合同合宿【3】
合宿二日目。
朝7時に起き、食堂で朝食。
朝食中に、美麗がマイクを持って現れた。
ご飯を食べたらテニスコートに集合。全員が集まり次第説明するとの事。その際、動きやすい服装で来いとも言われたが、まぁ部活のジャージでいいらしい。

テニスコート内に集合した部員達。全員が揃ったところで、美麗から何かを配られた。
それは竹で編まれた籠。
「…?」なんで籠?と状況がイマイチ理解出来ない部員達は首を傾げる。


『みんな籠持った?』


その問いかけに、金太郎が持ったでぇー!と返事をした。


『それじゃあ出発進行ー!!』


声高らかに言い、歩き出す美麗を大石が慌てて引き止める。


「ち、ちょっと待って!出発ってどこに?」
「美麗、説明はどうした。」


真田がそう言うと、美麗はあ。忘れてた。と苦笑した。


『えーっと、今日は山登りするから。』
「「「山登り?」」」
『そ。あそこに山があるでしょ?あれに登るの。』


美麗はテニスコートから見える山を指さして続ける。


『山登りは体力つけるのにうってつけよ。』


なるほど。と納得。
それと同時に、ちゃんと部員達の事を考えているんだなと感心。しかし、1つ疑問がある。


「なんで山登りするのに籠がいるんスか?」


桃城の質問に皆が同意した。
山登りには籠は必要ない。
なのに籠があるなんて、どういう事なのか。美麗の答えを、静かに待つ。


『それはね、キノコ狩りをするから!』
「「「キノコ狩り!?」」」


ア然とした顔の彼らとは反対に、嬉々とした表情の美麗。
わけがわからないという皆に、美麗は熱く語り出した。


『この山にはね!食べられるキノコがたくさんあるの!それを皆で採って、今日の夕飯はキノコ尽くしよ!』
「「「………」」」


つまり、美麗がキノコ食べたいがためという事だ。山登りというのはただの口実で、本当の目的はキノコ狩り。皆でキノコを採り、夕飯に食べよう!という魂胆だ。完璧に美麗の趣味である。
氷帝レギュラー陣+真田は、やっぱりか。と深いため息をついた。そして、付き合うしかないか。と潔く諦める。
美麗が言う事には絶対逆らえないのだ。逆らったらどんな目に遭うか知っているから。
だが、そんな事など微塵も知らない他校は不満の声を漏らす。


「キノコ狩りなんて練習に役立つのか?」
「キノコなんかどうでもいいから俺は甘いもんが食いてェ。」


キノコなんか、という聞き捨てならない台詞を耳にした美麗は、静かにその人物を睨んだ。
跡部達はあーあ…アイツ、死んだな。と憐れんだ。


『ちょっとそこのブタ。』
「ブ…!?だから俺はブタじゃねーって…『今なんて言った?』は?」
『は?じゃなくて、さっきキノコなんかって言ったわよね。』
「あぁ…言ったけど?ホントの事だろぃ?だいたい、俺キノコ好きじゃないんだよな。なんつーかあの…匂いがやだし、はっきり言ってそこまで美味しくないじゃん?」
「ま、丸井!今すぐ謝れ!まだ間に合う!」


真田が珍しく慌てる。
は?と丸井が首を捻ったと同時に、頭に鋭い痛みが走った。
ぅがっ!?と痛みに悶える丸井。
涙目で美麗を見上げると、美麗は鬼よりも恐ろしい形相で丸井を睨みつけていた。


「ひぇ!?」


思わず竦み上がる丸井。
美麗の尋常じゃない怒りを感じ取った丸井は冷や汗ダラダラ。
いち早く危険を察知した周りは丸井からサッと離れ、遠くでこちらの様子を伺っていた。


『テメーブタのくせに生意気な口聞いてんじゃねーぞコラ。キノコが美味しくない?あんなに美味しい食べ物を美味しくないだなんて…ふざけてんのか?ア゙ぁ゙?』

丸井の胸倉を掴み、ギロッと睨む。まるでヤンキーである。いや、ヤンキーよりも恐ろしい。


「…先輩、キャラ変わってます。」


日吉の言う通り、美麗の性格は激変。誰この人。的な感じだ。そんな恐ろしい美麗の暴言は続く。


『キノコなめんなよコルァ!なめたら痛い目みんぞ!謝れ!キノコに謝れ!』
「す、すみませんでした!!」
「てゆーかなんで俺を指さしてるんですか。丸井さんも俺に謝らないで下さい。」



美麗は、なぜか日吉を指さし謝れと言った。丸井は必死で日吉に謝る。それに対して日吉は青筋を浮かべ、今にも殴りかかりそう。宍戸が「落ち着け若!」と日吉を押さえる。
美麗は、まだ少しいらついてはいるがしばらくすると元の顔に戻り丸井を一睨みして、『次はないわよ。』と言い放った。
高速で首を縦にふる丸井を一瞥して戻って行った。

その後、丸井はジャッカルに泣き付いた。ジャッカルはよしよし、と子供をあやすように丸井の背中を優しく叩く。


『行きたくないは却下だから。全員行け。わかった?』


逆らうなよオーラが背後に見え、皆はゾクリと寒気がした。
そして、キノコ狩り最高ー!と無理にテンションを上げた。


『よーし!じゃ行く「ちょっと質問!」…何?』


白石が挙手する。
美麗は早く行きたくてウズウズ。しかめっつらで振り向いた。


「キノコ狩りって、めっちゃ難しいんやろ?素人がやったら、毒キノコと間違えて危ないんちゃう?ちゃんと名人がおらなあかんってテレビで見た事あるで。」


白石の言葉に、何人かがあぁー…確かにそうだった。と頷いた。


『それなら心配ないわ。名人ならいるもの。』
「え、どこに?」


辺りをキョロキョロ見渡すが、それらしき人は見当たらない。


『ここよここ。』


美麗は自分を指さした。
一瞬の沈黙の後、えええ!?とびっくりしたような事が響いた。


「美麗ちゃんが名人!?嘘やろ?」
『なんで嘘つかなきゃなんないの。私がいるから大丈夫なの。だからキノコ狩りしようって思ったのよ?』
「美麗は昔からキノコが大好きでな、よく山にキノコ狩りをしに行くんだが、今ではすっかり山の常連で、キノコについてだったらなんでも知っている。
美麗#がいる限り、間違いは起こらんだろう。」


真田の説明に皆は目を丸くして、(しっぶい趣味だな!)と思うのだった。


「ちなみに、美麗は地域のキノコ狩りクラブのリーダーだぜ。前に付き合わされて行った事があるが、コイツは確かに名人だ。心配いらねぇよ。」


跡部の補足に、彼らは目が飛び出る勢いだった。
キノコ狩りクラブとは、地域のキノコが好きなおじいさんやおばあさんばかりが集まるクラブの事で、週末や長い休みの時等、あちこちの山へ登ってはキノコを採るという、老人会みたいなものだ。


『そーいう事。だから安心しなさい。』


そして、美麗を先頭に一行は山へと向かった。
山に入る直前、先頭にいた美麗が振り返り真剣な面持ちで言った。


『これから山に入るけど、絶対私の言う事に従う事。単独行動は禁止よ。わかった?山は危険がいっぱいなんだから、一歩間違えれば死ぬわよ。』


その言葉に、全員がゆっくりと頷いた。


『それから、キノコを見つけたら勝手に採らない事。まずは私に知らせなさい。』
「なんで?」


リョーマが聞くと、美麗は眉をひそめて呆れたように息をついた。


『キノコにはいっぱい種類があって、食べられるキノコによく似た毒キノコがあるの。もし間違えてそれ食べたら、下手したら死ぬんだからね。そこが素人には難しい判断だから、名人がついてるんじゃない。わかった?』
「…なるほど。」


そして、意気揚々と山へと入って行った。
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