はんぶんこの幸福論


季節は冬。

「さむい!」
マフラーをしっかり巻いているにも関わらず、吹いてくる北風は容赦なく隙間から入り込んでは首筋に触れてくる。

冬至も過ぎてすっかり日が落ちるのが早くなり、天馬と剣城たちが部活を終える頃には既に空は暗くなり、気温はぐっと下がる。
寒い、と言ったところでなんにも変わらないのだが言わずには居られない。

「もう5回目だぞ、寒いって言うの」
着込んでいる赤いシャツと同じ赤いマフラーを巻き付けた剣城は何食わぬ顔でそう言う。

「剣城は寒くないの?」

「寒い。けど夏の暑さの方が堪える」
ズボンのポケットに手をつっこんではいるものの、剣城は天馬に比べたら薄着だ。

「そっかー……うぅ、寒い」
また吹きつける風に顔を顰め、天馬はタータンチェックのマフラーを口元まであげる。

「そんな寒いなら早く帰ろうぜ」
ほら行くぞ、と顎で帰路の方を剣城がさした時。

ぐぎゅううううう と凄い音が鳴り響く。

「き、聞こえちゃった?」
恥ずかしそうに腹部を押さえて、えへへと天馬が笑うのに対し、剣城の切れ長な目は見開かれている。

「うわ、今の腹の音かよ」

「だってお腹すいちゃった……あ、剣城まだ時間平気?」

「ああ。特に用はない」
携帯で現在の時刻を確認して、小さく頷く。

「じゃあコンビニ行こう!俺、肉まん食べたい」
すぐそこにあるから、と付け足せば、しょうがないなと小さく笑って先行く天馬の後を剣城も歩き出す。


「いらっしゃいませー」
自動ドアが開いて、客の来店を知らせる音が店内に響く。

「あったかーい」
暖房が利いている店内に天馬はホッとした表情を浮かべてマフラーの巻きを少し緩めた。天馬と剣城は店員がいるレジのすぐ横、蒸気によって曇ったガラスケースに視線を向ける。

「すいません、肉まんひとつ!」

「はい、肉まんですね。お客さまは?」
連れも買うのだろう、と推測をした店員が剣城に笑顔でそう尋ねる。
剣城は一瞬、視線を迷わせるが白くてまんまるの鎮座しているそれを見ていたら自分もどうやら空腹らしい。

「じゃあピザまんで」
鎮座した1つの薄黄色いそれを指さして注文することにする。
店員は素早くトングで指示されたものを摘むと薄いビニールに入れて、くるりと回す。

「肉まんは110円。ピザまんは120円です。お会計別々にされますか?」

「剣城ちょうどある?」

「ああ。出せるな」
財布から取り出した硬貨をそれぞれテーブルに置いた。

「ありがとうございましたー」
店員の声を背中で聞きながら天馬と剣城は店の外に出た。

「ううっやっぱり寒い」
室内との気温差で余計に寒く感じたらしい天馬が慌ててマフラーをぎゅっと締め、それから手元のビニール袋を開ける。

「あちち、はい 剣城」
熱々の肉まんを割るとふわっと白い湯気が散り、天馬はちぎったそれを剣城の前に差し出した。

「いいのか?」

「美味しい物って好きな人とはんぶんこした方がさらに美味しい気がするんだ」

「なんだそれ」

よくわからない天馬の持論に笑いながらも、暖かい肉まんを口に運ぶ。
ほどよい弾力のひき肉とそれから筍の歯ごたえが実に美味しい。
一口食べたら少し身体が温まり幸せな気分になった気がした。

「松風」
肉まんを、はふはふ言いながら食べていた天馬の眼前にピザまんを差し出す。

「一口食っていい」

「まだ食べてないよ?それに俺が先に口、付けちゃっていいの?」

「美味しい物は好きな奴と半分にした方が更に美味さが増すんだろ?」
先ほどの持論を繰り返すように言うと天馬が笑いながら「真似したー」と口にする。

「食えよ。俺も貰ったし」

「じゃあいただきます……あむっ」
溶けたチーズがつぅっと伸びて天馬は驚いた顔をしながら、むぐむぐと食べた。

「うん、ピザまんも美味しい!」

「ああ。美味しい」
天馬が幸せそうに食べるのを見て、剣城も緩く笑いながら残りのピザまんに口を付けた。

***
コンビニデートも可愛いと思うのです。



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