ジュニア選抜【1】
ある日、氷帝テニス部ではレギュラー陣だけが部室に集められた。中心にいるのは榊監督。レギュラーに混ざり、マネージャーの美麗もいる。


「今年から急遽ジュニア選抜大会が開催される事となった。
相手はアメリカジュニアハイスクール選抜チームだ。」
『ジュニア選抜?』


聞き慣れない言葉に、美麗は首を傾げた。榊監督は小さく頷き、続ける。


「そこで、ジュニア選抜合宿に参加する選手を発表する。」
「監督、なぜこの時期に?」
「あちら側の要請だ。」


ジュニア選抜合宿に参加する選手ーは跡部、忍足、宍戸、鳳、樺地の五人。残りのメンバーはいつも通りの練習。


『頑張ってね。』
「ちなみに雪比奈にはボランティアとして参加してもらう。」
『は!?』


人事だと思っていた美麗は嘘でしょ…と衝撃を受け、すぐさま不機嫌な顔になる。


『なんで私まで!嫌よ!』
「あぁ…しばらくマイハニーと一緒にいられるなんてなんて幸せなんだ!楽しみだ!」


榊監督はスキップしながら部室を出ていった。その他の細かい事を説明せずに。
仕方なく跡部が監督が置いていったプリントを手に軽く説明をする。

合宿は来週から。
どこの学校が来るかは不明。
合宿の詳しい内容は向こうに行ってから、との事。
そして不機嫌オーラを纏った美麗を連れて練習に戻った。


『(なんで私が手伝わなきゃならないのよ!めんどくさい!絶対行かないから!)』


ドリンクを作りながら憤慨していた美麗だが結局跡部に半ば無理矢理バスに乗せられるのだった。


とうとうジュニア選抜合宿が始まる日。バスで何時間もかけて到着した合宿所はなかなか綺麗な所だった。
参加する各学校の選手28名が集まると、この合宿についての説明が行われた。


「皆すでに聞いていると思うが、今年から急遽日米ジュニア選抜大会が開催される事になった。相手はアメリカ西海岸のジュニアハイスクール選抜チーム。」


本来なら全国大会終了後に全国から選抜したメンバーで望む所だったけど、アメリカ側の要請でこの時期の開催となったのだ。


眼鏡をかけた女性が前に進み出ると、合宿中の内容を説明し始めた。


「まず、ここにいる28名を3班に分けます。その班単位で合宿を行う事になります。」
「という事は学校もバラバラっていう事か…」


ポツリと大石が呟いた。


「各班のコーチは青学、竜崎先生、氷帝、榊先生、そして城成湘南の私、華村が努めます。」


合宿中は練習試合がメインで、各班のメニューは各担当コーチに一任される。いつ誰が当たるかはわからないとも言われ、選手達は真剣な表情で聞いていた。


「自分以外は全員ライバルだと思って、気を引き締める事!
班分けは宿舎の掲示板に張り出されているから、各自見ておくように。」
「最後に、今回の合宿をサポートしてくれる人達の紹介だ。
食事や健康管理は専門の人がサポートしてくれる。そして、その手伝いをするボランティアの人達だ。自己紹介を頼む。」


ボランティアチームはそれぞれ動きやすい服を着ており、女子はピンク色、男子は緑色と分けられている。


「キャーー!リョーマ様ァァ!」
「と、朋ちゃん!」


ぴょんぴょん跳びはねる朋香を宥めようとする桜乃。様子を見ていた榊監督はふと、気付いた。


「あともう一人はどうした?」
「え?」


ボランティアチームはきょとんとした顔。


「跡部!マイハニーはどこにいる!?」「「(マ、マイハニー!?)」」


榊監督の発言に目が点になる周りだが氷帝陣だけは深いため息をついた。


「アイツならまだバスの中です。爆睡していて全く起きないので置いてきました。」
「そうか…仕方ない、私が起こしてこよう。」


榊監督はちょっと嬉しそうにバスに向かって行く。跡部達はヤベェ!とあわてふためく。
が、榊監督が行く前にバスの扉が開いた。中から出て来たのは、眠たそうな顔をした美麗。
着替えてはいるものの不機嫌だ。


「おはようマイハニー!今から起こしに行こうと思っていたんだが…うごっ!


美麗は素早く榊監督の鳩尾にボディーブローを決めた。
あまりの早業に周りは目で追う事が出来ず、固まっている。


『朝っぱらからウゼーんだよ。チッ…やなもん見ちまったぜ。』
「…宍戸さん、あの人は誰ですか。」
「知らねーよ。少なくとも美麗じゃねェ。美麗はあんな言葉遣いしねーしな!」
「そうですよね!」



ハハハハ!と現実逃避をする宍戸と鳳だったが、跡部がはっきり言い放つ。
アイツは正真正銘美麗だ。と。笑っていた二人はピシッと固まり、信じられない!といった顔で美麗を凝視する。
気絶した榊監督を踏み付けこちらに歩いてくる美麗。


「おい美麗。さっさと前行け。」
『命令すんなハゲ。』
「ハゲてねーよ!!まだふさふさだ!」
『フン!』



ボランティアチームの中に交じると、その中でも身長がずば抜けて高く、なおかつその整った容姿のため、美麗はよく目立った。青学一年男子は##NAME1##を見るのは初めてらしく、あまりの綺麗さにただただ見とれる。


「よく眠れたかい?雪比奈。」
『全然寝足りないわ。』
「まぁ少しの辛抱だから、頼むよ。この中では1番年上なんだから。」
『……はぁ…わかりましたよ。やってあげます。』
「なんで上から目線なんだい。
…まぁいい。ボランティアをしてくれる氷帝学園三年、男子テニス部正式マネージャーの雪比奈美麗だ。」
『仕方ないからサポートしてあげるわ。感謝しなさい。』


腕を組みながらそう言う美麗。


「あの人、相変わらずっスね。」
「跡部にそっくりだにゃ。」
「クスッ…そうだね。でも、賑やかになりそうだよ。」
「やっぱり綺麗な足やわぁ…」


様々な反応の中、城成湘南の梶本は美麗を見つめたまま動かない。


「…なんて美しい人だ…あんな綺麗な人、初めて見た…」


頬を赤く染め、小さく呟いた。
梶本の目には、キラキラ輝き微笑みを浮かべる美麗が映っている。(実際はちょっと不機嫌オーラ)どうやら美麗に一目惚れした模様。誰にも気付かれまいと、ドキドキと高鳴る鼓動を抑え平静を装う梶本だった。


ボランティアチームの中で1番年上で、マネージャー歴の長い美麗が必然的にリーダーに。
必要なものや大事な事はすべて美麗に伝わり、美麗はそれを朋香らに伝え、指示を出していく。めんどくさいとぼやく美麗だったが、対して心配はしない。
そんな事を言いながら、やるべき事は責任を持ってきちんとやり遂げるから。そしてなんだかんだ言いながらいつも選手らを全力でサポートしてくれている事を知っているから、跡部達は安心出来た。


『景吾の班どこ?』
「華村班だ。」
『樺地も一緒?』
「ウス。」
『そ。』


掲示板で自分達の班を確認した後は榊班は練習試合、華村班はミーティングを開始した。
ただ、竜崎班はちょっと怪しい雰囲気だった。神尾と赤也が険悪なムードだったからだ。
あの二人の間に何があったかは知らない美麗は、喧嘩にならないことを祈った。
prev * 58/208 * next