white X'mas【後編】
25日の朝。いつもの時間に目覚ましが鳴り、目を覚ました美麗は枕元にプレゼントが置いてあるのに気付き、唖然とした。別に頼んだわけでもないのに置いてあるプレゼント。サンタはいるんだって思わせたいのか…両親の策略に呆れ果てるが貰えるのは正直嬉しい。丁寧に包みを開けると、中からは最近流行りのあのナメコのぬいぐるみ。秘かに可愛いな、欲しいなと思っていた美麗にとって嬉しすぎるプレゼントに、一人喜びを噛み締める。本当は飛びはねたいところだが両親に知られるのがちょっと恥ずかしいため自重する。

ぬいぐるみを抱えたまま、リビングへ降りると両親が満面の笑みで「おはよう」と迎えてくれた。美麗の腕の中にあるぬいぐるみを見るなり、ニマニマと意味深な笑みでどうしたのそれ。と問いかけてくる。白々しい言い方に眉をひそめるが、なんだか必死な両親が面白くて、仕方ないなという風に笑顔を見せる。


『サンタさんが来てくれたみたい。』
「そう!よかったわねー。」
「やっぱりサンタさんはいるんだよ!これでわかっただろ?美麗。」
『ふふっ…ありがとう、お父さん、お母さん。』
「「……」」


席に着き、朝食を食べ始める美麗を見つめ両親は内心を悟らせないように綺麗な笑顔を浮かべる。


「美麗、お礼ならサンタさんに言わなきゃ。」
「そうそう。俺達は何もしてな『さすがに無理だから。』……えー…」
『騙されるわけないでしょ。』
「つまんなーい。」


両親は不貞腐れるように唇を尖らせ、昔の美麗はサンタさんサンタさんっていつもはしゃいでたのに。と昔を懐かしむ。
さすがにもう信じるような歳ではないし、何よりサンタはいないと、あの時気づいてしまったから。誰がなんと言おうと信じることはない。もしあの時、あんな会話を聞かなければ、あんな光景を見なければ。もしかしたら今でも信じていたかもしれない、と思いながら、ホットミルクを口に含んだ。

仕度を終え、学校に行こうと玄関に向かう途中、二階からバタバタと足音がしたかと思うと、一気に階段をかけおり「おかーさーん!サンタさん来た!サンタさんが来てくれたよー!」と叫びながら翔がゲーム機片手にやってくる。嬉しそうに飛びはねる弟と、微笑ましそうに見つめる父、弟の頭を撫でる母を見つめ、美麗は昔の自分を見ているようでそれがなんだかおかしくて、ふ、と小さく笑う。

家を出ると、辺りは一面真っ白だった。雪は昨日一晩中降り続いたらしく、積雪は5センチだとテレビで言っていたのを思い出した美麗。真っ白な雪にはなんにも跡がついていなくて、自分が最初かと思うと妙にテンションが上がる。ウキウキしながら新雪に足跡をつけ、学校へと向かった。
テニスコートは案の定真っ白で、とてもテニスが出来る状態ではなかった。跡部が部員を室内に集め、今日の予定を告げようとした時。美麗がちょっと待った。と声を上げた。


「なんだ美麗。」
『今日は筋トレなのよね?』
「あぁ。」
『私ね、昨日練習メニュー考えたの。』
「練習メニュー?」


いったいなんなんだ?と首を傾げる部員達に、ニッコリ笑顔を向ける美麗。途端に嫌な予感が、跡部、宍戸、日吉、他部員達の間を駆け巡った。こんな楽しそうな笑顔を浮かべる時は彼らにとっては嫌なことを考えている証拠。ひきつった顔のまま、跡部が恐る恐る先を促すと美麗は『今日は外で雪合戦!』と高らかに告げた。


「「(やっぱりか!)」」


なんとなく、予想していた跡部と日吉は深いため息をつく。


『皆で雪合戦しよう!』
「「「賛成ー!」」」
「…雪合戦のどこがトレーニングなんだよ。ただの遊びだろ。」


宍戸の呆れたような声に反応したのは鳳。


「何言ってるんですか宍戸さん!雪合戦というのは丸く握り固めた雪をぶつけ合う立派な競技ですよ!これはいいトレーニングになるんです!雪合戦のルールは知ってますよね?」
「…おぅ。」
「雪玉に当たらないようにするにはどうするか!答えは避ける!避けるためには何が必要ですか!?答えは反射神経!そうですこれは反射神経を鍛えるのに最適な遊びなんですよ!」
「……」
「それだけじゃありません!雪合戦はチームワークも大切です!なぜだかわかりますか?」
「……助け合うため?」
「惜しい!宍戸さんと俺の仲をより親密にするためです!」
「……今なんつった?」
「俺と宍戸さんの仲をより親密にするためです!」
「……俺らそんなに親密か…?」
「雪玉が当たりそうになった宍戸さんを助ける俺。はたまたその逆もあり。なんて素晴らしいんでしょう雪合戦!今すぐやりましょう!バリバリやりましょう!」
「おーい、誰か長太郎止めてくれ。頭やられてるわ。」
『……亮、アンタ達そーいう関係だったのね。』
「いや違うから!」
『ごめんなさい気づかなくて。』
「勘違いするなぁああ!!」



もちろん冗談なのだが、慌てふためく宍戸が面白いから、美麗と鳳は目配せをしニ、と笑い合った。


場所は代わりテニスコート。
さすがにこの人数ではやりづらいので、トーナメント表を作り試合形式にすることに。まずは200人余りいる平部員を平A、平Bと二チームにわける。制限時間は20分。時間までに生き残っている人が多いチームが勝ち。
雪玉が一つでも当たった人はアウトでコートから除外される。
ルールは特になし。勝つためなら何をしてもいいと美麗直々に言われ、さらには遊びとはいえ手を抜くな全力でやれ、と跡部から言われ平部員達はよっしゃ!と闘志を燃やす。
忍足の始めの合図で、一斉に雪玉が飛び交う。楽しそうな笑い声も混じり、20分なんてあっという間だった。

勝ち残ったのは平A。
次は平Aをさらに半分にわけ、あらかじめ二チームにわけておいたレギュラーチームへ投入する。


『負けないわよ。』
「フン…勝つのは俺だ!」


コートの中央で睨み合う跡部と美麗。
Cチームには跡部、忍足、鳳、ジロー、平部員20名。
Dチームには美麗、宍戸、向日、日吉、平部員20名。
樺地と滝が審判を努める。


「それじゃあ、始め!」


滝の合図と同時に激しく飛び交う雪玉。かなりの高速で飛ぶ雪玉を投げているのはやはり跡部と美麗。あまりの気迫に、周りは呆然とするばかり。しかしチームリーダーである二人にボケっとしてんじゃねェと怒鳴られ、慌てて雪玉を投げる。


『おらぁああ!!』
「ハッ!そんなへなちょこ、怖くもなんともねェよ!くらえ!」

『あーら、アンタの力ってそんなもん?対したことないわね。』
「なんだと!?」
『!隙あり!』
「っぶねェ!」
『チッ…外したか。』

「どらあああ!くらえ長太郎!」
「宍戸さん酷い!俺に刃を向けるなんて!」
「敵に情けは無用だぜ!」


「死ね侑士!」
「お、っと。あぶな。岳人無駄に跳ねるから狙い定まらんわ…手強いなぁ。」
「へへーん!美麗直伝の技なんだぜこれ!」
「なんやて!?」
「いいだろー!」
「ちょ、美麗ちゃん俺にも何か教えてや!岳人ばっかりズルい!」
『死ね忍足ィィィィ!!』
「へぶっ!」



「……皆楽しそうだね。」
「ウス。」


思いの他楽しくて、いつしか全員参加の雪合戦となっていた。
皆の笑顔を滝と樺地が少し離れた場所で見つめていた。
もうとっくに20分は過ぎていたが、時間など誰も気にすることなくただただ遊びに夢中になった。


『「あー楽しかったー!」』
「もっとやりたかったC〜!」


時間が経つのは早いもので、もう夕方だ。たくさん遊んで、満足気に笑う美麗とジロー、向日の後ろで、跡部達は少し疲れた表情をしていた。
まだ雪が積もっている中、跡部邸へと向かう途中である。今日は部活終了後に皆でクリスマスパーティーをやる予定だったのだ。跡部邸に着くと、跡部の付き人であるミカエルが出迎えてくれた。


「皆様ようこそおいで下さいました。さぁ、どうぞお上がり下さい。」
「お、お邪魔します。」
「ミカエル、準備は出来てるか。」
「はい、完璧にございます。」
「ご苦労。行くぞお前ら。」
『ねぇミカエル。マルガレーテは?』
「景吾ぼっちゃまのお部屋にいらっしゃいますよ。」
『つれてきて。会いたい。』
「かしこまりました。」


恭しく頭を下げ、ミカエルは踵を返した。何度も跡部家に出入りしているし、昔から顔馴染みなため家の者とはそれなりに仲がよく、美麗は慣れた様子で廊下を歩き、途中ですれ違うメイドや執事全員が頭を下げていく。まるで跡部家の一員であるかのような恭しい態度に宍戸達はもう慣れてしまっているため驚きはしない。

案内された広間に足を踏み入れると豪華なクリスマスツリーがまず目に入り、その美しさに言葉を失う。すごいな、と感嘆する中、ふと鼻を掠めた美味しそうな匂いに気付いたジローはクリスマスツリーの近くに置かれた沢山の料理に目を輝かせた。七面鳥にケーキ、ポテトといったクリスマスらしい料理の数々。さらに料理一つひとつが綺麗に飾られ、緑と赤のコントラストがクリスマスらしさを醸し出している。
早く食べようぜ!と、待ちきれない様子の向日とジローに苦笑しながら忍足が宥めている間に、ノンアルコールのシャンパンがグラスに注がれ準備は整った。


「お前らグラスは持ったか?」
「持ったぜ!」
「よし、じゃあ…メ『メリークリスマスー!』テメ、それは俺様が言うつも「「「メリークリスマース!」」」……」


跡部の台詞を遮り、ワイワイと一気に盛り上がる。ガーンと落ち込む跡部だったがすぐに持ち直し、平然と輪に加わる。賑やかな広間ではテンションは最高潮に達した模様で、美麗が忍足にノンアルコールのシャンパン一気飲みを促したり全員で誰が一番早くシャンパンを飲み干すか競争したりケーキの取り合いがあったりと、ちょっとした乱闘騒ぎがあったものの、笑い声は絶えなかった。
料理を満足行くまで堪能したあとはゲームをして気がすむまで遊び、それから一段落ついてからお待ちかねのプレゼント交換タイム。今日の第二のメインである。跡部邸に来てすぐに使用人に預けたプレゼントはどういうわけか見当たらず、代わりに紐が繋がっているだけで登場。


「この紐の先に、皆様の用意したプレゼントがございます。」
『くじ引きみたいな感じね。』
「なるほど。」
「俺真ん中!」
「じゃあ俺一番左!」


全員が場所を決めたところで、せーのという掛け声と共に紐を引く。

跡部のプレゼントは日吉に。
日吉のプレゼントはジローに。
ジローのプレゼントは宍戸に。
宍戸のプレゼントは鳳に。
鳳のプレゼントは忍足に。
忍足のプレゼントは美麗に。
美麗のプレゼントは向日に。
向日のプレゼントは跡部に。

それぞれ行き渡ったプレゼントを確認した反応は様々だった。

「…跡部さん、なんですかコレ。」
「あーん?見てわかるだろうが。バラ入りの入浴剤だ。ありがたく使えよ。」
「バラさえなければ嬉しかったんですけどね。」
「…日吉ぃ、俺こんな本読みたくないC。」
「俺のイチオシです、それ。」

「宍戸さん!俺嬉しいです!まさか宍戸さんからのプレゼントが当たるなんて…!神様にお願いした甲斐ありました!」
「……なぁ。お前最近俺に対してだけやけにテンション高くねーか。」
「あははやだなぁ宍戸さん、自意識過剰ですよ。俺男に興味ないんで、すみませんけど宍戸さんの気持ちには答えられないです。」
「なんで勘違いされた上フラれなきゃならねーんだよ!違うからな!」


「岳人ええなぁ…美麗ちゃんからのプレゼント。羨ましいわ。中身なんなん?」
「………侑士、あげるわ。」
「………いや、いらん。」
「あげるって。」
「いらんって。」
「お前美麗大好きだろ?美麗のプレゼント欲しいって言ってたじゃん!」
「好きやけどこれはいらん。」
『ちょっと!人がせっかく選んだプレゼントをいらないだなんてサイテーよ!』
「こんなん貰って喜ぶ奴いると思ってんのか!」
『思ってるわ!』
「こんな…っこんなキノコばっかりいらねーし!」
『なんでよ!私は嬉しい!それにね、そのキノコ滅多に取れない幻のキノコなのよ!?貴重なの!一個で5万はするわよ!』
「ありがとうございますキノコ万歳ー!」
「…あかん、完全に金につられとる。」



楽しい時間はあっという間に過ぎ、そろそろお開きの時間となった。夜も遅いため、車で送ってくれるらしく、運転手が待つリムジンへと向かう。その途中、跡部が美麗の腕を掴んだ。


『なに?』
「ん。」
『は?』
「ん!」
『え、いやちょ、なにこれ。』
「いいから受けとれ!」

『だからなんなのこれ。』
「クリスマスプレゼントだ。」
『……』
「じゃあな。気を付けて帰れよ。」


いつかに買った、美麗へのプレゼントを渡す跡部は少々照れくさいのか、ほんのり赤く染まった頬を隠そうとそっぽを向いたまま早口になる。昔から、跡部が照れる時の仕草は変わらない。クスリと小さく笑った美麗がありがとう。とお礼を言うのを聞いて、ようやく目が合う。
ふ、と優しく微笑む跡部に同じように笑い返し、リムジンへと乗り込んだ。


こうして、クリスマスの夜は更けていった。


to be continued...


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