キノコの街
『キノコ狩りじゃぁぁ!!』
「「「……は?」」」


学園祭が終わって1週間が経った、土曜日のこと。
部活が終わり、各々部室でまったりしていた時に突然美麗が入ってきて、開口一番にそう叫んだ。わけがわからず、揃って間の抜けた声を出し、目を瞬く跡部達。


「キノコ狩り?美麗の趣味だろ、それ。」
「行けばいいじゃないですか。そんなわざわざ宣言しなくても…」
『アンタ達も行くのよ!』


宍戸と日吉の言葉に、美麗は部室にいるメンバー全員を指差した。


「なんで俺達まで行かなきゃいけねーんだ、アーン?」
『今の季節は何でしょうか!』
「はーい!」
『はいジロー。』
「昼寝の秋!」
『昼寝いらないけどまぁ正解!そう、今は秋!秋といったら?』
「はい!」
『はい長太郎!』
「秋といったらさんまです!」
『さんまね、確かにさんまは秋だけど。残念。』
「…ていうかなんでクイズ形式?」



忍足が小さな疑問を投げ掛けるが、それに答える者はおらず、クイズは続く。


「はいはい!」
『はい岳人!』
「秋といったら食欲の秋!からあげからあげ!」
『からあげは年中食べられるでしょうが。秋関係ない。』
「あ、わかった!」
『え、亮わかった!?はい答えは!』
「スポーツの秋だな!」
『一生テニスやってろバーカ!』
「…あ、俺わかったかも。」
『はい残念!』
「えぇぇ!?まだ何も言うてへんやん!!」

『もういいわ。答えはね、松茸よ!』
「あぁー、松茸。」
『秋といったら松茸でしょ?秋=松茸よ!そんなんもわからないの!?このバカ共が!』


我慢出来ず、正解を自ら言ってしまった美麗はバーカ!と跡部達を侮辱した。


「そこまで言わなくても…」
「つーか松茸採りたいなら一人で行けるだろ?なんで俺達が行かなきゃならねーんだ?」
『いつもの山じゃダメなの!先こされてもうなかったんだもん、でね、調べた結果、とある場所に松茸がまだあるらしいの!私はどうしても松茸を採りたい!だから一緒に探してほしくて。』
「……」


美麗は今まで一度も、自分の手で松茸を採ったことがない。
食べたことは幾度とあるが、それはすべて跡部が取り寄せた高級松茸。自分で採った松茸の味はきっと高級松茸よりおいしく感じるに違いない。


『だからね!松茸採りに行くの!』
「…まぁ、明日休みやしええんちゃう?」
「…仕方ねーな、行ってやるよ。」


目をキラキラに輝かせ、行きたいアピールをする美麗を見ていたら、嫌だとは言えない。というか、断ったら何をするかわからないから怖いというのが本音だ。


「美麗先輩、松茸が採れる山はどこに?」


鳳の問いに、美麗は満面の笑みで答える。


『ギリシャのグレベナよ!』
「「遠い!!」」
「ギリシャ!?」
「松茸採るためだけにギリシャまで行くんかい!」



宍戸、鳳が目が飛び出す勢いで叫び、向日はギリシャという国名に驚く。


「ギリシャのグレベナ……お前わざわざ調べたのか。」


跡部がしまった、という表情で問いかける。


『ええ!もうね、私びっくりしちゃった!だってキノコの街よ?キノコの街!そんな素晴らしい街があるなんて初めて知ったの!これは是非とも行かなきゃ!てなわけで、つれてけよ。
「偉そうだなおい。」
「キノコの街なんてあるんですか?」
『そう!キノコの街!若の仲間がいっぱいいるのよ!』
「俺キノコの仲間じゃないですから。あの、先輩。いい加減止めないと本気で殴りますよ。」


額に小さな青筋を浮かべ、静かに怒る日吉。


キノコの名産地であるギリシャのグレベナは別名キノコの街と言われ、キノコ料理専門のレストランや、もうキノコ料理オンリーの店しかない。とにかくキノコ。キノコ尽くしなのだ。様々な種類のキノコも採れるらしく、さらには スイーツまでがキノコというまさに美麗が好きそうな街。また、高級食材として知られるトリュフもある。


『ねぇ景吾、連れてってギリシャ。』
「……チッ…日帰りだぞ。いいな。」
『やった!』
「…俺らも行くのか?」


宍戸が心底めんどくさそうな顔で呟けば、当然よ。と真顔で頷かれ。
日曜日の朝早くに、跡部の自家用ジェットでギリシャに飛んだ。数時間かけてようやく美麗達はギリシャに到着。現地にいる跡部の知り合いに案内を頼み、グレベナという街へやってきた。


『キノコ尽くしだ…!!』


見渡す限りキノコ。
店の外観も、商品も、キノコで埋め尽くされている街。美麗の目は今までにないくらい輝き、街をキョロキョロ。


「で?松茸採るんだろ。」
『そうそう松茸…!忘れるところだったわ。』


キノコ尽くしの街に興奮していた美麗は危うく本来の目的を忘れるところだった。
ギリシャの山に詳しい人が案内してくれるらしく、竹籠を持ち準備万端な美麗は意気揚々と山へ足を踏み入れた。その後を、同じく竹籠を持ち重い足取りで歩く跡部達。
山に入ってからは、それはそれはすごかった。案内人は必要ないのでは、というくらい、美麗の知識は素晴らしく。次から次へと松茸や他のキノコを採って行く。最初はキノコ狩りを渋っていた日吉、向日、ジロー、宍戸、跡部だったが、次第に面白くなってきて最終的にはキノコを採りまくっておおいにキノコ狩りを楽しんだ。

満足するまでキノコを採った後。跡部財閥の元で経営しているというキノコ専門料理店で遅めの昼食。


「全部キノコじゃん!」
『ここ、キノコ専門料理店だからね。』
「…し、宍戸さん、デザートまでキノコですよ。」
「まじか!」
「…俺、肉が食いたいC〜…」
「もうキノコはええて。」


さんざん山でキノコを見て、さらに料理までもがキノコ。もうキノコは見飽きた。違うものが食べたい。そんな忍足達の思いは無視して、美麗は幸せそうな顔でキノコ料理を平らげて行く。


『やっぱりキノコは最高ね!毎日食べたいくらいだわ。あ、これ美味しい。おかわりー!』
「お前どんだけ食うんだよ。」
「ぶほぁ!!な、なんじゃこりゃ!まっず!普通の水すらないのかここは!」
「…うわ、キノコ風味の飲み物ですよ、これ。」
「日吉ぃ!お前の仲間悪ふざけばっかしてんぞ!ちゃんと叱れよな!役立たずめ!」
「なんで俺が怒られなきゃならないんですか!しかも役立たずって…ふざけんな向日コノヤロー!」
「先輩をつけろー!」



どこを見てもキノコばかり。
ついに頭がおかしくなってしまったのか、日吉と向日は喧嘩を始めてしまった。


「…あかん、ノイローゼになりそう。」
「俺、吐きそうです…」
「……もうダメだぁ…」


忍足、鳳は口元を押さえ、ジローは青い顔で現実から目を反らすために眠りについた。


『皆もう食べないの?バイキングなんだから、あと30分はあるわよ。』
「30分!?」
「……死んでもいいですか。」


まだまだ時間があることに、日吉、宍戸、向日は白目をむき絶望した。
ちなみに跡部は一人、静かに戦線離脱。キノコの食べすぎでダウンしたのだ。(実は一番キノコにハマッていた。)


帰宅後も、しばらく跡部達のキノコノイローゼは続いた。
スーパーでキノコを見るたびに吐き気を催し、テレビで山の特集を見るたびに吐き気を催しチャンネルを変え、キノコの名前を見るだけで青ざめる始末。
しかし皆で採ったキノコはまだ大量にある。


『ねぇ、今日皆でキノコパーティーしない?前に採ったキノコがまだ家に沢山あるの。折角だから皆で食べましょ?』


そう言って、半ば無理矢理連れてこられた美麗の家で始まったキノコパーティー。
出されるものすべてがキノコで、ギリシャにあるキノコの街がフラッシュバック。


「もうキノコは勘弁してくれ……っ!!」


悲痛な悲鳴がこだました。


to be continued...


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