※猫:剣城、犬:天馬
互いに下の名前呼び
剣城目線の話。


オレの名前は京介。
京介、と現飼い主に名づけられた。
そう呼ばれる前まで、オレと優一兄さんは野良猫として細々と生活をしていた訳だが…

「同居人が2匹増えたとこで、なんも変わらねぇよ。ウチに来い」

そう言ってオレと兄さんを引き取ってくれた飼い主。
それが今、テレビを見ながらチャーハンを口に運んでいる男。

名前はあきお。
不動明王。
ちょっと目つき悪いけど(オレも人のこと言えないっていうのは聞こえない)いい奴だ。
オレと兄さんに餌も寝るところもくれる。

そうそう。
兄さんが身体が弱いっていうのもちゃんと理解して、毎週病院に連れて行ってくれる。
こういうのを確か至れり尽くせりって言った気がする。

「よっし、買い物に行くかーお前ら、いい子にしてろよ」
既に座布団の上で行儀よく丸まってるオレと兄さんの耳の後ろを撫でると、あきおは財布をポケットに入れる。
あきおはアルバイトっていうのが入ってない休みの日は、夕方に買い物に行く。

この時間は……いや、正確に言うとこれ以降の時間はオレにとってかなり苦痛になる。
あきおは戸締りを確認して、オレ達の傍の窓を開けて、網戸のみを残す。
風通しがよくなるからという、理由は知ってる。
けど、あきおは自分がいない間に、何が起こっているのか、まだ知らない。

「じゃ、行って来るわ」

「「にゃー」」
返事にあきおは頷くと玄関で靴を履いて、ああ……行っちまった……

『どうした?ずいぶん浮かない顔をしているな』

『兄さん……』
オレが不安げに網戸の方を見ても、兄さんは笑ってる。

『いい子じゃないか。仲良くすればいいのに』

『兄さんは他猫ごとだからそう言っていられるんだよ。アイツ、ほんと鼻息荒いから嫌なんだ』

『……』
机の上の電子時計を見る。

16:20

あと、5分かそこらで奴が……奴が来る!


「わんっ」

「天馬―待って、待ってーそんなに引っ張らないで」

き、来た……

『京介!!』
ぬっと網戸に張り付いて来た茶色い毛玉。
その正体はこのふわふわした毛並みを持った犬、天馬だ。

『だから、なんで散歩の度にここ来るんだよ、お前は』

『オレ、友達になりたいんだッ』

この犬の名前は天馬。
数週間前くらいから、だいたい決まった時間に散歩をしているらしい。
その度にこうやって網戸に張り付いてオレに話しかけてくる。
それから毎回、お決まりのように言うんだ。
オレと友達になりたいって。

犬と猫だぜ?
仲良くして何になるんだよ。
それがオレの言い分で、だけど兄さんは違う……

『やぁ、今日も来たのか』

『あ、優一さん! えへへ、来ちゃいました』
なんでコイツ、兄さんと仲良くなってるんだ。
兄さんは、脚力の弱い左足を引きずって網戸の傍による。

『京介は照れ屋だから慣れるまで時間がかかるだけだから、気にしないでくれよ』

『兄さん!! 何言ってるんだよ』
オレが口を挟んでも、兄さんはニコニコしているだけ。
天馬も興味深そうに薄灰色の目をこちらに向けてくる。
そもそもオレは別に照れている訳じゃなくって……

「こーら、天馬!」
優しく叱る声と共にひょいと天馬の身体が持ち上げられた。
そちらを見上げれば、天馬の飼い主がいた。

『うわあああ秋姉ぇ!』

「いつもこの辺りを散歩する時、リードを引っ張るんだから」
困ったような顔をした天馬の飼い主が、こちらに気が付く。

「綺麗な猫ちゃん……もしかして、天馬はいつもこの子たちに会いに来てたの?」

『えっへへー 京介って言うんだ。で、奥がお兄さんの優一さん!』
嬉しそうに天馬がワンと鳴いて説明してるけど、伝わらないだろう……
天馬の飼い主はオレと兄さんを交互に見ると、しゃがみこんできた。

「驚かせちゃってごめんね、天馬はきっとお友達が出来て嬉しいと思っているの。だから……これからも遊びに来てもいいかな?」

『冗談じゃねぇ、毎日のように網戸にくっつかれたら迷惑なんだよ!!』
警戒の意味も込めて思いっきり背中の毛を逆立ててそう言う。

『京介……オレのこと嫌い?』
飼い主に抱きかかえられたまま、クゥン……と鼻を小さく鳴らしてそう問うてくる天馬を見て一瞬だけ、ほんの一瞬だけ言葉に詰まった。

けどハッキリ言ってやることにした。

『嫌いだ お前みたいなタイプ、一番大嫌いだ』

『京介、言いすぎだぞ』

兄さんが横で少し、厳しい口調でそう問いただすけどもう言いだすと止まらない。

『オレの名前を呼ぶな、毎日来るな、笑顔振りまくな、オレに……オレに構うな!』
言い切ってやった。
天馬を見ると、ビー玉みたいに大きな目がみるみる水の膜を張っている。

『京介……』
寂しそうな声で呼ぶな。
オレが悪者みたいだろ。

「天馬……?どうしたの?」
先ほどまでブンブンと大振りしていた尻尾がしゅん、と垂れ下がったのを見て異変に気付いたらしい。
飼い主が天馬を見やった時、聞きなれた声が聞こえてきた。




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