取り合い
合宿二日目の夜。
皆で採ったキノコを使い、キノコパーティーを開催した。たくさんあったキノコ料理も、あっという間に完食し、食後のデザートに色んな種類のケーキが並べられた。

ケーキバイキングである。
甘いのが大好きな丸井や、大食いの桃城、金太郎はキラッキラに目を輝かせて、いっただっきまーす!とケーキに噛り付いていた。

「ぅんめ〜!!」
「うん、こりゃイケる!」
「ごっつ美味いで!」

もしゃもしゃと美味しそうにケーキを食べる三人。
たくさんあるケーキはすぐになくなりそうな予感がし、まだあるうちに、と他の者達もケーキを食べ始めた。美麗はというと、もうすでにケーキを食べていた。お皿に四つのケーキを乗せて。

んー美味しい、と頬を緩ませながらミルフィーユを咀嚼。残りの三つもペロリと平らげ、またケーキを取りに席を立った。戻ってきた美麗のお皿にはケーキが三つ。苺のタルトにレアチーズケーキ、それからティラミスだ。手を合わせてからケーキをパクリ。途端に、んー!ととろけそうな表情。
隣にいる跡部や真田、前にいる幸村、宍戸らは薄く笑いながら美麗を見ていた。


『景吾食べないの?』
「今樺地に取りに行かせてる。」
『ふーん…あ、じゃあ待ってる間に一口あげる!はい。』

ティラミスをフォークで一口分切りわけ、跡部の口元に持っていく。跡部はん、と、ぱくり、ティラミスを口にした。美味しいでしょ。と聞くと、まぁな。と頷いた。何くわぬ顔で跡部が口をつけたフォークでケーキを食べる美麗に、見慣れていない者達は口をあんぐりあけて固まっていた。そうしているうちにまたケーキ三つを完食。席を立ち、ケーキのおかわりに向かう。

「お前まだ食うのかよ!」

席を立つ美麗を見やり、宍戸が驚きの声を上げる。続けて鳳が恐る恐る尋ねた。


「…先輩、何個目ですか?」
『さっきので七個目』
「七個…っ!?」
「太りますよ。てゆーかよくそんなに入りますね。」

日吉が呆れたように美麗を見るが、彼女はニコッと笑い、明るく言い放つ。

『だーいじょーぶ!ケーキは別腹だもん!何個でも入るわよ!』
「………女って皆あんなんだよな。」

宍戸の小さな呟きは隣にいる鳳にしか聞こえなかった。鳳はそうですね…。と苦笑した。


『後食べてないのは…モンブランね』

モンブランは残り一個だった。ラッキー!と美麗はモンブランに手をのばした。が、モンブランを取ろうとする手は一つではなかった。
その手の主は…亜久津仁だ。二人は同じタイミングで手をのばしたため、手と手がぶつかった。

「『…………』」

無言で見つめ合う二人。

『……ちょっと、手どけなさいよ。』
「あぁ?お前がどけろ!」
『私が最初に取ろうとしたの!』
「俺だ!」

キッと睨み合う美麗と亜久津。
どちらも譲る気はないらしい。


『アンタ男でしょ!?だったらここは女の子の私に譲りなさいよ!!』
「女の子だぁ?どこにいんだよ。見当たらねーぞ。」
『なんですってェェェ!?お前の目は節穴か!眼科いけ!』
「……テメェ!」


いいから私に譲れコノヤロー!うるそェそっちが譲れバカヤロー!ハゲ!白髪!んだとこの怪力女!
モンブランを取り合う二人はまるで子供のような語彙力で、チンケな悪口を言いまくっている。


『これは私のよ!』
「ふざけんなよテメェ!これは俺のだ!」
『私が最初に目つけたんだから!てゆーか何?アンタもしかしてモンブラン好きなの?』
「…だったらなんだ。」
『ふっ。顔に似合わず随分可愛いじゃないの。』

嫌みったらしい笑みを浮かべる美麗に、亜久津は額に青筋を浮かべた。

「…テメェ…喧嘩売ってんのかよ。」
『やだこわぁい』
「…」

怖いとか言いながらそんなそぶりは全く見えない。
亜久津はますます美麗がわからなくなった。
言葉もなくただ睨み合う二人。


『…そんなにモンブラン食べたいんだ?』
「……悪いかよ。」
『誰もそんな事言ってないでしょ。仕方ない。わかった、こうしよう。』
「…?」

美麗はモンブランを半分に切り分けた。
そして半分を亜久津に、もう半分は自分の皿に乗せる。

『半分こしよう。これなら二人とも食べられるし。ね?』
「…ちっ。」
『え?いらない?わかった、じゃあ私が全部食べてあげる。』
「!?んな事言ってねェ!どんな耳してやがんだテメェは!」


モンブランを取ろうとフォークをのばす美麗。
亜久津はそれを間一髪避ける。
ようやくおさまったケーキの取り合い。またいつもの穏やかな空気に戻った。
_7/14
[ +Bookmark ]
PREV LIST NEXT