学園祭【6】
結果発表も終わり、学園祭はいよいよクライマックス。
木で囲まれた中で、火が明々と燃え、暗闇を照らしてくれていた。
明るい炎の回りを、沢山の人が取り囲み、それぞれ好きなように踊っていた。辺りに響く陽気な音楽に混ざって、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
恋人同士で踊る者、友人同士で踊る者、数人で輪になって踊る者など、本当に好き勝手に騒いでいた。

しかし騒ぐ人々の中に、美麗の姿はない。
美麗がいない事に気づいた赤也が辺りを見渡せば、好意を寄せる男子達に追われている姿を見つけた。


「あー!美麗先輩が追われてる!」
「何だと!?」


赤也の声にいち早く反応した真田。真田は、鋭く目を光らせ赤也が指さす先を睨んだ。


「俺の美麗を追いかけ回すなど…許せん!ちょっと行ってくる!」
「…ほっといて大丈夫ですよ真田さん。」


憤慨する真田をひき止めたのは、日吉だった。
日吉は美麗を見つめながら、小さくため息をつき見てみればわかると呟く。不満そうにしつつも、まぁ美麗のことだしな。、大人しく様子を見守ることに。ほんの少し離れた場所にいるため、会話はしっかり聞こえている。


「雪比奈さん!相手いないんなら俺とどう!?てか俺と踊ってください!」
「いや俺とお願いします!」
「美麗様萌え〜!」
「お願いしますっ!!」
『しつこいわねもう!ちょっとアンタ達そこに座りな!』
「「「はい!」」」


素早い動きでその場に正座をする男子達。美麗は低くなった彼らを値踏みするような眼差しで見下し、口を開く。


『揃いも揃ってウザったい奴らね。私と踊りたいだぁ?嫌だって言ってるじゃない。だいたいそれが人にもの頼む態度か!どうしても踊って欲しいんなら土下座して地面に這いつくばって“お願いしますどうかこのモテない冴えないダメ男な僕と踊ってください!”くらい言えないの?』
「「お願いしますどうかこのモテない冴えないダメ男な僕と踊ってください!!」」
『やだ。』
「「えええー!!」」

『それ言ったからって踊ってあげるとは一言も言ってないけど。ハッ…勘違いも甚だしいわね。顔洗って出直してきな!


一気に捲し立てると、美麗は髪をなびかせ、大股でその場を去った。
罵倒されまくりな男子達はさそがしダメージを受けているかと思ったが…彼らは揃って美麗の後ろ姿を見つめ、熱に浮かされたように恍惚とした表情で呟いた。


(あぁ、女王様最高…!ドS万歳っ!)

「「「………」」」

「ほらね、大丈夫でしょう。」


初めて見る光景に、開いた口が塞がらない。赤也を始め立海メンバーも四天メンバーも、ドン引きだった。


「うむ、さすが美麗だな!」


ただ一人、真田を除いて。


「…て、天性のドMだなアイツら…マジありえねェ…」
「…どんだけ美麗が好きなんだよ。」


丸井が青ざめながら、ジャッカルが引きつりながら呟いた。
幸村はあまりのキモさに、軽く意識が飛んでいる。


「…キモいっすわ謙也さん。」
「なんで俺やねん!」
「あぁーん!美麗ちゃんのあの悪に染まった顔…!ス・テ・キー!ちょっと興奮するんわかるわぁ!」
「小春ぅー!浮気か!許さんぞ!つーか実はMやったんか小春!そんなところも可愛ええやないか!」
「んもう、ユウくんったら!」



軽蔑の眼差しをなぜか謙也に向ける財前。すかさず謙也がツッコミを入れる後ろで、小春と一氏がまたおかしなコントをやりだした。


「……アイツらはMの集まりなんだよ。なんつったっけ?なんか隊名があったよな…」
「えー………なんだっけ……あぁ!思い出した!“美麗様に罵られ隊!”ですよ宍戸さん!」
「おぉ、それそれ。」
「…え、何もしかしてあの軍団はその隊に入っとるん?」
「あぁ。ちょっとしたファンクラブみたいなもんだな。」
「他にも色んな隊があるんだよね〜。」


ジローの言葉に、白石はどんな隊があんの?と興味本位で聞いたことを後悔した。


“美麗様を愛で隊”
“美麗様に萌え隊”
“雪比奈美麗親衛隊”
“美麗様と跡部様をくっつけ隊”


今のところ、“美麗様に罵られ隊”を合わせて五つの隊が成り立っている。その全ては、元々一つのファンクラブからいくつかに分裂したもの。“雪比奈美麗ファンクラブ”から、さらに色々な分野に別れて絶賛活動中。


「……最後意味不明やわ。なんやねん“美麗様と跡部様をくっつけ隊”って。ハタ迷惑やん。」
「それ女子が勝手に作ったんだよ。跡部と美麗がくっついたらいいのになっつー願望を実現させるために。」
「……やる事がイチイチ無駄やわ。ホンマ無駄!NOエクスタシーや。」
「……美麗先輩ホント人気ですよねぇ…今もホラ、今度は女子に囲まれてるし。」


苦笑いを溢す鳳の視線の先には、男子から解放されたはずの美麗が女子の大群に囲まれている姿だった。


「美麗先輩!私と踊りませんか!」
「是非一緒に踊ってくださぁーい!」
「きゃー!美麗様ぁー!」
「ちょっと、私が先にお願いしてるんだから!」
「何よ、私が先よ!」
『もう勘弁してよー……』


さすがに女子にはキツく当たれない。美麗はもみくちゃにされながら、半泣き状態。

ふと、遠巻きに見ていた忍足と目が合う。美麗は何か思案したようにしばらく沈黙し、やがてモメている女子達に向かって『先約がいるから!ごめんなさい。』早口にそう言い一目散に逃げた。逃げた先には、忍足。


「…え、え?」


美麗は忍足の背中に隠れるように小さくなる。
戸惑う忍足は、恐る恐る後ろを見やる。
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