※高校生設定の染吹がデートする話
みんな同じ高校に通っている設定です。
「1年生は、ここに行きます」
教壇に立った教師が掲げたパンフレットを見て、女子たちの間で歓喜の声があがる。
有名な遊園地だから無理もない。
その歓喜を尻目に窓際の席にいた染岡はため息をついた。
雷門高校では5月の恒例行事として交流会というものがある。
その名が示す通り新しいクラス・環境に馴染むために催されるもので、各学年で違う場所へ遠足に行く。
「乗り気じゃない?」
前の席に座っていた半田が体を捩じり、興味深そうにしている。
「俺、人ごみあんま得意じゃねぇンだよ」
「あー……そういやそうだっけ。でもさ、これってチャンスだろ」
「チャンス?」
唐突な言葉に顔を上げれば半田はどこかニヤついた表情をして声を落とす。
「だって上手くいけば女子と仲良く出来る」
「お前らしいな」
また呆れてそう返している時、後ろの方で女子の甲高い声が聞こえてきた。
「ねぇ、吹雪くん!私と一緒に周ろうよー」
「私と新しいジェットコースター乗ろう!」
「勿論いいよ。僕、まだ行ったことないから全然わからないんだ。色々教えてね」
女子が数人囲む中にいる人物、吹雪士郎。
彼は北海道から高校に進学するために上京してきたのだが、容姿か性格か。はたまた天性の才能なのか、もう女子から注目を集めている。
中学時代の全国大会を機に、半田や染岡は顔見知りではあったがそんな彼に驚いていた。
「うぅ、吹雪が羨ましい」
「そういや4組の鬼道たちが……」
恨めしそうな目で吹雪を見る半田の肩を慰めも込めて叩くと、次の話題へと移していった。
遠足当日。
空は晴れて気持ちがよい天気だった。
各クラスの教師たちが出欠席を取りながらパスポートを生徒に渡す。
「染岡と半田な。いってらっしゃい」
教師にそう言われ、半田がしょげたように「染岡とか……」と小言を漏らす。
「悪かったな、俺で」
「あ、本気じゃないぞ?」
慌てて訂正する半田に、わかってるという言葉の代わりに軽く背中を小突く。
「しかしどうする?俺、来たことないから全くわかんねぇぞ」
「俺もこっちは初めてだなー あ、円堂と豪炎寺!」
見知った顔を人ごみの中に見つけ、半田が手を振る。
遠くでマップを見ていた2人がその合図に気が付いて近づいてきた。
「おう、半田に染岡!」
「円堂たちはどうするか決めたか?」
半田は豪炎寺が持っていたマップに目を移す。
「俺と円堂は食事を先に済ませたいって話をしていたところなんだ」
写真には様々な料理か鮮やかな写真によって紹介されている。
「アトラクションは?お前らって絶叫系は平気なの?」
「俺は落ちる奴じゃなければ平気、かなぁ?豪炎寺は?」
「俺も平気だ」
じゃあこれ乗ろうぜ、と次の会話を広げる円堂と豪炎寺を横に染岡は自分も何か食べたくなった。
「俺、腹減ってるかも」
「マジで?じゃあなんかアトラクションのパス取ってから食べようぜ」
「アトラクションのパス……?」
「そうそう。ここの人気アトラクションはかなり並ぶから優先的に入れるパスが発券されてるものがあるんだ」
「なんかすげぇな」
勝手が全く分からないので、ここは大人しく半田についていこうと染岡は決める。
円堂たちと別れると、染岡たちは一番の高さを誇る絶叫マシーンのパスを取るために歩き始めた。
***
楽しい時間は、あっという間に過ぎる。
染岡と半田、そして途中で合流した松野と影野が夜のパレードを見終わる頃には既に辺りは暗くなっていた。
「もう8時か。お土産買ってそろそろ帰るかな」
「俺、ストラップ買いたいんだよねー」
時計を見ながらそう半田に松野が便乗する。
影野は染岡がどうするのか、と意見を促すように前髪で隠れた目で見つめた。
染岡はメールの新着を確認すると申し訳なさそうに手を振る。
「ちょっと最後に行きたい店寄ってから帰るから、先に行ってくれ」
「なんだ、それくらい付き合うって」
どこにあるのか聞こうとする半田の腕を松野が掴んで阻止をする。
「気にしないで行っていいよ」
「……おう、また学校でな!」
訳がわからず戸惑う半田を引きずって松野と影野は出口付近の店へと入って行った。
心内で感謝の言葉を述べると、急いでアドレス帳から見慣れた名前を取り上げて電話を掛ける。
3コールほどしてすぐに相手が出た。
「染岡君」
低く、そして柔らかな声が嬉しそうに喋り、染岡の耳を擽る。
「おう吹雪。今どの辺りだ……?」
「ヨーロッパ風の建物がたくさん並んでいるところ。近くにポップコーン売り場と噴水があるお土産屋さんがあるよ」
自分のいる場所からそう離れていないことがわかり、染岡はこちらから向かうことにした。
「今から行く。動くなよ」
「うん。待ってる」
電話を切ると、少し急ぎ足で歩き始めた。
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