※パラレル設定の一土
土門=大学生
一之瀬=プロユース選手


土門は、自室のリビングで一番お気に入りの赤いソファーに座り込んでいた。

一心に視線を集中させるその先にあるのは液晶テレビに映されたサッカーの試合だった。

この時期、アメリカで開催されるメジャーリーグの中でも強豪の8クラブチームによる、トーナメント戦で優勝を決める最後の試合だ。
左上に小さく表示された数字は0-0どちらも点数が入らないまま後半戦に突入している。
そして、そのもどかしい後半戦も残り10分を切ろうとしていた。

「頼む……決めてくれよ」

土門がどこか縋るように一人小さくそう呟きながら見つめる選手は、大柄な選手たちの中で頭一つほど小さな日本人選手。

『今日の試合で、イチノセがまだ本領を発揮できていないように思えますねー……』

『ええ。彼は先週の試合で足を少し捻ったのではと懸念されていたようですが……』
実況者と解説者のそんなやりとりに土門の心に暗雲が立ち込めるが、すぐに頭を振ってそれを払う。

自分が小さな頃から知っている男、一之瀬一哉は怪我でサッカーに本気を出せなくなるような男ではない。
どんな辛いリハビリも乗り越えて、笑顔でフィールドを駆け、試合を見る人を魅了するフィールドの魔術師なのだ。

今、あまり動いていないのはきっと考えがあってのことだろうと土門は推測する。
その証拠に液晶画面に映し出された一之瀬は、しきりに周りの状況を見ながら走り回っている。

そして土門の推測は、すぐに当たることとなる。

点が入らないことに焦ったらしい相手チームの選手がパスミスをし、ボールを大きく弾いてしまった時、一之瀬が大きく合図をした。
それに仲間たちが頷いて新たな動きを見せる。

『おっと、上がっていく、一気に上がっていく、パスを繋げてているぞ、その調子だ!!』
実況者が興奮気味に声を荒げていた時、仲間のアシストを受けて大きなボレーでゴールを決めたのは、一之瀬だった。

「やった、決めた!!」

一人であることも忘れて土門は大きな声をあげて喜びの声を出す。
試合終了のホイッスルが鳴り、優勝は一之瀬が所属するチームが掴む結果となった。
こんなに嬉しいことはない。

一連の素晴らしい流れを、テレビがもう一度、放送され、解説者がそれを賛辞する言葉を述べていた。
試合の結果もわかったことだし、そろそろテレビを消して自分の作業に戻ろうか。
それともこの喜びを同じく試合を見ていたのであろう木野か西垣と分かち合おうか。
グルグルと素早く思考を巡らせていた土門だったが、すぐさま始まったインタビューに意識が集中する。

テレビ越しであっても目を瞑りたくなるような眩いフラッシュに囲まれたのは、勿論一之瀬が最初である。

優勝おめでとう、といった賞賛の言葉の後に一人の記者がマイクを向けて問う。

『初所属のチームにて優勝した喜びを、誰に伝えたいですか?』

『はい。俺の恋人です』

笑顔でそう答える一之瀬に、土門は少しギョッとした。
土門と一之瀬は公表こそしていないもののずいぶん前から恋人同士である。
今現在、一之瀬が自分に隠していなければ彼の言う恋人とは自分だ。

『では、その恋人にカメラを通して、伝えちゃいましょう!』
ノリノリ、といった感じにその記者がマイクを渡す。
辺りは静まり返りフラッシュの光だけが一之瀬を照らす。



『飛鳥!!! オレ、約束通り優勝したよ。だから……結婚しよう!』

その言葉に土門の思考が停止した。
飛鳥とは誰だろう。
約束とは何だろう。
結婚?
誰が誰と?
俺と一之瀬が?
フリーズした思考が再起動した際に一気に浮かび上がる疑問。
優勝したら結婚。
そういえば付き合い始めのころ、一之瀬がそんなことを言っていたような気もする。

『約束とは?お聞きしても宜しいでしょうか』

『はい。初めてこのチームに所属した時に、リーグで優勝したらプロポーズするって約束していたんです』

『見事、叶った訳ですねー いや、アスカさんが羨ましい!』

「全然羨ましくない!! う、嘘だろ……あれ、冗談だと思って聞き流したのに」
テレビ相手に思い切り大きな独り言をぶつける。
土門の体温が一気に上昇する。
まるで身体全部が心臓になってしまったように、鼓動が煩い。

「てか、テレビで言うなよ……あの試合、秋だって西垣だって、マークもディランも円堂だって見てるんだぞ!」
返事など返ってくることがないのはわかっていても、ニコニコしながらフラッシュを一心に浴びる一之瀬にそう言い放つ。

否、言い放たなければ恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。
それ以上、テレビを見るのが恥ずかしくなった。
画面を消すことも忘れてうたた寝用に置いてあったブランケットに包まり耳を塞ぐ。

『飛鳥、大好きだよ!!帰ったらすぐに抱きしめるから!』

「あーもう、頼む。言わないでくれ!!!」

耳を塞いでも聞こえてしまう、嬉しい以上に恥ずかしい愛の言葉。
土門は近々この家に帰ってくるだろう恋人にどんな顔して会えばいいのかわからず、毛布に包まり、顔を赤くして悶えた。

***
一之瀬はこういうことをサラッとしそう。
西垣くんたちにもバッチリ見られてます 笑



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