青春は続く
まだ少し寒さは残るが春らしい暖かな風が頬を撫でる。快晴の空の下、氷帝学園の正門前には今日の行事を知らせる看板が立て掛けられていた。

“第◯◯回 氷帝学園中等部卒業式"

そう、今日3月15日は卒業式。
跡部、美麗、忍足、向日、滝、宍戸、ジローが中等部を卒業する日。少し特別な朝を迎え、最後となる3-Aの教室に足を踏み入れる。大半の生徒達はそのまま高等部に上がるからそこまで卒業式に思い入れはなく、いつもと変わらない風景が広がっていた。
担任から貰った卒業生の証である豪華な花を左胸につけることで、ようやく卒業式なんだと実感するくらい、皆のテンションは普段と変わらなかった。

出席番号順に廊下に並び、保護者や在校生が待つ体育館へと向かう。盛大な拍手と吹奏楽の演奏に迎えられ体育館にA組から入場し、全クラスの入場が終わると式は厳かに開始された。

校長の祝辞に来賓紹介、在校生の送辞に卒業生の答辞といった当たり障りのない卒業式を無事終えると、教室に戻った卒業生に渡されたのは卒業証書と分厚い卒業アルバム。特に感動することなく終了した卒業式のあと、美麗達三年生はテニス部部室へと赴いた。


「先輩方、卒業おめでとうございます。」


いつもと変わらない表情で祝辞を紡ぐ日吉と、寂しそうな顔をした鳳、相変わらず無表情な樺地に少し緊張した面持ちの新マネージャー、五十川一真が部室で待ち構えており、皆のバラバラの表情がおかしくて小さく笑う跡部達。


「卒業っつっても高等部も対してメンバー変わんねーし環境も変わんねーから実感ねーけどな。」


向日が頭の後ろで手を組みながらそう呟いた。それには皆同意見らしく、揃って首を縦に振る。


「中等部の卒業式やる意味ないよな。時間の無駄だぜ。」
『そうね。卒業証書とアルバム渡すだけでいいと思う。それよりお腹空いた。』
「美麗ちゃんポッキーならあるよー!」
『食べる。』
「…あかん、ムードが台無しや。せっかくの卒業式やのにグダグダな会話…」
「いいんじゃない?これはこれでありでしょ。」
「俺達にはこれがちょうどいい。」
「……せやな。どうせ高等部でもこのメンバーなんやし。」


いつもと変わらない会話をする美麗達卒業生に、在校生である鳳はまだ寂しそうではあるが微かに笑みを浮かべて見つめていた。もう中等部には跡部達はいないけれど、あと1年したら日吉達も高等部へ上がる。そうしたらまた皆揃ってテニスができる。少し離れるだけで、永遠のさよならではないから、寂しいけれど涙は出ない。


「先輩、卒業アルバム見てもいいですか?」
「おう、つか俺もまだ見てねーんだよな。」
「俺もー。」
「俺もまだ。」
「見るの忘れとったわ。」
「ホームルーム終わってすぐこっち来たからね。」
「そういや俺達も見てねぇな。」
『そうね。』


どうやら全員まだ卒業アルバムを見ていないらしく、せっかくだからと皆で見ることに。ちょうど手元に持っていた美麗の周りに皆が集まり、揃って覗き込む。分厚い冊子を開くと、まず最初に先生達の顔写真。校長と教頭先生の写真が大きく載っていて、各教科の先生がその下にズラリと並ぶ。教師陣の中には当然顧問である榊監督もいて、ガッツリ決めポーズをしている写真が載っていた。


『もうコイツの顔見なくて済むのね。よかった。』


心底嬉しそうに言うものだから、跡部達はこれまで榊監督が美麗にしてきた所業を思い出し苦笑い。2ページにも及ぶ教師陣の顔写真が終わると、次は卒業生の個人写真。A組から始まっているそれは出席番号順だからか、跡部がトップを飾っている。


「ドヤ顔だな。」
「決まってるだろ?さすが俺様。写真でも完璧な美貌だぜ。」


自信満々な態度に返す言葉がない。卒業生全員が満面の笑みで写っている写真の中には当然美麗もいて、控え目に笑う姿が載っていた。


「先輩可愛いですね。」
『ふふん、まぁね。』
「ちょっと恥ずかしそうな顔がまた可愛ええわ。切り抜いて永久保存しやな。」
『しなくていい。』


B組には滝、C組には宍戸とジロー、D組には向日、H組には忍足。それぞれ満面の笑みだったり控え目な笑いだったりと、笑顔で写っていて、卒業生一覧が終わると授業風景などフリーの写真がズラリ。
跡部と美麗が授業中に殴り合いの喧嘩を始めるシーンに、疲れて爆睡する姿、英文を読むのに指名された跡部がキングコールを浴びる姿、体育の授業中、男子vs女子のドッヂボールの試合で白熱する姿、木陰で昼寝するジローに、ファンクラブに囲まれる美麗や跡部、忍足達の姿など。どれを見ても楽しそうなのが伝わってくる。
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