ジュニア選抜【3】
あのあと、竜崎先生が突然倒れてしまい、病院に運ばれた。
対したことはなかったらしいけど、しばらく入院との事。
竜崎班は顧問がいない中、何をするかで話し合っている。


「竜崎先生が戻るまで自主練になっているけど……」
「やっぱ試合だろ。」
「そうですね。」
「どういう組み合わせで行こうか?」
「じゃんけん?あみだ?」
「そんな適当な決め方でいいのか?」
「何でもいいから、早くやりましょうよ!リズムが狂っちまうぜ。」


なかなか意見がまとまらず、困ったな、と眉を下げる大石。


『あれ、何してるの?』
「あ、美麗先輩!」


荷物を抱えた美麗が竜崎班の様子に気付き、声をかけると赤也が嬉しそうに駆け寄って来た。


『まだ始めてなかったの?』
「試合する予定なんスけど、どうやってペアを作るかまとまらなくて…」
『ふーん………そんなのやりたい人同士でやればいいんじゃないの?』
「あ、じゃあ俺、桃城くんとやりたいな。」


千石が挙手しながら桃城を指名した。指名された桃城は千石を驚いた顔をして見るが、やがてニッと笑った。


「俺はいつでもいいっスよ。」


二人はテニスコートに入って行った。じゃあね、と美麗がその場を去ろうとしたら、千石が引き止めた。「見ていって欲しいなぁ。」『何でよ。』「いいからいいから。きっと惚れるよ!」そう言うと、パチリとウインクをする。全く…と言いながら、まぁこの後別に仕事ないしいっか、と見ていく事に。

千石は着ていたジャージを脱ぎ捨てた。鍛え上げられたその体に、どよめく。


「なんだあの体…!」
「すげェなあの筋肉…」
「かなり鍛えてますね。」
『すご。』

試合が開始すると、千石のプレイスタイルは何かに似ていた。でも皆それが何かが思い出せずモヤモヤ。そんな中、美麗があ、と声をあげた。


『もしかして、ボクシングじゃない?』
「ボクシング?」


言われて見れば、ボクシングに見える。美麗はそういえば…と壇が言っていた事を思い出した。


「千石先輩はこの一ヶ月間、テニスをやらずにボクシングをやっていたんですよ。」


やるじゃない、と少し見直した美麗は小さく微笑んだ。
千石は桃城のジャックナイフを難無く返し、ついに千石のマッチポイント。桃城が放ったボールを、千石はアッパーカットで華麗に決めた。勝ったのは千石。


「最後はアッパーカットかよ…」
「まさにボクシングでしたね。」


感心していると、戻って来た千石が美麗に抱き着こうとしたが避けられ未遂に終わる。しかし千石はめげずにニコニコ。


「どうだったー?惚れた?惚れた?」
『………せっかく見直したのに…やっぱりアンタは相変わらずね。』


はぁ、とため息を一つつき、くるりと千石に向き直ると、ニコッと笑ってみせる。


『あのアッパー、まだまだね。』
「え、そう?」
『本物のアッパーカット、見せてあげるわよっ!!』


ドゴォ!と素晴らしいアッパーカットを決めた美麗。
千石は吹っ飛び、「ゲフッ…さ、さすが美麗ちゃん…!」と口から血を吐く。


『フンッ!』
「…お、お見事。」



ぱちぱちと拍手を送る宍戸達。


「…千石さんも、まだまだだね。」


リョーマは伸びている千石を見て、そう呟いた。


翌日。特に仕事もなく、のんびり散歩していた美麗は、見覚えのある後ろ姿を見つけた。


『……あれ、国光?』
「!美麗か…」
『久しぶりね!どうしたの?』
「竜崎先生に頼まれてな。」
『わざわざドイツから来たんだ?ご苦労様。竜崎班がいる場所まで案内しましょうか?』
「頼む。」


手塚と話していると、あっという間に竜崎班がいる場所に着いた。竜崎班はフェンスの向こうで何やらモメているようすで美麗はまたか、と肩を竦めた。


『あの班、モメてばっかりなのよね。』
「そうか…」
『けど、国光が来たから大丈夫かな。よろしくね。』
「あぁ。」
「あ!て、手塚!?」


その時、大石が手塚の姿を発見した。皆が駆け寄ってくる。
じゃ、私はこれで。そう言い踵を返した美麗に手塚は声をかけた。


「美麗、皆を食堂へ集めておいてくれないか。」
『ん、わかった。』


少し離れたところでおもむろに振り向くと、手塚を囲む菊丸達の顔はすごく嬉しそうで。
クスリと小さく笑った美麗は、そのまま榊班と華村班に知らせに向かう。

知らせを受け、食堂には全員が集められた。そしてなぜ手塚がここにいるのか説明する。手塚は竜崎先生が不在の今、竜崎班のコーチを任されたため、ドイツから帰国したのだ。
だが手塚がコーチをやるのに、梶本は反対した。手塚は表情を変える事なく「今日の練習で判断してくれ」と言った。
早速テニスコートに行き、梶本と試合。手塚は肩を負傷しているにも関わらず力強い打球を放つ。宍戸、鳳、千石と続けて試合をするが、手塚は変わらず強い。


「…フッ…やるじゃねーか手塚。」
『うん、カッコイイ。』
「!?お前、手塚が好きなのか!?」
『は?誰もそんな事言ってないじゃない。』
「だって今カッコイイって!」
『うん、カッコイイもん。国光。』
「…お、俺と手塚どっちがカッコイイんだ!?」
『…アンタ何ムキになってんのよ。国光に決まってるじゃない。』
「………っ手塚ァァァ!!俺様の美麗をたぶらかすんじゃねェェェェ!!」
「……なんの事だ?」



跡部は怒鳴りながら手塚につかみ掛かる。訳がわからない手塚はア然とした顔。眼鏡がずり落ちた。周りも話がわからず、呆然としている。


『…いつ私が景吾のものになったのよ。』
「美麗、何があったんだ?」
『んー…なんかね、俺と手塚のどっちがカッコイイかって聞かれて、国光だって答えたらああなったの。』
「…先輩、俺よりも手塚さんが好きなんですか…?」


鳳がしゅんとした顔をする。
美麗は好きとは言ってないんだけどな、と思いつつ『そんな事ないない、長太郎のが好きよ。』と頭を撫でる。途端に鳳は嬉しそうな笑顔になった。


『景吾!いい加減にしなさい!』
「いいか美麗!手塚なんかに騙されるな!目を覚ませ!」
『お前が目を覚ませ。』


手塚につかみ掛かる跡部を引きはがす。


『…もう……さっきのは冗談よ。景吾のがカッコイイ。だからつかみ掛かるのはやめなさい。』
「……本当だな?」
『あーはいはい本当です。』
「…フッ…ならいい。いくぞ、樺地!」
「ウス。」


美麗の言葉(棒読み)に満足したのか、跡部は樺地を連れて去っていった。やれやれ。とため息をつき、手塚にバカが迷惑かけてごめんなさい。と謝った。


その日の夜。
食堂で手塚の歓迎パーティーが開かれた。歓迎パーティーは跡部、忍足、赤也、真田、千石、伊武、神尾の歌から始まる。


「手塚、待たせたな。俺様の美声に酔いな!」


跡部は指をパチン!と鳴らす。
それが合図で、食堂全体に音楽が響く。


『……眠くなってきた…』


歌を聞いているうちに、なんだか眠くなってきた美麗は頬杖をつきながら半分夢の中。
だが音楽が止んでマイクごしに聞こえた声に眠気は吹っ飛ぶ。


「最後に一つ言っておく!手塚、美麗をたぶらかすな!!美麗は俺のだ!」
『まだ言ってんのかお前はァァァァ!!』

「跡部、何バカな事を言っているのだ!このたわけが!」


すると真田がすかさず口を挟む。さすがいとこ!頼りになるわ!と思ったのもつかの間、次の発言にまたもや怒鳴る美麗であった。


「美麗は貴様のではない!俺のだ!!」
『違うでしょうがァァァ!!』



二人は周りなどお構いなしで言い争いをする。


「アーン?いとこだからって調子乗ってんなよ真田。俺のが長い事美麗と一緒にいるからな、アイツの事ならなんでも知ってるんたぜ。あれは5歳の時。木から落ちて大泣きした美麗の頭撫でてやったら俺のこと大好きだって言ったんだ。」

「だからなんだ。お前こそ幼なじみだからって調子に乗るなよ?たとえ離れていようとも、俺と美麗の心は繋がっている。家族みたいなものだからな。お前は知っているか?美麗は小さい頃はなかなかに弱虫でな、泣いてばかりいたんだぞ。いつも俺の後ろにひっついていたんだ。…フッ、そんな事知るわけないか。」
「…んだと?俺なんか……」
「…なんの自慢してんだよ。」


言い争いはいつの間にか美麗の事をどのくらい知っているかの自慢大会へと変わっていた。
美麗ははぁー、と盛大なため息をつき、もう知らない。勝手にやってろバーカ!と部屋に戻っていった。

跡部と真田以外はしばらく様子を見ていたが、いつまでも終わらなさそうだったため千石が「はいそこまで!」と強制終了させた。


to be continued...


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