学園祭【5】
午後になると、来場者数はさらに増えた。よりいっそう賑やかになる学園内。
美麗達テニス部は各々衣装に着替えると、最終確認を終える。後はそれぞれ宛がわれた部屋へ行くだけ。準備は万端だ。


『…めんどくさい。』
「同感です。」


美麗の隣にいた日吉が深く頷いた。執事の服を着た日吉は、心底嫌だという顔をしている。
ノリノリなのは向日に忍足、鳳とジローくらいだ。ちなみに提案した張本人は早くもやる気を失っている。(午前中で気力を使い果たしたらしい)
傍らで跡部のその様子を見た日吉は、額に青筋を浮かべながらポツリと呟く。


「…あの人沈めてきていいですかね。」


偶然隣にいた宍戸は、日吉のその呟きを聞いてしまい「…どこに沈めるんだよ。」問いかける。
誰を、とは聞かない。
宍戸もわかっているから。


「海ですよ。もう二度と這い上がってこれないくらい深い場所に沈めてやりたいんです。」
『沈めるより埋めるってのはどうかしら。』
「どうせなら両方やりませんか。」
『…あ!こんなのどう?まずアイツを深い穴に埋めて、さらにその上から水を溢れるくらい注ぐ。最後に土を被せる。これで埋められるし、水に沈められるわ。』
「……いいですねそれ。」



ニヤリと笑う日吉の顔は、とんでもなく怖かった。目は据わり、凶悪そのもの。そのあまりの怖さに、宍戸は竦み上がる。そして同時に、恐怖を覚えた。あまりにも残酷すぎる発言に、跡部に憐れみの気持ちが浮かぶ。


「お、おおおお落ち着け若!!」
『…ちょっと、止めないでよ亮。今いい感じに洗脳できてるんだから。』
「お前はまた余計な事を…!可愛い後輩を悪に洗脳させるなよな!激ダサだぜ!超激ダサ!」
『…赤に染めてやろうか。』
「激ダサとか言ってすいませんでした。」

「おーいお二人さん、はよ行くでー。」


忍足のおかげで、なんとか赤色に染まらずに済んだ宍戸は深い深い息をついた。
それぞれが部屋に入ったのを確認してから、ようやく開店。
開店前から列を作っていたテニス部部室付近はたくさんの生徒でごった返していた。
この日のためだけに改築した部室の中は、手の込んだ仕組みになっている。迷路のようにいりくんだ道のその先にあるのは八個の扉。
どこにたどり着くのかも、現れた扉の先には誰がいるのかも。何もかもがわからない今までとは変わった執事喫茶。

テニス部目当てでやってくる人は皆、ドキドキワクワクしながら迷路を進む。女子だらけかと思っていたが、実際はそうでもなかった。男子も半分以上いる。彼らは皆、美麗目当てなのだが美麗がいる部屋に辿り着ける確率は7分の1。もしも美麗に会えたら、それは奇跡だ。


「うーわー…すごい人だかり。」


立海メンバー、四天メンバーは当然のように参加。長い長い列に並んでいる。


「男子と女子が半々…男子は美麗目当てか。」
「そりゃそうだろぃ。美麗目当てじゃなかったら誰目当てなんだよ。キモいっつーの。」
「うん、それは引くね。」
「絶対美麗先輩に会いたいっス…!」


ワイワイと話しているうちに、ついに真田達の番がやってきた。平部員の「いってらっしゃい」という声を背中で受けながら、迷路に足を踏み入れた。
目指すは美麗。


ちょうど真田達が迷路で迷っている時、美麗達はそれぞれの部屋でグッタリしていた。
休む暇なく連続で入ってくる人のせいで疲労困憊。
美麗の部屋にたどり着いた女子は皆、嬉しそうに悲鳴をあげた。女子の中には美麗が目当てだった者もいて、願い通り会えたことで嬉しさとその美しさを間近で見れた喜びから鼻血を出す者までいたそうだ。また、男子も然り。
男子の場合は、美麗しか目的ではないため巡り合えなかった者は必然的に跡部や忍足といった男と二人きりになるハメに。その時の虚しさは半端ない。

やるんじゃなかったな、と後悔しつつも、豪華賞品のためだ。我慢する。
願わくは早く学園祭が終わりますように。



一方、真田達はいりくんだ迷路を迷いながらも、なんとか目的の部屋へと辿り着くことができた。八個ある扉の前に、それぞれ何人かが集まる。

この先は、ハズレか。アタリか。
ドキドキしながら、扉を開けた。


跡部の部屋に辿り着いたのは真田、白石。
忍足の部屋に辿り着いたのは謙也。
宍戸の部屋に辿り着いたのは金太郎、千歳。
向日の部屋に辿り着いたのは一氏、小春。
ジローの部屋に辿り着いたのは丸井、ジャッカル。
日吉の部屋に辿り着いたのは財前。
鳳の部屋に辿り着いたのは幸村。
そして、美麗の部屋に辿り着いたのは赤也だった。
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