合同合宿【2】
合宿中の説明を終え、途中トラブルもあったがなんとか無事に解決し、早速練習に取り掛かる。


「まずは外周三周!それが終わったら各自ストレッチだ!」


部員達が外周を走っている間、美麗はマネージャー仕事がよくわからないという三人にしっかり教え込む。そして山吹に一人、一年生である男の子もマネージャーとして加わった。


『桜乃と朋香でドリンク作り。杏と太一はタオルの準備。みんなが帰ってきたら忙しくなるから、頑張ってね。』
「「「「はい!!」」」」


美麗はボールの入った籠を持ち出してから、コート整備。
それが終わったのと同時に、タオル係がヨロヨロしながらやって来た。今にもこけてしまいそうな壇に美麗は慌てて駆け寄り、半分持つ。
タオルを人数分にしっかり分けた時、タイミングよく外周から戻ってきた跡部達は三周走ったというのにあまり息が乱れていない様子。
そのままストレッチに入った。


「おーい美麗ー!」


向日が大きな声で美麗を呼ぶ。
呼ばれた美麗はちょっとめんどくさそうにしながらも向日の傍に歩み寄る。


『何?』
「ちょっと手伝ってくれ!背中押して。頼む!」
『仕方ないなぁ………このくらい?』
「おう!」
『アンタけっこう柔らかいんだ。』
「まぁな!…っと、もういいぜ!ありがとな!」
「おい美麗、こっちも頼む。」


向日のストレッチの手伝いが終わり、戻ろうとした美麗を跡部が引き止める。
それに続いてあちこちから手伝ってほしいと声をかけられた。
美麗はこれもマネージャーの仕事のうちだ。と自分に言い聞かせ、順番に手伝っていく。
跡部が終わると、次は忍足。


「ほんなら頼むで。」
『……わかった。』


美麗は忍足の背中に手をあてる。


『いくわよ。おらっ!』
「あだだだだだだ!!ちょっ、ちょっ、ちょォォォ!?」

『うるさいわね…何よ。』
「さっきと扱いが違うやん!なんて乱暴な!」


美麗は忍足の背中をいきなり、しかも思いっきり押したのだ。跡部や向日にはゆっくり、優しく押したのに、忍足だけ乱暴。悲痛な悲鳴に、全員の視線が集中する。
酷いやんか!と涙目で抗議する忍足に、美麗は涼しい顔をする。


『別に普通でしょ。』
「普通なわけあるかい!てゆーかなんで足!?俺になんか怨みでもあるん!?」


そう。美麗は手でやったかと思いきや、。(最初に手を置いたのはバレないようにするため)足で忍足の背中を押したのだ。それはもう力いっぱい。


『ありまくり。これくらいじゃおさまらないわね。』
「………」


忍足は反論する事もなく、しくしくと一人隅でいじけていた。
美麗はそんな忍足に見向きもせず他の所へ行ってしまった。


「……侑士…ドンマイやな。」


従兄弟である謙也は隅でうずくまる忍足を憐れむ目で見た。
そして自分はさっさとストレッチを終わらせたのだった。


「雪比奈。すまないがこっちも頼む。」


一通り手伝いを終えた美麗だったが、また手伝いを要求された。
声がした方を見れば青と白を基調としたジャージを着た男が立っていた。


『青学?』
「あぁ。頼んでもいいか?」
『いいわよ。ところでお名前は?』
「あぁ…自己紹介が遅れたな。青学の部長、手塚国光だ。よろしく頼む。」
『部長さん?三年生?』
「あぁ。」
『じゃあ同い年ね。よろしく。国光って呼んでいい?』
「…別に構わないが。」
『私の事も、呼び捨てでいいから。』
「そうか…ではそうする事にしよう。」


手塚と少し話していると、手塚の後ろからひょこっと男が現れた。


「手塚ぁー!抜け駆けは卑怯だぞ!」
「菊丸……」
『あなたも青学の人?』
「そ!菊丸英二!よろしくにゃ!」
『は?』


美麗は呆れた顔で菊丸を見、毒を吐く。


『いい歳してみっともないわね。猫にでもなったつもり?人間は猫にはなれないわよ。』
「……」

「…英二?どうしたんだ?」


固まったまま動かない菊丸を、ダブルスパートナーである大石が心配そうに声をかける。


『……タマゴみたいな頭。変なの。』
「……」



グサリと大石に矢が刺さった。
しかし、構わずに美麗は続ける。


『すごい髪型ね。前髪二本なかったら完璧タマゴじゃない。恥ずかしくないの?』
「……ハ、ハハハ…」



大石は乾いた笑みでごまかした。よく見ればちょっと泣いている。


「クスッ…随分はっきり言うんだね。」


そう小さく笑ったのは不二周助。


「美麗ちゃん、だっけ。僕は不二周助。よろしくね。」
『よろしく。呼び捨てでもいい?』
「いいよ。ところで、君は辛い物、好きかい?」
『うん大好き!激辛とか特に!』
「「「え?」」」
『もしかして周助も?』
「あぁ、ハバネロとか使ってよくサンドイッチとか作るんだ。」
『いいなぁおいしそう!私もそれ食べてみたい。』
「合宿中に作ってあげるよ。一緒に食べよう。」
『うん!』


辛い物の話で意気投合した二人を、呆然と見つめる手塚達。
桃城は「聞いてるだけで辛くなってきたぜ…」と、隣にいた越前に話しかける。「俺もっス…」越前も同意。
まだ話し足りなさそうだった二人だが、手塚の「…まだストレッチ終わっていないんだが。」の一言で話は中断。
また話そうね。と美麗が言うと、不二はうん。と返事を返した。

手塚のストレッチを手伝い、菊丸、不二、桃城、海堂と続き、ラストは越前。


『ちっさ。』
「………」



越前を見て第一声が“小さい”。桃城や菊丸がぶっ、と吹き出す。越前はムッとした顔で美麗を見上げる。


『一年生?』
「……そうだけど。」
『…生意気ねー。もうちょっと愛想よくしたら?』
「余計なお世話。」
『まったく…ん?…青学の一年生………確か景吾がなんか言ってたなぁ…名前、なんて言うの?』
「…越前リョーマ。」
『越前………あぁ、思い出した。景吾がチビ助って言ってたわ。…ふーん、なるほど、チビ助か。アンタにピッタリなあだ名ね。』
「…アンタ、ムカつく。」


言いたい放題な美麗をキッ、と睨むが、美麗は余裕そうにフッと笑う。そして越前の頭にポンと手を置き、ワシャワシャと撫でる。


『上目づかいで睨まれても怖くないわよ。』
「…いつか絶対追い抜いてやる。」
『その台詞、岳人も言ってたわ。ふふっ…何年後になるかしらね。』
「……」
『拗ねないの。ほら、ストレッチやるんでしょ?座って。』
「…ッス。」


美麗に素直に従う越前。
どういう風の吹きまわしかはわからないが、美麗が素直な方が可愛いわよ。と言うと、越前は照れたようにそっぽを向いた。
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