると怖いんだ。急ごう!」
怒られた記憶を思い出したのか、ぶるっと身震いをして顔を青くした信助と影山に引っ張られるようにして食器を片づけると、教室へと向かった。



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