社会科見学(前編)


「おーい席着けェ。」


銀八のやる気ない一言でLHRが始まった。だるそうな顔で、しかもズレた眼鏡を直そうともせずタバコをくわえているこの男こそ、Z組の担任坂田銀八。
明琉は今だに、この男が担任、なおかつ教師なのが納得いかない。



「えー、今日はぁ…四週間後にある社会見学の行き先を決めたいと思う。なんか意見ある人ー?」


すかさず神楽が挙手。


「はいはい!工場は?」
「どこのだよ。」


次に沖田。


「はい。先っちょ!」
「だからどこのだよ。」
『はーい!トシの生態について!』
「却下!知りたくもねーよ。」
『あたしは知りたいの!』
「つーか社会見学じゃねーよそれ。知りたきゃ本人に聞きゃいいだろが。」

『あー、そっか。という事で、トシの生態、教えて?』
「誰が教えるかァァァァ!!」


相変わらず好き勝手し放題なクラス。あまりの騒がしさに、銀八は額に青筋を浮かべた。


「静かにしやがれコノヤロー。」


そうして静かに怒る銀八。



「もっとマシな案出せねーのか?」
「先生!マヨネーズ工場なんかどうッスか?」
『あ!あたしもそれに賛成!』


土方と明琉が手を挙げたが…


「二人で行け。そんで二度と帰ってくんな。」


冷たくあしらう銀八は一度ため息をついてから、クラスで一番地味で目立たない、なんの特徴もない男、新八を見て言う。


「新八ー、なんかねーのか?」
「え、僕ですか?うーん……………遊園地とかは?」
「だから社会見学だっつってんだろーが!遠足じゃねーんだよ!バカかお前は!」
「そこまで言わなくてもいいじゃないですか!!僕だってね、たまにはボケてみたいんですよ!」



そこでまたしても騒がしくなる教室。まさしく無法地帯である。



「あの…」
「あ?……な、なんでしょうかヘドロくん?」


そんな中、果敢にも手を挙げたのはなんとヘドロ。クラス1の強面で、担任である銀八が最も苦手とする生徒だ。
案の定、銀八は青ざめた顔で続きを促す。


「植物園なんかどうでしょう?
自然について学べるし、癒されますよ。」
「しょ、植物園ね!いい案だなぁ!よし決まり!植物園な!」



あまりにも怖いのか、青ざめたままあっさりOKした銀八に明琉は教師のくせに。と呆れたような表情。



「じゃあー決まったことだし、LHR終わり。」



それだけ言うと、銀八は教室を出て行った。





こうして、社会見学はヘドロの案、植物園に正式に決定したのだった。




『植物園かぁ…トシ、一緒に回らない?』
「嫌だ。」
『嫌だ却下。ま、逃げても追いかけるからいいけどね。とにかく!一緒に回るの!いい?てか回れよ。』
「命令!?」
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