稲妻町、河川敷近くの駅から歩いて徒歩5分ほどのところに建つ小洒落たアパート。
ブルーハイツ。

名前が成す通り、屋根も壁も晴れ渡った空を思わせる澄んだ青で統一された建物だった。
その1階 1番奥の部屋である106号室の住人……不動明王は少しソワソワしたように何やら支度をしていた。

「えっと、カードは持った。鍵と……」
そしてそんな慌ただしい様子をソファーの上で眺める琥珀色の目が4つ。
黒い猫が2匹、耳をピコピコと動かして騒音を拾う。

『兄さん なんであきおは、あんなに慌てているんだろう?』
先に声を出して疑問を口にしたのは弟猫、京介の方だった。

毎週火曜日は、兄の優一を動物病院にて診察と1日入院の日でもある。

『今日は印が付いた日だから……じゃないかな?』
壁に掛けられたカレンダーの赤い丸印。
そう、この日は飼い主である不動が一段とソワソワする日なのだ。

その理由は明確で。

『オレ、あの人苦手だ……いつも変な眼鏡してるし』

『でも優しい手つきをしているよ』

『だけど……』
そこまで言いかけた時、不動がソファーの傍に持ち運び用のゲージを置く。

「優一、入れるか?」

「にゃあ、」
短く返事をした優一がよろよろと弱く立ち上がると大人しくその中へと入る。

「じゃ、病院まで行くか。京介、ちょっと留守番頼むな。散歩に出れるように網戸、開けとくから」

「にゃー」
その鳴き声を聞き、頷いた不動がゆっくりゲージを持ち上げて玄関へと向かっていった。

1匹で留守番状態となった京介が1つ大きなため息を吐く。

『兄さんは知らないからあんなことが言えるんだ……』






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