聖夜のイベント【3】
《エントリーナンバー1、花岡&山下ペア!》


放送委員が順に参加者を紹介していく。次々にカップルが舞台に姿を見せ、観客は盛り上がる。


《エントリーナンバー20!これは大物!なんとあのテニス部元部長!神の子と呼ばれ、我が立海が誇るイケメンとこれまたとんでもなく美人な彼女!》
「…放送委員っていうのはどこの学校もあんなテンション高いんですか。」
「…さぁ。」


まるで氷帝の放送委員である二年の美麗大好き少女を見ているようで、日吉は眉をしかめ、宍戸は苦笑いをこぼす。


《幸村&雪比奈ペア!》


ステージに、美麗と幸村が姿を現した途端黄色い悲鳴が体育館全体に響く。その黄色い悲鳴に一部から悲痛な叫び、苛立ちを含んだ声が混ざる。しかし美麗は堂々とした立ち姿でステージを見下ろし、余裕そうな表情。
ほとんどが美麗の圧倒的な美しさに見とれる中、やはり彼女を快く思わない者もいるわけで。当然真田や跡部の耳にも、その声は聞こえてくる。


「幸村くんに彼女いるとか聞いてないんだけど!」
「いやー!」
「何あの子!!」
「どうせ媚売ったんでしょ。サイテー。」
「ムカつく。」


彼女らの妬む声に、やはり苛立ちは感じる。大好きな人を貶されるのは不快である。それは丸井達も同じなようで、苛立たしげに眉を吊り上げた。


「アイツら…!」
「放っておけ、赤也。」
「副部長!でも…!」
「切原、気にするな。言わせておけばいい。」
「……」


悔しげに俯く赤也の頭を丸井が撫でたと同時に、すべての参加者の紹介が終わった。


《それではさっそく競技に移りたいと思います!第1回戦はこちら!》


スクリーンが降り、そこに映し出された競技内容を放送委員が読み上げる。


《恋の障害物競走です!》


ルールは至ってシンプル。
スタート地点、ゴール地点共にここ、体育館。体育館からスタートししばらく走るとあちこちに用意された障害物や刺客達が現れる。それをいち早く回避、または撃退し体育館に戻る。まずは彼氏から始まり、彼氏が戻ると次は彼女。上位50位に入った者だけが、次へ進める。
恋に障害はつきものですからね!頑張って乗り越えてくださーい。という放送委員の声に、参加者は気合い十分。


「障害物競走か…」
『楽勝でしょ、アンタなら。』
「ふふっ…まぁ、頑張るよ。」
《それでは、スタートです!》


スタートの合図と共に走り出した男達が体育館から消えると、先程競技内容を映し出していたスクリーンからは競技中の男子達の姿が映し出された。どうやら監視カメラなるものがついているらしい。


《現在トップを走るのは幸村さん!さすがです!おっとついに障害物に出くわしました!》


放送委員が言うように、トップを走る幸村は障害物に差し掛かっていた。しかし幸村は障害物を難なくクリア。次に現れた刺客は覆面を被った男達。強盗という設定なのか、覆面男達は幸村に手を上げろ!と偽物の拳銃を突きつける。あまりにもリアルな拳銃にスクリーンを見ていた観客達は息をのむ。が、幸村は綺麗な笑みを浮かべ、「すみませんどいてもらっていいですか。」とやんわり告げる。覆面男達は幸村の笑顔に「あ、すんません。」とついつい道を譲ってしまい、あっけなく刺客をクリア。その後も障害物、刺客をクリアし、ぶっちぎりトップで体育館に戻ってきた。


「はい、いってらっしゃい。」
『任せなさい。』
《さぁ今雪比奈さんにタスキが渡りました!女子の部スタートです!》


幸村から渡ったタスキを肩にかけ、走り出す美麗の姿もしっかりスクリーンに映る。
すんなり障害物をクリアしていく中、ついに刺客が現れた。てっきり幸村と同じ強盗設定の男だとばかり思っていた美麗は、現れた男達に眉をしかめた。


《ちなみに女子の部の刺客は強盗ではなくちょっと柄の悪い…いやちょっとどころではなくかなり柄が悪いですが不良です!不良に絡まれるという設定です。さぁ雪比奈さんはどう回避するのか!》


皆が固唾をのんで見守る中、美麗は目の前に立ちはだかる男達を冷ややかに見つめた。普段街でナンパしてくる男と変わらない典型的なパターンで絡んでくる不良はハッキリ言ってちっとも怖くない。まだ男子の部の刺客の方が怖いだろう。赤い瞳を細め、一歩踏み出す。


「おいおいどこいくんだ?」
「つれないねぇ。」
『どけ。』
「「はいすみません!」」

《ええー!?アッサリ!雪比奈さんのたった一言で不良たちはアッサリ身を引きました!びっくりです信じられません!仮にも不良のくせして何女の子にビビってんだ!》



睨んだだけで、不良は真っ青になり縮こまる。その脇を颯爽と走り抜ける美麗に、あちこちからすげー!かっこいい!素敵ー!という歓声が上がり早くも立海生を虜にしていた。


《なんてたくましい方なんでしょうか!私もあんな風になりたい!素敵です!これからは敬意を持って美麗様と呼ばせていただきますね!ついでにファンクラブにも入ります!


立海放送委員長の少女はすっかり美麗の虜になり、テンション高くそう叫ぶ。そうこうしているうちに、体育館へと戻ってきた美麗は余裕でゴール。一位通過である。その後も続々と女子が戻ってきて、上位50名が次の戦いへとこまを進めた。
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