聖夜のイベント【1】
ようやく学校は冬休みに突入したが、テニス部は冬休みも活動。美麗達三年生は引退しているのだから、参加するもしないも自由なはずなのになぜか跡部から強制的に来いと言われているため、嫌々ながら冬休み初日にも関わらず制服に着替え準備をしていた。あと三日でクリスマスだというのに、氷帝テニス部はクリスマスもガッツリ練習だと言う。冗談じゃないわ、と美麗が不満を口にしながら朝食を食べていた時。

携帯が着信を知らせる音を奏でた。ホットミルクを飲み干したところでようやく携帯を手に取ると、着信相手は立海の幸村からだった。なんだか嫌な予感を抱きつつも、とりあえず電話に出る。


『…はい。』
《おはよう美麗ちゃん。》
『…おはよう……なにか用事があるんでしょ?ただ朝の挨拶するためだけに電話するなんてことはありえないものね。』


電話をしながら、素早く仕度を済ませると鞄を手に持ち玄関へ向かう。


《さすが美麗ちゃん。あのね、ちょっと今すぐ立海に来てくれないかな。》
『やだ。』
《返事はイエスorはいだよ。それ以外は認めません。》
『横暴よ!
ていうかこのやりとり前もした気がする!』


とにかく!絶対行かないから!
そう怒鳴り、やや乱暴に玄関の扉を開けた。


「おはよう。」
『ぎゃあああ!』



扉を開けたすぐそこには、携帯を耳に当てたまま、ふふ、と爽やかに笑う制服姿の幸村がいて。いったいいつからいたのか、まさか家の前にいるなど予想もしていなかった美麗は悲鳴を上げる。


『え、な、なん、なんでいるの!?』
「ふふっ…じゃあ行こうか。」
『いやいやいや行かないって!なんでアンタはそんな強引なの…!私そんな子に育てた覚えないわよ!』
「育てられた覚えもないからね。」

『私これから部活だから!超忙しいのだから「跡部には後で事情話すから大丈夫だよ。さぁ行こう。」ちょっとー!!』


抵抗虚しく、幸村に連れられ神奈川へ。デジャヴだわ。と電車に揺られながら思っていたらあっという間に神奈川に到着。
立海までの道のり、幸村は今回連れてきた理由を語ってくれた。


「実はね、立海では毎年クリスマスイベントをやってるんだ。知ってる?」
『知るわけねーだろ。』
「当然だよね。知ってたらびっくりだよ。」
『じゃあ聞くな!』

「でね、そのイベントっていうのがちょっと厄介なんだ。」
『?…なんで?』


首を傾げる美麗に、幸村はイベント内容を口にする。
立海で行われるクリスマス名物イベントはカップル限定のイベント。男女ペアで数々のお題を共同作業でクリアし、他カップルと対決。見事優勝したカップルにはクリスマスプレゼントが貰えるのだ。そこまでは普通のイベント。どこにも厄介な要素はない。しかし、次の言葉に美麗の表情は固まる。


「カップル限定なんだから、恋人がいない人は当然出られない。でもね、立海の女子はどうしてもイベントに参加したいらしくて、俺達テニス部にペアを組んでくれってせがんでくるんだよ。断っても断ってもせがんでくるから、いい加減ウザくなって…」
『……』
「で、俺つい言っちゃったんだよね。彼女いるから、って。」
『さようなら!』


踵を返し、帰ろうとする美麗のマフラーをひっつかみ阻止する幸村は笑顔を浮かべたまま、続ける。


「言ったあとにすごく後悔したよ。当然俺に彼女なんかいないし、でも言ったからにはやるしかないし。どうしようかなって悩んでいた時に、仁王から聞いたんだ、あの話。」


あの話、とは恐らく、仁王の彼女役をやってあげたという話だろう。幸村のその言葉ですぐに悟った美麗はジロリと幸村を見上げた。


『……それ聞いてアンタも私に頼みたいと。そういうことね?』
「そう。すごい演技力だったって言ってたから、これはいいんじゃないかって思って。」
『自業自得じゃないの!なんで私が巻き込まれなきゃなんないの!?冗談じゃないわ!やらない!絶対やらない!』
「え、やってくれるの?ありがとう。」
『一言も言ってないんですけど!!』



都合のいい耳だな、と悪態つく美麗は、もう立海の敷地内に入ってしまっている。今さら帰ることは出来ず、深いため息をつく。


『…仕方ない…今回だけよ。』
「うん、助かるよ。」


本当に安堵したような笑顔に、先程まで感じていた怒りも少しおさまる。しかし、それはほんの一瞬だった。


「まぁ嫌だって言っても美麗ちゃんはどのみち出るしかないからね。」
『…どういう意味?』
「イベント参加のエントリー用紙、締切は三日前だったんだ。」
『……は、え、じゃあ…』
「うん、随分前から俺と美麗ちゃんの名前書いて提出してたよ。」
『はあああ!?何してくれてんのよアンタは!最悪!サイテー!』
「あは。」
『〜〜っムカつくぅぅ!!』


仁王の話を聞く前から、幸村は美麗と出るつもりだったのだ。悩んでいたなんて嘘。最初から、美麗を呼ぼうという企みにまんまと引っ掛かってしまった。
額に青筋を浮かべ奥歯を噛み締める美麗を見下ろし、幸村は綺麗な笑みを浮かべたのだった。


こうして美麗は、立海のクリスマスイベントに半ば無理矢理参加するハメになった。


to be continued...


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