whiteX'mas【前編】
12月23日の夜。弟である翔のテンションは異様に高くなった。ニコニコ笑顔は絶えず、飼い猫のハルを抱きしめ、逃げられ引っ掻かれても笑っていた。何がそんなに嬉しいのか。疑問に思った美麗だがすぐに合点がいった。明日はクリスマスイブだ。まだ小学生である翔はサンタは本当にいると心の底から信じているらしく、クリスマスプレゼントが待ち遠しいのだろう。だが美麗はもうサンタを信じるような歳ではないし、サンタなんていないことも知っているため、冷めた目で弟を見やった。


『そんなにはしゃいで…サンタさんに何お願いしたの?』
「あのね、本当は妹か弟が欲しかったんだけど、それはサンタさんに頼むものじゃないってお母さんに言われて。」
『そりゃそうだ。』
「うん。だから、3DSにしたんだ!」
『…結局ゲームか。』
「しかも飛び出せどう◯つの森ダウンロード版だよ!」
『ふーん。』


綺麗に飾られたクリスマスツリーに、まるで短冊のように吊り下げられた紙を見てみれば確かにそこには3DSが欲しいと書いてあった。


「姉ちゃんは?」
『…は?』
「姉ちゃんはサンタさんに何お願いしたの?やっぱりキノコ?」
『……あのね、翔。』
「?」
『サンタなんていな「翔。早く寝なさい。」……サンタなんてい「いい子にしてないとサンタさん来てくれないぞー。」…だからサンタなんかいね「翔、早く寝なさい。」「はいぃ!」……(そんなに知られたくないか!)


真実を伝えようとした美麗の言葉を必死で遮る両親に、美麗は苛立たしげに眉をしかめた。翔が自分の部屋に入ったのを確認すると、母は美麗に夢を壊すようなことは言わないの、と、たしなめられてしまう。


『フン。私がサンタなんかいないって知った時と同じ悲しみをさっさと味わえばよかったのに。』
「やーねこの子ったら。」
「美麗はいつ気づいたんだ?」
『ちょうど翔と同じ歳の時。あーあ、まさかサンタがお母さん達だったなんてね…私の夢は一瞬にして崩れ去ったわ。』
「はいはい。ほら美麗も早く寝たら?明日も部活でしょう?」
『はーい。おやすみ。』
「おやすみ。」


両親に挨拶をし、美麗も自室へ戻る。布団にくるまりながら、そういえばサンタが来るのは今日の夜だっけ、明日の夜だっけ?とどうでもいい疑問を抱いたがすぐに考えることを放棄し、眠りについた。

翌日。クリスマスイブの今日は、朝から曇り空が一面に広がりなんとも寒い出だし。今日も部活があるため、震えながら起床した美麗は身支度を整えるとリビングへと降りた。朝食を食べながらテレビをぼんやり眺めていると、天気予報が本日は午後から全国的に雪が降るでしょう。と告げていた。クリスマス寒波というものが日本列島に居座っているらしい。本当に雪?と疑わしい眼差しで天気予報を告げるお姉さんを睨む美麗。最近の予報は外れてばかりだから、些か信用できない。どうせ降らないでしょ、と。興味をなくした美麗は席を立ち洗面所へ向かう。歯を磨いたあと、寒さ対策を万全にしたところで、ようやく家を出た。玄関を開けた瞬間、凍てつくような冷たい空気が顔に突き刺さり眉をしかめる。寒い寒いと呟きながら、学校への道を行く。途中で跡部が乗るリムジンに出くわしたため、車へ乗り込みそのまま学校へと向かった。

寒い中、太陽の光すらない中半袖で走り回るレギュラーや平部員達を遠巻きに見つめ、美麗は頭狂ってんじゃないの。と本気で思った。昼前になると曇天の空から白い粒がいくつも舞い降りてきて、それが雪だと気付くのにそんなに時間はかからなかった。昼食休憩に入った頃には雪は本格的に降り出し、けっこうな量。テニスコートがうっすらと白くなりだしているし、何より雪の量が多くて前が見えない。さすがにこんな中でテニスは出来ないので、急遽午後の部活は中止。酷くならないうちに帰宅をすることに。
部室で制服に着替えている間にも、雪は降り続け。学校を出る頃になると辺りは一面薄くだが雪が積もっていた。


「雪すげーな!」
「もっと積もってほしーC!」
「俺雪だるま作りたいです!ねぇ宍戸さん!」
「いや俺は作りたくない。」
「日吉は作りたいよね!?」
「誰が作るか。」
「跡部さんは!」
「ガキじゃねェんだ。作るわけねーだろ。」

「忍足先輩は…」
「そうやなぁ…やっぱりつ「答えなくていいです!」なんでー!?ちょ、最近鳳も酷い!皆してなんなんや!
「美麗先輩は?」
『作りたいに決まってるじゃない!あと雪合戦もしたいわね。』
「わ、いいですねそれ!」
「「俺もやりたい!」」


滅多に降らない都心での雪に、美麗、鳳、向日、ジローは嬉しいのかテンションが高く雪だるまを作りたい雪合戦がしたいかまくらを作りたい、と盛り上がる。その後ろで、日吉と宍戸が呆れたようにため息をつき、忍足は跡部に泣き言を言うが一蹴されさらにヘコむ姿が見られた。


「なぁなぁ跡部!」
「なんだ。」
「これからさ、プチクリスマスパーティーしようぜ!」
「…クリスマスパーティー?」
「おう!」
「パーティーなら明日する予定だろ。」
「そうだけどさ、今日は今日でやりたいじゃん?せっかくのイブなんだし!なぁジロー?」
「うんうん!」
「…プチクリスマスパーティーねェ。どこでやるんだよ。」
『駅前のファミレスならちょっとくらい騒いでも平気なんじゃない?学生の溜まり場だし。』
「…まぁ、たまにはいいか。」
「すみません俺はパ『パス却下!』は!?」
『よし行くぞー!』
「ちょ、ちょっと!」
「…諦めろ若。」


強引に腕を引かれ、日吉は強制的に参加させられた。最初からこうなることを予想していた宍戸はやっぱりな、と。肩を落としルンルンとはしゃぐ向日らの後に続いた。駅前のファミレスはいつもより人が多かったが、なんとか奥の席をゲットした跡部達。ドリンクバーとケーキを頼んでからわずか数分で届き、それぞれドリンクを取りにいく。準備が整うとグラスを持ち、小さく乾杯。ワイワイと騒ぎ、店を出る頃には外は薄暗く、雪はけっこう積もっていた。


「まだ降ってんのか…これ、明日の部活無理じゃねぇか?」


宍戸の呟きに、跡部がチッと舌打ちをする。


「ああ……仕方ねェ。筋トレに変更だ。樺地、平にもそう伝えろ。」
「ウス。」
「なぁなぁ!今日の夜サンタ来るじゃん。何お願いした?」
『「「「「……」」」」』
「俺はねー、肉!羊の肉頼んだよー!」
「ショボいなお前。」
「Aー…じゃあ岳人は何お願いしたの?」
「俺はからあげ!と納豆!」
「お前も十分ショボいって。」
「バカにすんな!あとラジコンも頼んだんだからな!ジローとは違うんだよ!」
『違わねーよ。』
「ていうか頼み過ぎやろ。」
「そもそもサンタに頼む必要あるか?からあげとか納豆ならスーパーで買えるじゃねーか。ラム肉も。」
「「いいの!」」



向日とジローがサンタの話で盛り上がる中、美麗達は真実を言おうか言わないかでしばらく悩む。が、あまりにも楽しそうにしているから、そっとしといてやろうと意見が一致。


『中3にもなってサンタ信じてるなんてね…うちの弟と同レベルか。』
「俺は美麗先輩も信じてると思ってました。」
「あ、俺もです!」
『!?』
「あー、俺も思ってた。てか美麗が一番信じてそうだよな。」
『失礼ね!私はそんなに幼稚じゃありません!』
「確かサンタがいないって知った時は大泣きだったな。」
「それホンマ?」
「あぁ。家にその時のDVDがあるが、明日観るか?」
「観たい!小さい頃の美麗ちゃんとかめっちゃ貴重やん!絶対観たい!」
「俺も気になる。」
『観せなくていいから!』


雪が降り続く中、賑やかな声が夜空に響いた。


to be continued...


後編へ続く
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