デートは計画的に
『次あそこね!』
「ちょっと待て!そんなに急がんでも…!」
『つべこべ言わない!ホラ早く!』
「…全く…相変わらずな奴め…」


東京都内の街を駆ける美麗はいとこである真田の手を引きあっちこっち移動する。日曜日だからか、人が多い。
デート真っ只中である美麗達。事の発端は先週の土曜日。
美麗の電話での一言から始まった。


《もしもし。》
『あ…弦?私だけど。』
《あぁ、どうした?》
『来週の日曜日って部活ある?』
《日曜日…?いや、ないが。》
『ホント?じゃあさ、デートしない?』
《!?デ、デデデート!?》
『取り乱しすぎよ。いいでしょ?別に。』
《…こほん。すまん。》
『で、返事は?もちろん“はい”でしょ?』
《…まぁ…構わんが。》
『じゃあ日曜日、10時に東京駅ね。おやすみ。』
《あぁ、おやすみ。》


そうして日曜日に真田とデートの約束をしたのだ。

約束の日曜日。
駅前はいつも以上にざわついていた。原因はもちろん美麗だ。私服姿はより一層彼女の美しさを引き立てていて、男女の視線を一人占めしていた。当の本人は気付いてはいるが気にしない。そんな視線にはもう慣れっこだ。

一人でいる美麗を、周りがほっとくはずがなく。数人の命知らずなチャラそうな男が美麗に近付く。


「ねー君一人?」
『…いいえ。』
「うっわー!マジで綺麗だな。可愛いー!」
「俺達と遊ばね?イイとこ連れてってやるからさ!」
『嫌。あっち行って。』
「気が強いねー、でもそんなところもいい。な、行こうぜ!」
『!』


男達は美麗の腕を掴み、強引に引っ張る。


「ホラこっち!」
『……っいい加減に「美麗っ!!」…あ。』


蹴り飛ばそうかと足を上げた瞬間、後ろから名前を呼ばれバッと振り向くと真田がいた。
眉間にシワをよせて男達を睨んでいる。


「あ?…だ、誰だよお前。」
「カンケーねェ奴は引っ込んでろ!」
「貴様ら…その手を離せ。」
「は?つーかテメーこの子のなんだよ。彼氏でもねーくせに『彼氏だけど。』え?」
「え?」


男達と同じように真田も目を丸くさせていたが美麗は男達から離れ、これ見よがしに真田の腕に自分の腕を絡めた。


『この人、私の彼氏。』
「……そ、そーいう事だ。」
「…ちっ。」
「行こうぜ。」
「…なぁ、俺てっきり父親かと思ったんだけど。」
「「実は…俺も…」」



男達は真田を美麗の父親だと思っていたらしく小声でそんな事を話し合っていたが、はっきりと聞き取れた。
真田は怒りやショックが入り交じり震えていた。


『…ドンマイ、弦。』
「…これしきの事で俺は負けんぞ。泣くものか!」
『いや、もう泣いてるし。』
「泣いてない!これは………………これは……あの、アレだ。アレ。あの……鼻水。」
『目から鼻水が出るわけねーだろ。』



泣いていないと言い張る真田を、美麗は、はいはいわかった鼻水ね。とテキトーに話を合わせた。


『(弦ったら変に意地張るんだから…)』


昔からこんなんだったらしい真田の変わらない姿に、小さく笑みを浮かべた。


『助かったわ。ありがとう弦。』
「いや。俺がもっと早く来ていればこんな事にならなかったはずだ。すまん。」
『全然平気よ。弦が来なくたって私一人で倒せたもの。後少し遅かったらアイツら蹴り飛ばしてたし。』
「…(だから慌てて声かけたんだ。)」
『さて。んじゃ早速行くわよ。』
「あぁ。どこに行く気だ?」
『この近くにね、新しくペットショップが出来たの!今日はペットショップ巡りよ!楽しみー!』


はしゃぐ美麗を見つめ、真田は美麗が大の動物好きだった事を思い出した。
小さい頃から動物が大好きな美麗は休みの日はよくペットショップに行くくらいだ。
駅から10分くらい歩いたところに、結構大きなペットショップが見えた。真田の手を引っ張り店内へ入って行く。

中には犬や猫、鳥やうさぎ、ハムスター等沢山の動物がいて、美麗の目がハートに変わった。

『可愛いー!見て見て!子犬!ちっちゃーい!』


ガラスごしの子犬を見て笑う美麗。
子犬も、美麗をじっと見つめ、時折不思議そうに首を傾げたりする。それが可愛くて可愛くて、美麗はデレデレ。


『あ、ねぇ弦。』
「なんだ?」
『あの犬、弦に似てない?』
「…そうか?」
『うん、似てる!眉間にシワがあるのとかちょっと老けてるところとか!そっくり!可愛いわぁ!』
「………ん…?」
『どうしたの?』
「あの猫、」


真田が指さす先にはアメリカンショートヘアの猫。


『アレが何?』
「美麗に似ているな。」
『え?』


そう言われ、その猫をじーっと観察するがどこにも似ている要素が見当たらず、首を傾げた。


『似てないわよ全然。』
「いや、似ている。あのすました態度や雰囲気がなそっくりだ。」
『ふーん…?』


一通り動物を見て、満足した美麗はまた真田を引っ張り次の店へ向かった。


『あ!触れ合いコーナーだって!行くわよ弦!』


四件目の店では動物と触れ合えるコーナーがあった。
美麗は意気揚々とそこへ向かう。真田は美麗に振り回されやや疲れ気味だったが、弦ー!早く!と呼ばれ早足で追いかけた。


『きゃー!可愛いー!』


子犬を抱いている美麗はその可愛さにメロメロ。普段滅多に見せないような、満面の笑み。


『連れて帰りたーい!ね、弦!……弦?』


真田に話しかけるが返事が返ってこず。不思議に思い、隣を見ると真田は猫と睨み合っていた。


『…何やってんの?』
「この猫。俺を見て嘲笑ったんだ。」
『猫が笑うわけないでしょ。ねーワンちゃん?』
「おのれ猫の分際で生意気な!礼儀というものを知らんのか!」
『猫に礼儀求めてもムダだと思う。』

「にゃー。」
「な、何ぃ!たるんどるぞ貴様!」
『…やめなさい弦。みんな見てるから。てゆーか猫の言葉わかるの?』
「いいだろう決着をつけてやる!表へ出ろ!」
『決着って何!アンタらライバル!?やめなさいってば!』



真田の暴走はなかなか止まらなず、見兼ねた店員が美麗に声をかける。


「あの、お客様。」
『え?』
「あちらの方はお連れの方ですか?無邪気なお父様ですね。」
『違います。父でもなければ知り合いでもありません。赤の他人です。あんな人知りません。』


知り合いだと思われたくなかった美麗は赤の他人だと言い張る。
そして抱いていた子犬を下ろし、店を出ようとした。
今だ猫と口論(というか一方的に喋っている)している真田を去り際にさりげなく殴った。
殴られた真田は渋々猫との言い争い(真田しか喋っていないが)を止め、同じように店を出る。


『弦のバカ!恥かかせないでよ!』
「…す、すまん…つい。」
『つい、じゃない!大体猫が笑うわけないでしょ?アンタの思い込みよ。子供じゃないんだからやめてよね!猫にも失礼よ。』
「……いやしかしあの猫は確かに『だまれ!』…はい。」
『…まぁいいや。さ、次行こ。』
「またペットショップか?」
『もうあんな思いはしたくないからいいわ。買い物したいの。行くわよ!』
「…わかった。」


それから真田は美麗の買い物に付き合わされ、荷物持ちさせられたりで疲れ果てていた。


『弦!クレープ食べたい。おごって。』
「なぜ俺が…」
『ペットショップでの出来事、忘れたとは言わせないわよ。』
「ぐ…」
『これでチャラにしてあげるから。ね!買って!』
「…はぁ…何がいいんだ?」
『いちご。』


渡されたクレープを美味しそうに頬張る美麗。
弦にも一口あげる。と言いクレープを差し出した。真田はいや、いい。と断ったけど美麗に無理矢理押し付けられパクリと一口。


『美味しい?』
「む……まぁ。」


その後も二人でたくさん歩き回った。疲れた顔をしていた真田だが、意外と楽しそうでもあった。普段部員には絶対見せないであろう笑顔で、笑っていた。きっと幸村達がいたら目をひんむくだろう。


『ふー。楽しかった。』
「…そうだな…」
『…疲れた?』
「まぁ…少し。」
『ゴメン。久しぶりに弦と一緒だったから嬉しくて…』
「……確かに、久しぶりだな。」
『うん。だから楽しかったの。弦は?楽しかった?』
「お前に振り回されて疲れたが…まぁ、楽しかった。」
『そっか。よかった。今日はありがとね。』
「いや。」
『また家おいでよ。お母さん達も喜ぶわ。』
「そうだな。」
『あ、電車来た。またね弦。』
「あぁ。また。」


駅のホームに向かう真田に美麗は、あ!待って弦!と慌てて引き止めた。


『はい、これ。』
「?…これは…」
『今日付き合ってくれた御礼よ。あげる。』
「…ありがとう。」
『いーえ。じゃーまたデートしようね!』
「フッ…あぁ。」



翌日。
真田の携帯には美麗がくれたストラップがついていて、それを見た幸村達が爆笑していたとか。
それでも真田はストラップを外そうとはしなかった。


to be continued...

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