合同合宿【4】
合同合宿三日目。
午前中は打ち合いやランニング。
昼休憩の後は試合形式の練習。
ダブルスをやるらしいが、いつものペアじゃつまらない。
そこで、ペアを変えようという事になった。ペアはくじ引きで決めた結果、こうなった。

リョーマと桃城ペア
菊丸と向日ペア
手塚と跡部ペア
日吉と赤也ペア
財前と海堂ペア
白石と真田ペア
幸村と宍戸ペア
ダブル忍足ペア
鳳と大石ペア
柳と乾ペア
仁王と丸井ペア
その他諸々


互いのペアの顔を見て、嫌そうにする者や不満げな者、楽しげな者等様々だった。
美麗自身も、滅多に見られない組み合わせなため内心ワクワクしていた。


「これよりそれぞれのペア同士試合を開始する!リョーマと桃城ペア対仁王、丸井ペア!コートに行ってよし!」


榊監督がビシッと指示するのを合図に試合が始まった、が。


「うごっ!」
「…っ!」
「ってぇー…!突っ込んでくんなよ越前!」
「それはこっちの台詞っス!」


リョーマと桃城は全く息が合わず、さっきから失敗の連続。
ついには試合放棄し言い争いを始めてしまった。仁王、丸井ペアはただそれを眺めるだけ。
周りも、やれやれと肩を竦めた。


『あっははははははは!!』


美麗だけは、てんでダメな二人を見て大爆笑。
目に涙を浮かべて、隣にいる観月の背中をバンバン叩く。


『あはははっおっかしー!!』
「…痛いんですが…。」


観月の声には全く耳を貸さず、ただただ笑い転げている美麗。
リョーマと桃城はそんなに笑わなくても!と内心で悔しがりそしてキッ、と互いを睨み、お前が悪い!桃先輩が悪い!等と言い争いが再開。結局、その試合は不戦勝で仁王、丸井ペアの勝ち。そして、負けチームには乾特製乾汁を飲むハメに。
嫌々飲んだリョーマ、桃城がパッタリと倒れたのを見て、あとに試合を控えているメンバーは顔面蒼白で、絶対勝つ!と燃え上がった。恐ろしい罰ゲームは受けたくない。

続いて日吉、赤也ペア対ダブル忍足。
この2チームは最初はかなり真剣。お互い譲らず、ラリーが続く。
ダブル忍足は、従兄弟同士なだけあって息はピッタリ。
日吉、赤也ペアはぎこちないながらも様になっているが後半戦になり、ダブル忍足がリードを取った。
謙也のサーブの時、ボールを空高く放ち、いざ打とうとラケットを振りかざした。その時、謙也の目の前にブーンとハチが横切った。突然の事にびっくりした謙也はうぉああああ!!と叫びラケットをふりまわした。ハチを追い払おうとしたのである。
だが、勢い余って謙也の手からスッポリ抜け離れたラケットはビュオン!と前の方にいた忍足の後頭部にガスッとヒット。


「がっ!!?」
「………あ。」


辺りはしーんと静まり返る。
後頭部を押さえ、忍足はゆっくり振り向いた。よほど痛かったのか、涙が溜まっている。


「謙也……何の恨みがあんねん!」
「ちゃうって!わざとやない!ハチが目の前に来てびっくりしたんや!そんなつもりはこれっぽっちもあらへんて!!」
「ハチィ?お前は乙女か!んな事でびびんなや!」
「なっ…!誰だって目の前にハチがきたらビビるやろ!」
「うっさいわアホ!」
「アホって言う方がアホなんやドアホ!!」



アホアホ言い合うダブル忍足を見て、美麗が呆れた顔で、小さくどっちもアホだろ。と呟いた。日吉、赤也ペアは言い争っているのをいいことに、サーブだけで決めた。負けたのはもちろん、ダブル忍足。


『全く…なんてレベルの低い言い争いなの。小学生か。ねぇ景吾?』
「全くだぜ」
「お前ら二人もアイツらと対して変わんねーけどな。」


自分の事は棚にあげている二人に、宍戸は冷静につっこんだ。
二人は一瞬固まり、今日もいい天気ね。あぁ、そうだな。と思いきり話を反らした。


夕方になり、合宿所に帰宅。
もう夕飯の準備は出来ているらしく、いい匂いが漂っている。
部屋で軽く汗を流し、また食堂に集まった。全員が揃ったところで夕飯を食べ始める。
ちなみに、席は自由。美麗の左右を狙おうとする者はたくさんいたが、左右は跡部、真田に取られた。そして、前を狙うべく争っている間にちゃっかり幸村がそこに座り、彼らの小さな夢は儚く散った。

夕飯を食べ始めて一時間。
またイベント進行係りが前に現れた。今日は何をするのかワクワクした表情やめんどくさそうな表情の者も。
美麗はデザートのコーヒーゼリーを食べながら耳だけ傾けていた。


「今夜のイベントは夜の定番だよ!さぁ定番と言えばー?」
「はいはいっ!枕投げ!」
「修学旅行じゃないからね。」
「恋バナ!」
「お前は女子か。」
「椅子とりゲーム!」
「鬼ごっこ!」
「全っ然違うわ!なんで夜に鬼ごっこせなあかんねん!アホか!」



だんだんズレていく話を忍足は修正。そして、かなり深刻な表情をして一言。


「肝試しや。」
「「「肝試し?」」」


胡散臭い。くだらねー。と言う声が飛び交う中美麗はコーヒーゼリーを食べる手を止め、青ざめていた。


「肝試しなんて胡散臭いって思うけど、実はそうでもないんだな。これが。」


千石が語り出した。


「ここの合宿所の山、出るらしいよ。幽霊が。」


その言葉に、冷ややかな空気が流れた。


「昔、一人の男がこの山で自殺したんだ。自殺した理由は、付き合っていた彼女にフラれたから。こっぴどくフラれたらしいよー。よほどショックだったのか、彼は自ら命を絶った。それ以来、夜になるとその男の霊がうろついているんだとか。
目撃者も何人かいるしね。他にもいろいろいるらしいよ。」
「「「「………」」」」


リアルな話に少し怖くなる者数名。千石は明るい口調で続けた。


「ま、ただの噂だけどね!それがホントかどうかとりあえず確かめてみようよ!楽しそうだし?」
「ただ、人数が多すぎるでくじ引きで肝試しに行く人を決めるで。当たりって書かれた棒を引いた奴が肝試しに参加。なんも書かれてなかったら待機や。
ほな、青学から一人づつ順番に引きに来てや。」


そうして肝試しに参加する人が決められていった。
着実と順番が回ってきて、とうとう美麗の番。


『待機待機待機待機待機待機…っ』


美麗は呪文のように待機を繰り返しつぶやいていて、少し怖い。あまりの必死さに見ている皆は引き気味。
ていやぁ!と勢いよくくじを引く。棒をみた瞬間、美麗は石化。そして、持っていた棒をバキッとへし折る。さらにそれを地面に落とし、足で粉々に踏みつける。


『なんでなんでなんでェェェェ!!あれだけ祈ったじゃん!まだ足りないって言うの!?ふざけんなァァァ!神様なんて信じた私がバカだったわ!なんでなのォォォ!くっそこんなもの…っこんなものこうしてやるゥゥ!!』


ダンダンダンとありったけの力で棒を粉々にする美麗の行動は棒が可哀相だと思ってしまうくらい、酷かった。


『だいたい何よこの棒!なーにが当たり♪だ!こんなもん当たっても嬉しくないわよ!どうせなら宝くじに当たりたかった!!一億円ー!!』
「お、落ち着け美麗!」


壊れかかっている美麗を真田、跡部と数人の者が止める。
なんとか美麗を宥め、全員がくじを引き終わった。


「それじゃ、お風呂済ませてからテニスコート前集合ね。そこで参加者をさらに何グループかに分けるから。」


言い終わると、皆ぞろぞろと部屋に戻っていく。


「お、お姉様っ!私達も行きませんか?」
「お風呂入りましょう!ね!」
「は、早く行こう!」


女子三人は、ずーんと落ち込む美麗の背中を押して大浴場へ向かった。
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