二人きりの勉強会(前編)


……珍しく緊張してます、あたし。
今あたしは大好きな大好きなトシと二人で勉強中なんだよ。二人で!放課後に!
あぁなんて幸せな日なんだろう。
もうドキドキしすぎて心臓がうるさい。



なんでこうなったのか…?
それは朝まで遡る。







今日の朝のHRは、テストについての話だった。



「もうすぐテストだが、お前らしっかり勉強しろよー。いいか、テストで50点以上取れなかったら俺の授業、古今和歌集読みながら鉄棒だから。
「いや無理でしょ!鉄棒しながらって無理!両手塞がってんのにどうやって読むんですか!」
「……気合いで。」
「気合い入れても無理!テキトーな事言わないで下さいよ!!」



ツッコミが趣味の新八が言う。



「みんなもなんか言って下さいよ!」
『はーい。』


新八がクラスメイトに助けを求めると、すかさず明琉が手を挙げた。こう見えても明琉は授業態度だけは真面目だ。新八も明琉さんなら…と安心しきって任せる。しかし、期待は儚く散った。


『先生、あたし古今和歌集読んだ事あるんで違うのがいいでーす!』
「違ァァァう!!そーじゃなくてそれをやめてもらうように言ってほしかったの!なんで違うのリクエストしてんだ!そしてなんで古今和歌集読んだ事あるの!?」

『ちなみに、万葉集も新古今和歌集も読んだ事あるよ。』


にこやかに笑う明琉に、土方はそういや本読むの好きだったなと思い出す。



「なんで!?あんなの読んでもつまらない『シャラァァップ!!』え!?」


ガタンと席を立ち、明琉は新八に怒鳴る。


『万葉集達をバカにすんじゃねーよ!あれはとっても素敵なの!素晴らしい人なんだから!なめんじゃねーぞ地味!!』
「…す、すんませんでした!」

「……万葉集達って何?素晴らしい人って何よ。友達?お前の友達的な言い方だったよね。」




素朴な疑問を抱く銀八だが、どうでもよくなったらしく、話を続ける。



「とりあえずなんか読ますから。鉄棒しながらな。だいたい50点以上なんて………簡単じゃねーな。難しすぎだよな。うん、でもま、やれ。」



銀八は生徒を見渡し、50点以上なんて果てしなく無理だと気付いた。



「だから無理だって!つーかなんで鉄棒にこだわるんですか!」
「うるせーよ。嫌がらせに決まってんだろーが。」
「「サイテーだなオイ。」」




全員が声を揃えて言う。
ぶーぶーと不満を漏らすクラスメイト達の声を聞きながら、明琉は隣の席の土方に声をかける。


『勉強かぁー…。ねートシ、』
「嫌だ。」
『…まだ何も言ってないじゃん。あのさ、今日の放課後暇?予定ない?』
「ある。」
え、ない?やったぁ!じゃあさ、放課後一緒に勉強しない?トシ英語得意でしょ?教えてー?そのかわり数学教えてあげるからさ!』
「人の話を聞けェェ!!あるって言ったじゃねーか!!勝手に話を進めんじゃねーよ!」
『いいじゃん!』
「嫌だ!絶対嫌だ!」
『………』



頑なに拒否をすると、突然明琉の表情が一変した。
どうしたんだ、と困惑気味に、チラリと彼女を見れば、少し寂しそうだった。


「………」



そしてあれっきり話しかけてこない明琉に、土方はチッと舌打ちをすると帰る準備をしている明琉に声をかける。



「オイ。」
『…何?』


土方の方を見ずに返事をする。



「…勉強、見てやってもいいぜ。」
『えっ?』
「英語苦手なんだろ?教えてやらねー事もない。」
『いいの!?』
「し、仕方なくだからな!仕方なく!」


明琉の嬉しそうな表情に、なんだか恥ずかしくなって真っ赤になる土方。照れている土方を見つめ、明琉はふわ、と瞳を細める。



『ありがとトシ!』



嬉しそうに笑う明琉に、土方もフッと笑ってみせた。




そうして今に至るのだ。







あぁヤバイ緊張する!
今あたしの隣にはトシがいて、英語教えてもらっているんだけど…近い。距離が近い!
ちょっと横見ればトシの美しい顔が目の前に!
真剣に教科書を見つめるトシ……あぁ!カッコイイ!
教科書ってずるいな。あたしもトシに見つめられたい。もういっそのこと教科書になりたいっ!!




「…おい、聞いてんのか?」
『はい!聞いてません!』



正直に白状すると、スパーンと頭を叩かれた。


「ちゃんと聞け!」
『ごめんなさい。』



勉強が一向に進まないのは100%あたしのせい。ちゃんと聞いてないからね。だってトシカッコイイんだもん。かっこいいって罪だと思う。



***
ツンデレ土方(笑)
夢主は押してダメなら引いてみな作戦をよく実行してますよー。
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