社会科見学(後編)


『トシー!おっはよー!!』


今日は待ちに待った社会科見学当日。よく晴れた朝だった。



「…お前さ、頼むから飛んでくんのやめてくれ。危ねーだろ。」
『あたしの愛を受け止めるくらいの努力をしなさい!』
「嫌だ。つーか俺に近づくな!」
『や・だ。』
「300円あげるから。」
『少ないわ!一億くれるんならやめてあげるけど?』
「いや無理だろォォォ!!」
『じゃあ諦めなよ。』
「……っこのバカ女!!」


「おーいお前ら早くバス乗れよ。出発できねーだろ。」



バスの窓を開けて銀八が呼ぶ。
いつの間にかみんなバスに乗っていたみたいだ。乗っていないのは、土方と明琉だけ。


バスに乗り込むと、明琉は土方の腕にひっついたまま言う。


『ね、一緒に座ろう?』
「嫌だ。」
『えー!一緒に座ろうよー!!』
「明琉ー。」
『…何?先生。』
「大串くんなんかほっといて先生の隣に座『やだ。トシがいい。』…あ、そう。」



結局、土方の隣に半ば無理矢理座った明琉だった。



全員が座ったところで、ようやくバスは出発した。
目的地に着く間、やはりというか当然というか…バスの中は騒がしい。運転手さんがイライラしていないか心配になるほどに、騒がしかった。


『トシ!植物園、一緒に回ろうね!』
「は?」
『楽しみだなぁ。まずお花見よう!それからお昼食べてブラブラ歩いて……――』
「オイ。何勝手に話進めてんだ。まだいいって言ってねーだろーが!」
『てゆーか社会科見学なのに植物園ってどう思う?社会科見学っていうとさ、やっぱり工場とかだと思ってたんだけど…ヘドロくんが怖いからって言いなりになるとか…どんだけヒビリなんだろ。情けなくない?あの先生。』
「…なぁ…」
『ま、いっか!あたしはトシと一緒ならどこでも構わないし!トシと一緒なら死んでもいいんだから!心中でもするかい?』
「しねーよ!つーか聞けよォォ!!」



こんな調子でバスに揺られること一時間。ようやく植物園に到着した。




「……疲れた…」
「プ…いい気味でさァ。そのまま過労で死ねばいいのに。」
「んだとコラァァァ!!」


疲労困憊な土方の横で、沖田が嘲笑うように呟く。いつもの土方なら追いかけ回すのだが、今はその気力すらなく。ただ怒鳴るだけだった。



「いいか。今から自由時間だが、調子に乗るなよ。ちゃんとレポートも書くこと。わかったか?」



はーい。



間延びした返事を聞いた銀八は満足気に頷くと、「よーしじゃあ、解散ー。」と手で合図。
銀八の一言でばらばらになっていく生徒達に混じり、土方は姿をくらまそうと企む。



「…明琉にバレねーうちに…」


土方が辺りを見渡し、明琉の姿がないか確認していた時。


『トーシィィィ!!』
「げ!」


見つかってしまった。


『どこ行くの?あたしと行くって約束したじゃんか!』
「した覚えはねーよ!勝手に約束してんじゃねー!!」
『さあさあ行くぞ。レッツゴー!』
「ぐぇ!!ひ、引っ張るな!!」


明琉は土方の意見なんて聞かず、むんずと襟首を掴み引きずっていく。なんとも横暴なやり方に、もう抵抗する気も起きない。



「だー!わかった、わかったから離せ!!」
『ホント!?』



その言葉を聞いた明琉がつかんでいた手をパッと離せば土方は突然の解放についていけず、よろけてこけた。


「…っテメ何しやがんだ!!」
『だって離せって言ったから…』
「……はぁ。もういい。行くぞ。」
『はーい!』



明琉は嬉しそうに土方の後を着いて行く。


それから二人で植物園を回った。
薔薇に触って怪我したり、変な植物に食われそうになったり、滑って転びそうになったり…
めちゃくちゃだったけど、とても楽しそうに笑う姿を、神楽達は目撃していた。


いつもニコニコ笑顔の明琉は、いつもより楽しそうに笑い、土方もまんざらでもなさそうに笑っていた。しっかりレポートを書いてからも、時間が許す限り植物園内を歩いた。





後日。
提出した社会科見学のレポートを読んだ銀八が、明琉を呼び出したのは言うまでもなかった。



「明琉ちゃん、このレポートはなんのレポートでしょうか。」
『社会科見学について。』
「社会科見学は植物園だったよな。」
『そうだね。それが何か?』
「何か?じゃねーよ。土方のことしか書いてねーじゃねェか!植物園についての感想や学んだことを書けっつったのになんで土方についての感想や想いになってんだよ!」
『いや…つい。』
「やり直しだ!」
『ええ!?先生の鬼!頭くるくるパー!』
「く、くるくるパー!?」




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土方と回ったことが楽しすぎてレポートが土方への感想になってしまった夢主(笑)
きっとレポートには土方がいかに素晴らしいか、いかにかっこいいかが延々と綴られているだろう←
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