スキー教室
短い冬休みが終わり、新学期。
校長先生の新年の挨拶から始まり、あまり意味のない無駄に長い話を聞き終え、翌日に行われた書き初め大会では見事に美麗が優勝に輝き、冬休み明けのテストが終了した三日後。氷帝学園全学年対象のスキー教室開催のため、雪国まで飛んだ。一泊二日のスキー教室は毎年恒例の行事であり、わざわざ雪国まで赴くのである。

数時間のフライトを終え、辿り着いた場所は寒い寒い極寒の地。日本一大きなスキー場として有名な場所だった。宿舎となる旅館に荷物を下ろし、スキーウェアに着替え今回スキーを教えてくれる講師の説明を受けた。
毎年恒例の行事であってもスキーが苦手な人はたくさんいるし、一年生なんかは初めて体験する、という者もいるだろう。よってコースは初級、中級、上級とわかれている。一日目の最初二時間は各コースで実践練習、その後は夕方4時まで自由時間という予定だ。学年主任からの注意事項を聞き終え、さっそく初級、中級、上級に分かれ授業開始。跡部と美麗は当然のように上級者コースへ向かう。その途中、向日、宍戸、ジローといった元レギュラーメンバーに遭遇。


「やっぱお前らは上級者コースかー。」
「ふん、当然だろ。」
『岳人達はなに?中級?』
「おう。さすがにまだ上級者コースはいけねーし。」
『ふーん。』
「ねぇねぇ自由時間は皆で一緒に遊ぼうね!」


ジローの嬉々とした言葉に笑みを浮かべ、それぞれが頷いた。
上級者コースには跡部、美麗、忍足、滝、樺地、日吉。中級者コースには向日、宍戸、ジロー、鳳。初級者コースは大半が一年生だった。

また後で、といったん分かれ、跡部達は上級者が集う輪に混ざる。上級者コースには人があまりおらず、だいたい30人程度。


「美麗様ー!」
『!?』


講師のまぁのんびり適当に滑って下さい、というダラッとした言葉を聞いている最中、突然自分の名を呼ぶ大きな声に、美麗はびくっと肩を揺らした。


「やっぱり美麗様は上級者コースでしたか!ああこのコースにして正解でしたっ!この斎藤柚子、幸せであります!」
『…ああ、放送部の。』
「!お、覚えていてくれたんですか!?」
『うるさい子だなって思って。』
「…あんまり嬉しくない覚えられ方だけどまぁいいや!私、美麗様の大ファンなんですっ!」
『あっそ。』
「冷たいところがもうたまりません!」

「……お前、スキーやるの初めてとか言ってなかったか。」
「話しかけてこないで!私は今美麗様と話してるの!日吉くんなんかお呼びじゃないんだ!」
「……」



放送部部長で放送委員の彼女は学園祭、体育祭の時に司会を務めていたあの少女である。美麗を心から崇拝している彼女は同じクラスである日吉の問いかけを一刀両断すると、美麗様美麗様と犬のように引っ付いていた。


「……清々しいまでに態度が違うね。」


滝が苦笑しながら、呟いた。


「実は私、スキーは大の苦手で今まで一度も滑れた試しがないんですよー!」
『ならなんで上級者コースに来たのよ。』
「そんなの、美麗様とお近づきになりたいからに決まってるじゃないですか!美麗様いるところに私あり!」
『……バカじゃないの。』
「はいバカです!でもいいんです。美麗様とこうしてお話できたらもう満足ですっ!我が人生に一片の悔いなし!」
『んな大袈裟な。』



呆れたような、どこか楽しそうな表情の美麗は『ま、頑張って。』と放送部部長、斎藤柚子に小さく微笑みかけた。間近で見た笑みに、柚子は嬉しそうに瞳を輝かせ「はい頑張ります!何がなんでも頑張ります!」と
声を大にして叫び、ルンルンとスキップしながら友人の元へと戻っていく。


「元気な子やったなぁ。」
「そうだね。」


スキー板を装着し、ゴーグルを装着し、と準備に勤しみながら先ほどの二年生の元気のよさに笑う忍足と滝。やがて準備が完了すると、上級者コースの人達は思い思いに滑り出した。


「さて、俺らも行くか。」
『スキーやるのは久しぶりよね。』
「そうだな。」
『じゃ、お先に!』


見事なフォームで斜面を滑る美麗を追いかけるように、跡部も続く。相変わらず華麗なその姿を、生徒達はもちろん、講師も教師陣も見とれていた。


『景吾、あそこまで競走ね。負けた方はジュース奢りで!』
「あーん?挑むところだ!」


言うや否や、ぐんとスピードを上げる跡部と美麗は人垣を華麗にすり抜け、高台をこれまた華麗に飛び越え、ほぼ同着で目的地へついた。息一つ乱さす、互いをキッと睨む二人はまたいつもの如く『私の方が早かったわ。』「いや俺の方がコンマ一秒早かった。」『私だったら!』「俺だ!」と言い争い。じゃんけんで勝敗を決めていた。
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