まさかまさかの


夏休みが間近に迫ってきた、7月上旬。
Z組連中は、早くも夏休みの計画を立てていた。


『夏休みかー!楽しみだねー!』
「皆で遊びに行きたいアル!」
「いいわね、それ。」
「お妙さーん!今年の夏こそ、俺と一緒に過ご「すわけねーだろが!死ねゴリラ!!」たばぁ!」


アッパーを食らわされ、血を吐き倒れる近藤。
妙は華麗に無視すると、また話に加わった。


「相変わらず学習能力ゼロだな、近藤さんは。」


土方が動かなくなった近藤を見て、ため息をついた時、『トシー!』と明琉が腰に飛び付いてきた。


『ね、トシ!今年の夏こそあたしと甘ーい夏を過ごそ!』
「…ここにもいたわ。学習能力ゼロのバカが。」



土方の腰をがっしり掴み、離さない明琉。
スリスリと、まるで犬みたいに頬擦りをしている。


「離れろォォォォ!!」
『いーやーだー!!あたしはひっつき虫になるんだい!トシが死ぬまで付きまとってやるんだから!』
「それ軽くストーカー発言!」



暑苦しいんだよ!と頭を一発殴り、ようやく解放された。



『うー…痛い。』
「よしよし。」


ヒリヒリする頭を、神楽がバシバシと撫でる…というか叩く。
当然、痛みが和らぐわけがなく。むしろ痛みは増すばかり。
『いだっ!痛いって!力加減プリーズ!』と明琉はすすり泣く。
相変わらずな光景に、やれやれとため息をつく新八は話を元に戻そうと口を開きかけた。
だが運悪く休み時間終了のチャイムが鳴ってしまう。


「…で、結局夏休みどうするんですか?」
「今日の放課後にまた集まりましょうか。」
「えー、暑いから嫌アル。図書室はどうアルか?涼しいよー。」
「あ、図書室今日は開いてないらしいですよ。」
「チッ…んだよ。」


うーん…と頭をひねる妙達。
だがピン!と沖田が閃いた。


「だったら誰かん家に行けばいいんじゃねーかィ?遊びがてら予定立てる、みたいな。」
「お!それは名案だな!ナイス総悟!俺はお妙さんの家がいいなぁ。」
「んじゃ、明琉の家に決定ー。」
「「「賛成ー!」」」
『え、ちょっと待って、本気?』

「……あれ、無視?」


皆に無視され隅でいじける近藤だが、それすらも無視した。


「そういえば明琉ちゃんの家行った事なかったわね…」

「私明琉の家行きたいヨ!連れてくヨロシ。」
『いや、まぁいいけどさ。(…ハッ!待って確かあたしの部屋には………まずい!)来てもいいけど、ちょっと待たせちゃうかもしんないなー。それでもいい?』
「構わないけど……なんで?」
「部屋の掃除、とかですか?」


志村姉弟の問いに、明琉は曖昧に笑った。


『いや、掃除は毎日してるから大丈夫なんだけど…壁紙とか写真とか大量にあるから。片付けたいんだよねー。』
「なんの写真?」
『んふふっそれはもちろん!愛しのマイダーリン、トシの盗撮写真に決まってるじゃなーい!』
「……おい、ちょっと面貸せ。」
『やだ、もしかして告白?やっとあたしの魅力に気づいた?』
「いますぐ殴らせて。頼むから!」
「お、落ち着けトシ!な、な?」



額に青筋をいくつも浮かべ、拳を固める土方。
当の明琉はビビる素振りも見せず、頬を赤らめ『もう…トシったら照れ屋さんなんだから!』と検討違いの事を言っている。


「清々しいくらいポジティブよね、あの子。」
「ある意味最強アルナ。」
「あのポジティブさ、羨ましいですね…」
「…ポジティブっていうか、ただのバカじゃねーの?」
「「「……」」」



沖田の一言に、何も言えなくなった。



そんなこんなで、やってきた放課後。
妙、神楽、九兵衛、沖田、土方、近藤、山崎、新八の九人で明琉の自宅へ続く道を歩いている。


「明琉ちゃんの家ってどんなのかしらね。」
「どーせ貧乏くさい家に決まってるアル!」
「段ボールが家だったりして。」

「皆さん失礼ですよ!ゴメンね明琉ちゃん。」


新八が申し訳なさそうに謝る。
だが当の明琉は、ケラケラとお気楽に笑っていた。


『アハハ!いいのいいの。さすがに段ボールではないけど、普通の家だし!』
「…にしてもこの辺家なんかなくないか?ずっと塀が続いてるだけじゃねーか。」
「そうだなぁ…」


土方の言う通り、今歩いている道には、家がない。
ずーっと高い塀が続いているだけだ。


「ホントに家あるアルか?」
『もちろん。ていうかもう家に着いてるも同然だし。』
「「「「「は?」」」」」
『あ、着いた。ここがあたしの家だよー!』


にこやかに笑いながら、前方を指さす。
指さす先を辿ると、全員の目が飛び出す勢いで見開かれた。


『これ全部あたしの家だから。』
「「「「「………」」」」」



段ボールなんて言ってごめんなさい。
貧乏くさいなんて言ってごめんなさい。
正直なめてました、ごめんなさい。



全員、心の中で土下座した。



皆がただただ驚いているなか、明琉は家のインターフォンを押した。しばらくすると、《はい、どちら様でしょうか。》と女の人の声がした。


『あ、あたしあたし!明琉だよー!』
《明琉様!?す、すぐに門を開けますので、少々お待ち下さい!》
『慌てなくてもいいよ。あ、あとね、お友達連れてきたんだけど、大丈夫だよね?』
《はい!すぐに開けます!》



一分もたたないうちに、門が開いた。


『よし、皆行くよ。』
「「「「「……」」」」」


皆、言葉なくついていく。
というか、驚きすぎて何も話せない。
そして玄関までの道のりが半端なく長い。


『いつもならリムジンが来るんだけどねー。ちょっと遠いからさ。』


ちょっと、じゃねーよ。めちゃくちゃ長いし。ここでマラソンできるんじゃね?


そんな事を思いながら、長い長い玄関までの道を歩く。
十分間歩き続け、ようやく玄関に到着。すると、扉に手をかけていないのに勝手に開いた。
キラキラと輝いて見える、明琉の家。というか、お城。


「「「「お帰りなさいませ、明琉お嬢様。」」」」


メイドやら執事やらが、ずらっと並び、明琉に頭を下げて出迎えた。


『ただいまー!』
「「「「……」」」」


バカでかい家に、メイド、執事の登場。
こんな家、アニメや漫画でしか見た事がない。
土方達はポケーとしながら、ただ明琉の後をついていく。


「お嬢様、ご友人はどちらにご案内すればよろしいですか?」
『んー…とりあえず客室にお願い。』
「かしこまりました。」
『じゃ、あたし着替えてくるからのんびりしててね!』


そう言い、パタパタと階段を上がっていく。
残された土方達は執事に連れられ、客室へ移動した。


「……明琉、まさかのお嬢様……」
「予想外だわ……羨ましい…」
「…お城みたいですねー……ぼ、僕らみたいな庶民がいてもいい空間じゃないですよ、ここ!」
「……すげー…」
「に、庭にバドミントンコートが!」
「黙れ山崎。」


天井には豪華なシャンデリア。
床はすべて大理石でできており、真っ赤な高級絨毯がひかれている。絨毯にはチリひとつなく、すべてが輝いていた。



『おまたせー!さ、あたしの部屋にいこうか!』


客室に、私服に着替えた明琉が入ってきた。



『あ、ねぇ五十嵐。』
「はい。」
『おやつ、用意しといて。』
「かしこまりました。すぐにお持ち致します。」


恭しく頭を下げて、客室を出ていく執事、五十嵐。
まだ20代後半の若々しい執事である。ちなみに、明琉専属執事だ。


「…明琉ちゃん。あなたお嬢様だったの?」
「知らなかったアル。」
「こんな家、初めて見たぜィ。」
『?…そう?』


明琉はこてん、と首を傾げた。
そして、次の瞬間。
ありえないお嬢様発言をしたのだ。



『こんなの普通だよ。ちょっと小さいくらいだし。』
「「「「「普通じゃねーよ!!」」」」」




なんつー感覚してんだ!


と驚くが、明琉の感覚はこんなもんじゃない。


さらに驚くのは、まだ少し先のこと。




『さて、夏休みどこ行くー?』
「……ハワイ。」
『ハワイ?あたし去年行ったなぁ。』
「……イタリア。」
『あー、すでに五回は行った。』
「……アフリカ。」
『アフリカいいよねー。一年に一回は行ってるよ。』

「「「「(…さすが金持ち。)」」」」



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夢主の金銭感覚は想像を遥かに越えます(笑)
[ 10/13 ]
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