嫌いな人
□【嫌いな人認定!】


「あっちぃー!美麗タオルくれ!」
『はいよ。』

午前の練習が終わり、部員達が汗を滴らせながら戻ってきた。美麗はタオルを配っていく。いつもなら自分で取れ、と言って寛ぐ美麗だったが、今回ばかりはするわけにはいかず。それなりに頑張っていた。

「美麗ちゃーん!俺にもタオルちょーだい!」
『…はい。』
「ありがとう!いやーそれにしてもいつ見ても綺麗だよねー美麗ちゃんは!」
『……』

ぐっと眉間にシワを寄せながら、美麗は千石を睨み上げた。それでも千石は気にする事もなく続ける。

「ねーねー今度デートしない?」
『しない。あっち行け。』
「わぁ冷たい!でもそんなところも可愛いよ。」
『…(ウゼー!忍足並にウザイわ!)』

大の女の子好きな千石。
美麗をあの手この手で口説くが、全く相手にされず。それどころかウザがられている。しかししつこさと粘り強さは人一倍あるため、諦める様子が微塵もなかった。そのしつこさに、もう彼女は呆れ果てている。

『近寄らないで!私はね、変態も大嫌いだけど軽い男も大嫌いなの!』
「酷いなぁ〜俺のどこが軽い男なのさ。真剣だよ?」
『……あ!あんなところに可愛い女の子が!』
「え!?どこどこ!?」
『ほーら!やっぱり女の子なら誰でもいいんじゃない!最低!』
「…いやあのこれは、」


しどろもどろになる千石を横目で睨み、背を向けて去っていこうとした。待ってェ!と慌てて美麗を引き止める千石。

「違うんだって!あれはその、つい…!今は美麗ちゃんだけだから!ね!」


「千石さん相変わらずだなぁ。なぁ越前。」
「そうっスね。」
「ハッ…美麗を口説くなんざ百万年早ェよ。なぁ樺地?」
「ウス。」
「つーかあんだけ冷たくされてよくめげないよな…。」

二人のやり取りを遠巻きに見ていた桃城や越前、氷帝陣は千石の粘り強さに感心する。


「ねー一回でいいからデートしよーよー!」
『絶対嫌。』
「そんな事言わずにさ!…あ、もしかしてデートした事ないとか!」
『はぁ?デートくらいした事あるわよ!』
「え!?一体誰と……あ、もしかして跡部くんと?」
『そうよ!』

跡部はもちろん、真田ともした事があるとも言った。まだ他にもいると思ったらしく、千石はうーん…と頭を捻る。


「…あ、日吉くんとか!」
『若とはないわね。』
「へぇー…意外だなぁ。そういえば、美麗ちゃんは日吉くんがお気に入りなんだっけ。」
『そうだけど。』
「もしかして日吉くんの事好き、だったりする?」
『当たり前じゃない。大好きよ。』
「……え!?」


日吉は思わず振り向く。その顔はみるみるうちに赤く染まっていく。きょとんとした顔で日吉を見つめる美麗に、顔赤いけどどうしたの?と問われ、慌てて顔を背けた。彼女の言う好きは特別な好きではない。ただ後輩として、大事な仲間として好きだと日吉も知っている。だがやっぱり照れるものは照れる。

「じゃー俺は?」
『は?』
「俺の事は好き?嫌い?」
『嫌いに決まってんだろ。』
「…そんなはっきり言わなくても。」



ガーンとショックを受ける千石を、美麗はチラとも見ず、フンッと今度こそその場を去って行った。ずーんとうなだれる千石の肩を、忍足がポン、と叩いた。
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